【医師監修】赤ちゃん、子どもの発達障害の1つ、チック症とは?チェックリストつき
チック症は、発達障害と総称される注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)、学習障害(LD)の近縁の障害と考えられています。チック症の特徴やかかわり方、専門家のサポートを受ける目安などについて解説します。
チック症とは?
本人の意思とは関係なく同じ動作を繰り返したり、音声を発したりしてしまうのが特徴です。軽症・重症にかかわらず、親の育て方や本人の性格に問題があって起こるものではありません。
「発達障害」は生まれつきの脳機能障害の“総称”
まず大前提として理解しておきたいのは、「発達障害」は単独の障害の診断名ではなく、基本的には注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症スペクトラム障害(ASD)、学習障害(LD)という3つの代表的な障害の総称です。発達性協調運動障害(DCD)やチック症、吃音(きつおん)は「発達障害」の近縁の障害と考えられています。
なぜ「発達障害」という総称で呼ばれるのかというと、どれも幼少期から症状がみられる、生まれつきの障害だからです。以下で「発達障害」と表す場合は、診断名ではなく、これらの障害の総称として使っています。
チック症は特徴的な動きや発声がみられます
チック症とは、「チック」という特徴的な動きや発声がみられる症候群です。たとえば動きの場合は、目を“パチパチ”させる、片目を“キュッ”とつぶる、目を“ギューッ”とつぶる、目を“クルッ”と回すなど、擬態語の表現が似つかわしい動きが見られます。
●「チック」には4つの特徴があります
・急に起こる
・すばやい
・なめらかではない
・繰り返される
動きは「運動チック」、発声は「音声チック」と呼ばれ、それぞれの典型的なものを「単純チック」と言います。
一方、「単純チック」よりややゆっくりとしていて、目的を持って行っているように見えるチックは「複雑チック」と呼ばれます。「複雑音声チック」の中には、言ってはいけない言葉を発してしまう「汚言症(おげんしょう)」も含まれます。
●チック症の特徴チェックリスト
【単純運動チック】
□目をはじめとする顔面の動きをする
□首をそらしたり振ったりする
□肩をすくめる
□体のあちこちが動く
など
【単純音声チック】
□せきばらいをする
□鼻を鳴らす
□「フッ」と息を吐く
□「ア」などの声を出す
など
【複雑運動チック】
□顔の表情を変える
□跳ねる
□触る
□じだんだを踏む
□においをかぐ
など
【複雑音声チック】
□状況とは合わない単語や語句を繰り返す
□汚言症(悪い言葉を繰り返す)
□反響言語(オウム返し)
など
チックが現れやすくなる状態は緊張、興奮、疲れなどが原因
チックは心理的および身体的な状態によって、多くなったり少なくなったりすることがあります。
●チックが多くなりやすい状態
・不安や緊張が高い
・不安や緊張から解放された
・興奮している
・疲れている
●チックが少なくなりやすい状態
・ほどよい緊張感をもって作業に集中している
・眠っている
チック症がたどる主な経過
チックが最も多く発症するのは4~6才で、多くは1年未満に消失しますが、慢性の経過をたどるケースもあります。チック症の子どもに寄り添い、適切なサポートができるようにするために、チック症がどのような経過をたどるのかを理解しましょう。
多くは1年以内に消失するけれど、1年以上続く重いチック症も
子どものチック症は、チックの種類と持続期間によって3つに分類されます。
●チック症の診断分類
前提条件/18才より前にチックの症状が現れた場合
・期間が1年未満→暫定的チック症
・続期間が1年以上→持続性(慢性)チック症
・続性(慢性)チック症で、複数の運動チックと1つ以上の音声チックがある→トゥレット症候群(「チック症の治療法や家庭でのサポートについて」参照)
チック症は子どもの約10~20%に見られ、そのかなりの部分は暫定的チック症です。
まばたきなど目の「単純運動チック」で始まることが多く、やがて、鼻をひくひくさせる、口をイーッと横に広げるなど、顔面のさまざまな動きも起こりやすくなります。
また、目のチックがしばらく続くと思ったら、鼻のチックになり、その次には口のチックが出てくる、というように、チックが出る部位が移り変わることもよくあります。
顔面だけでなく、体中に広がっていくこともあり、この場合は、頭→首や肩→腕や手…→足と、体の上から下に向かって進むことが多いようです。
持続性(慢性)チック症のピークは10~12才ごろ
単純運動チックの次に、複雑運動チックや単純音声チックが現れるようになり、その時期は9~11才ごろが多いとされ、さらに、複雑音声チックは11~13才ごろ現れることが多いと言われます。
持続性(慢性)チック症は10~12才がピークとされますが、ピーク後はチックが増えたり減ったりを繰り返しながら軽快に転じ、約90%は大人になるまでに改善の方向に向かっているという報告があります。
チックに先立って現れる感覚に、「前駆衝動」と呼ばれるものがあり、11才ごろに気づきはじめ、14才ごろはっきりと認識するようになるといわれます。前駆衝動はチックに密接に関連する症状として重要視されています。
●前駆衝動チェックリスト
□ムズムズ、チクチクする感覚がある
□チックを出さなくてはいられないような感覚が起こる
チック症の治療法や家庭でのサポートについて
チック症の多くは一定期間で収まるので治療は不要ですが、チックがあってものびのび生活できる環境を整えることと、子どもの様子をよく観察することが重要です。また、チック症が1年以上続いた場合は治療を行う必要があります。
重いチック症は薬物療法や認知行動療法を行うこともあります
軽症であれば、経過を観察していくうちに改善することが多いですが、1年以上続く場合は薬物療法や認知行動療法を検討します。
チックが1年以上続く場合は、まずはかかりつけの小児科に相談してください。必要と診断された場合は、専門医のいる病院に紹介されます。
チック症の治療薬
・抗精神障害薬
・α₂アドレナリン受容体作動薬
チック症の認知行動療法
ハビットリバーサル
チックと一緒には行えず、しかもチックより目立たないことをするという認知行動療法。9才以上での実施が標準的です。
(例)音声チックが出そうになったら深呼吸をする、まばたきをしそうになったら目を見開く など
チックが1年以上続く「トゥレット症候群」とは?
トゥレット症候群は、複数の運動チックと1つ以上の音声チックが1年以上続いて慢性化したもので、さまざまな精神神経疾患を併存するのが特徴です。6~10才ごろ発症することが多く、子ども1000人に3~8人が発症するといわれています。
主な症状
何度もまばたきをする、頻繁に顔をしかめるなどから始まり、ジャンプを繰り返す、においをかぐ、鼻を鳴らすなどのほか、大きな声で奇声を発したり、同じことを大声で繰り返したりするように。さらに、不謹慎な言葉を発したり、骨折するまで自分を痛めつける自傷行為に発展したりします。
脳内神経伝達物質のドーパミンが過剰に活動することが原因と考えられていますが、詳しいことはわかっていません。
治療方法
完治は難しい病気ですが、ドーパミンの活動を抑える神経遮断薬などの薬を服用すると症状が緩和します。
チック症の子へのかかわり方「やっていいことダメなこと」
チック症は心配しすぎるのも放置するのもNG。本人の長所を生かし、チックがあっても前向きに生活できるようにサポートすることが重要です。
チック症の子へのかかわり方 やっていいこと
〇「チック症も子どもの個性の1つ」と受け入れる
〇子どもが気にしていたら「心配しなくて大丈夫だよ」と優しく説明する
〇子どものストレスになりそうなことは取り除く
〇一緒にゆっくり過ごす時間を作る
〇生活リズムを整える
〇保育園・幼稚園、学校の先生にも同様の対応をお願いする
チック症の子へのかかわり方 やってはダメなこと
×「チックが出てるよ」と注意する
×親がおろおろしたり心配したりする姿を見せる
×チックをまったく無視する
幼児期のチック症は自然に治ることも多いので、気にしすぎるのはよくませんが、子どもが困らないようにサポートする必要はあります。また、長引く場合、治療が必要になることもあるので、子どもの様子をよく観察し、適切なタイミングで専門医の指導を受けることも大切です。
取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部