「料理は手作りじゃないと」呪縛から逃れる、働くママの新しい価値観『スキーマ』を作るには?【専門家】
育児や家事に加え、仕事も頑張る「働くママ」が増えています。忙しい毎日を送る一方で、「仕事も育児も中途半端になってしまう…」と悩む人も少なくありません。
自分を責めずに、充実した毎日を送るにはどうしたらいいでしょうか。認知行動療法を専門とし、女性の悩みに寄り添ってきた、臨床心理士の中島美鈴先生に聞きました。
ママ、パパ、それぞれが抱えている「古い価値観」によって、罪悪感が生じる
育児や家事に加え、仕事までこなす毎日はとても忙しいものです。そのため、ひとつひとつに割く時間が少なくなるのは当たり前だと中島先生はいいます。
「忙しいママたちは、現実に即した対応をする必要があります。もし家事をする余裕がなければ、食事は総菜や冷凍食品を活用してもいいし、掃除はロボット掃除機に任せても、本来であれば問題ないはずです。
でも、やっかいなことに、こうした方法を採用すると『子どもに手作りの料理を作らないなんて、私はひどい母親だ』『家事を手抜きしすぎている』など、ママが罪悪感を抱いてしまうケースが少なくないのです」(中島先生)
なぜこうした罪悪感が生じるのでしょうか。その原因は、私たちのなかには親世代から受け継がれた古い価値観が根づいているためです。
「身近な人から受け継いだ価値観を、私が専門とする『認知行動療法』という心理療法では『スキーマ』といいます。スキーマができるのは思春期ぐらいまでと言われています。物心がつく前に身につくため、本人にとっては存在して当たり前のものとなります。
スキーマはママだけでなく、パパにも存在します。しかも、生まれ育った環境によって異なります。たとえば、お正月の過ごし方にしても、ある家庭では『おせち料理は手作り、親せきを呼んでにぎやかに過ごす』スキーマがあるかもしれません。別の家庭では『商売をしているから、おせち料理も作らず、特別なことはしない』のが当たり前という場合もあります」(中島先生)
子どものころに築いたスキーマから抜け出し、『新しいスキーマ』を作る必要が
「新しい家庭を築き、環境が変わったあとも、現在の状況に合っていないスキーマにとらわれていると、我慢が増え、自分を追いこみかねません。
フルタイムで仕事をしているのに、『食事は毎回手作りするべき』といったスキーマに従おうとすると、疲れてしんどくなってしまいますよね?だから、従来のスキーマから抜け出し、ママとパパが築く家庭に合った『新しいスキーマ』を作ることが重要です」(中島先生)。
とはいえ、幼少時からはぐくまれたスキーマから抜け出すのは大変なことだそう。スキーマに従ったほうが居心地よく過ごせると刷りこまれているため、新しい価値観を築こうとしても、つい従来の考え方に戻ろうとしてしまうのです。
「時間はかかるかもしれませんが、ママとパパの新しい家庭に合ったスキーマを作っていきましょう。そのためには、思考パターンや行動パターンを変える必要があります。変えるには、以下の3つのやり方があります。
【1】自分の思考パターンや行動パターンを把握する
【2】ときどき立ち止まって自分を振り返る
【3】チャレンジして、新しい経験を積み重ねる」(中島先生)
次からは、3つそれぞれの項目を説明します。
【1】自分の思考パターンや行動パターンを把握する。
まずは、普段自分がどんな考え方や行動をしているかを把握することが大事だといいます。
「どんなに忙しくても、料理に手間をかけて疲れているとしたら、『どうしていつも手作りしようとしているんだろう?』と立ち止まって考えてみましょう。すると、『家庭の主婦は、家族のために栄養バランスがよく、彩りもきれいな料理を作らないといけない』といったスキーマに従おうとしていると気づくかもしれません」(中島先生)
自分がどんな行動をしがちかを理解するのも大切です。
「『パパと意見が分かれたとき、つい言いたいことを我慢して譲ってしまう』など、自分がどういう行動を取りがちかを理解しておくといいでしょう。自分の考え方や行動の傾向を把握していると、しんどい状況におちいったときに、『なぜその状態になったか』の原因を把握でき、解決策を考えやすくなります」(中島先生)
とはいえ、自分がどんな思考パターンにおちいりやすいかは意外と気づきにくいものです。
「友だちやママ友とのおしゃべりも、自分のことを客観的に見つめるきっかけになります。第3者の意見が聞けるため、自分にはない考え方を知ることができるのです。そのため、当たり前だと思っていたことも、別の人にとってはそうではないとわかります。『こうしたアイデアは思いつかなかったけど、確かにいい考えだな』と、新しい物の見方があると気づけるでしょう」(中島先生)
【2】ときどき立ち止まって自分を振り返る。
思考パターンを把握し、行動パターンを変えたつもりでも、いつの間にか元に戻っている場合も少なくありません。
ちょっとしたことでもイライラするなど、普段と調子が違うと感じたら、最近はどんな考え方をしていたかとか、どういう行動をとっていたかを思い出してみましょう。
「疲れがたまっているときなど、どうして疲労しているかを考えてみましょう。『そういえば最近、自分が頑張れば丸く収まると思って、家事も仕事も一人で抱えこんでいたな』など、原因となる自分の行動に気づくはず。そうすることで『もうちょっと人に頼ってみよう』など、軌道修正できます」(中島先生)
【3】新しいことにチャレンジして、経験を積み重ねる
小さいころから刷りこまれたスキーマから抜け出すのは大変だそうですが、経験を積み重ねることで変わっていくと中島先生は言います。
「快適さを覚えると、だんだん新しいスキーマになじんでいきます。たとえば、最初は抵抗があっても、実際に夕食に総菜を出してみたら、意外と子どもは喜んで食べてくれるかもしれません。手料理にこだわっていたのは自分だけで、周囲はそうでもなかったと気づいたり、料理の負担が減り、楽になったりする経験を積み重ねていくと、少しずつスキーマは変わっていきます。ただ頭で考えるだけでなく、実際に行動してみることで、古い価値観の呪縛(じゅばく)が解かれていくのです」(中島先生)
取材・文/齋田多恵、ひよこクラブ編集部
ひょっとすると、パパのほうに『食事は手作りするべき』というスキーマがある可能性もあります。こうした場合、夕食に総菜を出すのをよしとしないケースもあるかもしれません。でも、パパと敵対する必要はないそうです。
パパは、一緒に新しいスキーマを作っていく仲間。夫にも「自分には古いスキーマがある」と自覚してもらい、二人で新しいものを築いていくことが大切だといいます。