赤ちゃんが発熱!解熱剤、本当に使ってもいいの?使いどきは?【小児科医が解説】
赤ちゃんに少し熱があると来院したお母さん。これからさらに熱が上がる可能性を考えて、解熱剤(げねつざい)を持っているかと陽ちゃん先生がお母さんに聞くと、赤ちゃんへの解熱剤の使用について心配している様子。そこで陽ちゃん先生は、お母さんに解熱剤の役割や使いどきをやさしく説明し始めます――。
赤ちゃんやママ・パパにいつもやさしく寄り添う陽ちゃん先生こと、小児科医の吉永陽一郎先生が、日々の診察室で起きた、印象深いできごとをつづります。先生は育児雑誌「ひよこクラブ」でも長年監修として活躍中です。「小児科医・陽ちゃん先生の診察室だより」#24
赤ちゃんに解熱剤を使うことが心配なお母さん
先日来院したのは、少し熱がある赤ちゃんとそのお母さん。赤ちゃんに軽いせきの症状はありますが、胸の音もきれいで薬の処方は必要なさそうでした。
――今の状態だと、薬を出す必要はなさそうです。ただ、これから今以上に熱が上がるかもしれませんね。解熱剤は持っていますか?
「いえ、持っていません。あまりそういった薬は使わないほうがいいと思いまして…」
――そうですね。解熱剤は病気そのものを治す薬ではないので、使わなくて済むなら、なるべく使わずに済ませたいですよね。
「ええ。でも、どうして病院では解熱剤を処方するんでしょうか?子どもの身体に余計なものを入れたくないので、解熱剤を使うのが心配で…」
発熱とは、免疫の働きを活性化させて病気と闘う武器のひとつだという考え方もあり、むやみに下げないほうがいいという記事をよく見ます。このお母さんのように、解熱剤の使用を必要以上に心配する人も増えています。
もちろん、解熱剤は薬ですので使わなくて済むに越したことはありません。しかし、いちがいに使ってはいけないというものでもないのです。
解熱剤とは、発熱のつらさをやわらげたいときに有効な薬
まず、発熱のしくみから説明しましょう。体にウイルスや細菌が入ると、それらと闘うために脳が体温の設定を上げ、それにより体温が上昇します。
体は、脳が設定した体温まで上げるため、手足の血管を狭めて手足から体温が逃げないようにしたり、筋肉の運動を使ってがたがたと体をふるわせ、体温を上げたりしようとします。発熱時に手足が冷たくなったり、悪寒で体がふるえたりするのは、そのためです。
「熱が高いのに、どうして手足が冷たいのかなと思った事がありました」
――そうですよね。手足を冷たくしてでも、身体の中心の熱を上げようとしているんですね。
「ふるえるのは、寒いからではなくて、熱を作るためなんですか」
――寒いところに行くと、身体が震えますよね。それも自分の体を温めようとしているんですね。
そのときの脳の理想の体温でなくなると、脳は全身の筋肉に指令を出し、小刻みにふるえさせます。これをシバリングといって、たくさんの熱を作ることが確認されています。
だから、熱が出そうなときや体温が上がりかけのときに、つらいからといって体を冷やして熱を下げようとするのは考えものです。体を冷やすと、なかなか脳が設定した体温まで上がらないため、悪寒などのつらい症状がより長引いてしまいます。
それでは、熱でどうしてもつらいときはどうするか。体を冷やすのではなく、脳の設定温度を下げてやりたいものです。その設定温度を一時的に下げるのに、解熱剤が有効なのです。
解熱剤を使ってもいいのはどんなとき?
「自分で熱を上げているのに、薬で下げてもいいんですか?」
――熱があると、食欲が出なかったり、眠れなかったり、怖かったりと、体力が消耗します。そのような症状が強いときには解熱剤を使ってもいいと思います。
「だって、解熱剤で病気は治らないんでしょう?」
――そうですね。確かに病気を直接治すものではありませんが、病気が治らなくなることもありません。つらい時間を短く出来れば、睡眠も食欲も改善して、病気の回復にもいいかもしれません。
「じゃあ、つらさを軽くする薬だと思えば良いですか」
――その通りです。熱が高くても、すやすや眠れているなら使わなくていいでしょうし、痛みや不機嫌が強いようなら使ってみてもいいでしょう。
「解熱剤は小さい子でも安全なんですか?」
――アセトアミノフェンという成分の薬を使います。いろいろな会社から違う名前で出ているので確認が必要ですが、小児科で処方されたり、子ども用として販売されたりしている薬はこれだと思っていいでしょう。たまにイブプロフェンという成分も使われることがありますが、少ないですね。
また、赤ちゃんにも使えますが、生後半年を過ぎてからにしましょう。それに、必ず医師の診察を受けてください。
「ほかにも解熱剤ってあるんですか?」
――はい。大人の鎮痛解熱剤といわれている薬は、他にもっとたくさんあります。でも、子どもには決して使わないでください。
「わかりました。なんだかあまり目くじらを立てて我慢させなくてもいいんだと思いました。上手に使うようにします」
――なにか心配なことがあったら、いつでも来てください。解熱剤以上に、十分な休養と睡眠をとることが大切だということを忘れないでくださいね。
文・監修/吉永陽一郎先生 構成/ひよこクラブ編集部