最新の小児白血病の治療法。今は治らない病気ではない?薬の副作用は?【専門医】
小児がんの中で最も多い小児白血病。治療法の進歩で、治らない病気ではなくなりつつあるようです。小児白血病の大半を占める急性リンパ性白血病と急性骨髄性白血病の治療法について、国立成育医療研究センター小児がんセンター血液腫瘍科診療部長の富澤大輔先生に聞きました。
急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病ともに、治療のメインは化学療法
白血病は「血液のがん」です。がん細胞が急速に増える「急性」と、ゆっくり増える「慢性」に分けられ、小児白血病の大半は急性。急性には「急性リンパ性白血病」と「急性骨髄性白血病」があります。
「急性リンパ性白血病」とは?
白血球の一種であるリンパ球の成長途中に異常が起こり、がん化した細胞が増殖することで発症。小児がんの中で最もよくみられる疾患です。2~5才に発症することが多く、日本では年間約500人が新たに診断されています。
「急性リンパ性白血病」の治療法とは?
ステロイド剤と抗がん剤を組み合わせた治療を行います。ステロイド剤やメルカプトプリン(抗がん剤)は内服、アスパラギナーゼ(抗がん剤)は筋肉注射、そのほかの抗がん剤は静脈注射(点滴を含む)で投与します。また、髄注(※1)も行います。
治療の内容によって多少異なりますが、8~12カ月程度は入院治療が必要です。治療と治療のあいまに外泊したり、一時退院して自宅で過ごしたりすることが可能です。
※1 髄注/背中から針をさして、脳や脊髄のまわりを流れている脳脊髄液内に抗がん剤を注射する治療法
「急性骨髄性白血病」とは?
骨髄で血液をつくる過程で、未熟な血液細胞の骨髄系前駆細胞に何らかの異常が起こり、がん細胞が増殖することで発症。0~1才で発症の小さなピークがあり、その後は年齢とともに少しずつ増えます。日本では年間約180人が新たに診断されています。
「急性骨髄性白血病」の治療法とは?
抗がん剤を複数組み合わせた治療を行います。基本は静脈注射(点滴を含む)で投与し、急性リンパ性白血病と同じように髄注も行います。
治療の内容によって多少異なりますが、6~7カ月は入院治療が必要です。治療と治療のあいまの外泊や、一時退院も可能ではありますが、入院期間中の多くは治療薬を点滴しているか、「白血球が減って免疫が弱い状態」になっていることが多いため、ほとんどは病院で過ごします。
――治療は化学療法(抗がん剤や化学物質による治療)がメインとのこと。放射線治療や骨髄移植を行うことはありますか?
富澤先生(以下敬称略) 放射線治療は患部に放射線をあててがん細胞のDNAに損傷を与え、死滅させる治療法。小児白血病の治療で、放射線治療を行う機会は非常に少なくなっています。
骨髄移植については、骨髄血の代わりに、臍帯血(さいたいけつ)や末梢血幹細胞などを使って行うこともあるので、最近では「造血幹細胞移植」と呼びます。造血幹細胞移植は白血病の治療で最も強力なものですが、体に与える影響も大きいため、化学療法のみでは長期生存率が低いと考えられる場合のみ選択します。
小児の急性リンパ性白血病で、治療の最初(再発前)から造血幹細胞移植を予定するのは10%もしくはそれ以下、急性骨髄性白血病で、造血幹細胞移植を受けるのは30%前後と推定されます。
また、特殊なタイプの白血病では分子標的薬を使ったり、再発してしまった場合には抗体療法や遺伝子改変T細胞療法などの免疫治療が行われることがあります。
薬の副作用をできるだけ抑えつつ、長期生存のための治療を行う
ステロイド剤や抗がん剤はがん細胞を死滅させるために欠かせない薬ですが、非常に強力な薬なので副作用があります。それぞれの薬と副作用について解説します。
「ステロイド剤」とは?
ステロイド剤は、人の副腎皮質という器官から分泌されるステロイドホルモンを基礎にしてつくられる薬剤です。急性リンパ性白血病の治療において、ステロイド剤はとても重要な役割を果たします。
「ステロイド剤」の副作用について
ステロイド剤を長期に投与すると、血圧上昇、食欲増加、肥満、糖尿病、骨がもろくなる、感染症を起こしやすくなる、感情の起伏が激しくなる、目が痛くなる(緑内障)などの症状が出ることがあります。福作用を緩和する薬を併用しながら治療を継続します。
「抗がん剤」とは?
抗がん剤は「増える細胞を倒す薬剤」。そのため、白血病細胞だけでなく、増える速度が速い正常な細胞にも影響を与え、血液を作る力が一時的に抑制されます。でも、抗がん剤の副作用は一時的なので、ある程度の時間が経過すれば血液を作る力は回復します。その回復を待つ間、赤血球や血小板の減少に対しては輸血を行って対応します。
白血球の減少は輸血では補えないので、基本は回復を待ちます。白血球の回復を促す薬を使うこともあります。白血球が減少している間は免疫力が低下し、肺炎になる危険性があるので予防薬を服用します。
「抗がん剤」の副作用について
【脱毛】
髪の毛の細胞は増える速度が速いため抗がん剤の影響を受け、治療中は髪の毛が抜けます。抗がん剤投与後2週間程度で抜け始め、入院治療中は髪の毛がほとんどない状態に。しかし、治療が終われば髪の毛は生えてきます。
【口内炎、下痢】
粘膜の細胞も増える速度が速いので、口内炎が起こったり、下痢をしたりすることがあります。痛み止めなどを使って緩和します。
【吐きけ】
抗がん剤は吐きけを引き起こすため、吐きけ止めを使って予防します。
――白血病の治療は子どもの体にはかなり負担が大きいということでしょうか。
富澤 それは否定できません。化学療法で使用する薬はそれぞれに副作用がありますが、いずれも治療には必要な薬剤です。副作用を避けるあまり使用を控えすぎると、白血病が治る確率を下げてしまいます。白血病の長期生存がここ数十年でどんどん向上しているのは、抗生剤による感染対策などの補助治療が向上したために、強い治療が可能になったことが大きく貢献しています。
また日本では、輸血に対する検査は高い精度で行われているため、輸血が確実にできるようになってきたことも大きいです。しかし、輸血で感染症にかかるリスクがゼロではないため、輸血の回数は最小限にとどめるようにします。治療現場では患者さんの負担を最小限にすることをめざしつつ、治る確率が高くなるように治療を行っています。
セカンドオピニオンを求めたい場合は、正確な確定診断情報がそろってから
――白血病の治療は、子どもの将来を左右するとても重要なものです。セカンドオピニオンを求めたい場合、どのように申し出たらいいでしょうか。また、どのタイミングで行うのがベストですか。
富澤 セカンドオピニオンは患者さんの当然の権利です。診断した担当医に遠慮なく相談してください。
急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病ともに、最初の1~2カ月の治療(寛解導入療法)のやり方は、どこの病院でもほぼ変わりません。病型も含めた正確な確定診断情報がないと、セカンドオピニオンを受けた医師が、治療方針などについて意見を述べるのは難しいです。セカンドオピニオンを求めるのは、寛解導入療法後、担当医からその後の治療方針が示された後くらいのタイミングがいいのではないかと思います。
セカンドオピニオンを受ける受けないにかかわらず、白血病の治療は長期戦ですから、ママやパパが十分に納得したうえで治療を行うことが欠かせません。担当医と十分に話し合い、信頼関係を築いてほしいと思います。
取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
小児白血病を克服するには、ママやパパが白血病の治療法を理解し、医師と力を合わせて子どもに寄り添うことが大切です。