アトピー性皮膚炎の新しい治療「プロアクティブ療法」とは?【専門医】
アトピー性皮膚炎の治療で多いのが、「ステロイドを塗っている間は調子がいいのにやめると再発する」という悩みではないでしょうか。東京慈恵会医科大学葛飾医療センター助教・小児科医の堀向健太先生にアトピー性皮膚炎の治療について聞きました。
再発を繰り返すアトピーは、悪化する前から対応してしっかりおさえる
「ステロイド外用薬を使ったアトピー性皮膚炎の治療にはリアクティブ療法とプロアクティブ療法といわれるものがあります。ステロイド外用薬を塗って、よくなったら一度止め、悪化したら再度塗り始めるというのは、リアクティブ療法です。アトピー性皮膚炎の7~8割は軽症で、その多くはこのリアクティブ療法でも治療が可能です。
しかし、再発を繰り返す場合にはプロアクティブ療法を行うことが望ましいです」(堀向先生)
プロアクティブとは前もって(pro)動く(active)治療法、すなわち「悪化する前に動く、行動する」という意味が込められていると言います。
「ステロイド外用薬を使用してアトピー性皮膚炎の湿疹がよくなっているように見えても、重症であればあるほど、皮膚の下には炎症が残ってしまうことが多いのです。まだ炎症が残っているのにステロイドを中止すると、また湿疹が出てしまうのです。そこで、ステロイド外用薬を、副作用を軽くしながら効果的に使っていきながら少しずつ減らしていくのがプロアクティブ療法です」(堀向先生)
治療歴や年齢、症状によって方法は人それぞれ違う
堀向先生はこれまで、プロアクティブ療法を経て、最終的にはスキンケアのみで皮膚が安定した患者を多く見てきたと言います。具体的にはどのような治療を行うのでしょうか。
「プロアクティブ療法はステロイド外用薬を定期的に長期間使う治療法です。定期的に、といっても毎日使用するわけではありません。ゆっくりとステロイドの使用する回数を減らしていくのです。その場合、『悪化してから使うのではなく、悪化する前に計画的にステロイドを使う』のです。週2回程度であれば、半年~1年程度の期間使用しつづけていても、皮膚炎の悪化は少なくなるうえ(※1)(※2)、ステロイドの使用量は変わらずアレルギー体質も悪化しにくくなるという研究結果もあります(※3)。ただし、ステロイド外用薬を減らすためには適切なスキンケアを行う必要があります。そのため、毎日2回以上の適切なスキンケアができるか、皮膚が安定していても定期的に受診できるか、が治療を始める前提条件になると、私は考えています。具体的なステロイドの量や期間は、治療歴や年齢、症状によって違うので、受診を続けながら医師の話を聞いてください、ということですね」(堀向先生)
とくに治療歴と年齢は重要です。重症でありながら思春期になるまで不十分な治療を継続していると、プロアクティブ療法でも治療の難易度が上がってくるそうです。
「アトピー性皮膚炎はなるべく早いうちにスキンケアと治療を開始することが重要です。小さいときに重症であるほど、年齢が高くなるまで持ち越しやすいという研究結果もあるのです(※4)。2歳以上では、ステロイド外用薬のような副作用が出にくい外用薬も登場しているので副作用を避けやすくなっています。そして高校生以降は生物学的製剤といって、アレルギーを悪化させる情報伝達物質を止める薬を使えるようになりました。とても有効な薬剤なのですが(※5)、高額でもあり考えながら行う治療になります」(堀向先生)
通いやすい一般の小児科クリニックをまずは受診
ステロイドは、毎日使い続けると皮膚が薄くなるなどの副作用があります。そのため、プロアクティブ療法は繊細なコントロールが必要で、習熟した医師の指導が欠かせないと言います。
「小児アレルギー学会に所属している医師にプロアクティブ療法をしたことがあるか調査をしたところ、約8割が行ったことがある、という結果が出ています(※6)。医師によって多少の経験値の違いはあるものの、ある程度プロアクティブ療法は定着してきたと考えられると思います」(堀向先生)
ママやパパは繊細な治療法、というと専門医がいいのでは、と思うかもしれませんが、大切なのは「定期受診をすること」と堀向先生は言います。定期受診を考えて、通いやすい小児科クリニックを選びましょう。
「たとえば、日本アレルギー学会や日本小児アレルギー学会に所属している医師が目安になるでしょう。もちろんそれだけではありません。アトピー性皮膚炎が得意な医師かどうかは、具体的なスキンケア指導があるかどうかで見極めるといいと思います。そして、できればママやパパがアトピー性皮膚炎の基礎知識をある程度身につけてから受診すると会話がスムーズになり、治療も順調に進みやすくなるでしょう」(堀向先生)
アトピー性皮膚炎の基礎知識を学べるツールとして、独立行政法人環境再生保全機構の『ぜん息悪化予防のための小児アトピー性皮膚炎ハンドブック』がおすすめだとのこと。
無料でダウンロードができます。
『ぜん息悪化予防のための小児アトピー性皮膚炎ハンドブック』
取材・文/岩崎緑、ひよこクラブ編集部
※1)Tang TS, et al. J Allergy Clin Immunol 2014; 133:1615-25 e1.
※2)Fukuie T, et al. J Dermatol 2016; 43:1283-92.
※3)Fukuie T, et al. J Dermatol 2016; 43:1283-92.
※4)Thorsteinsdottir S, et al. JAMA Dermatol 2019; 155:50-7.
※5)Han Y, et al. J Allergy Clin Immunol 2017; 140:888-91.e6.
※6)二村 昌樹他.日本小児アレルギー学会誌 2016; 30:91-7.
患者側が基礎知識を身につけてから受診すると、医師も話がしやすく、また、患者側も医師のアドバイスが理解しやすくなるそうです。「こまめに受診をして医師としっかりコミュニケーションをとってほしい」が堀向先生からのアドバイスです。なかなか治らないアトピーで困っているなら、プロアクティブ療法を行っている医師に相談してみましょう。
『ほむほむ先生の小児アレルギー教室』(丸善出版)
アレルギーのしくみや治療法、薬のことなどを漫画やイラストを交えた授業形式で堀向先生がわかりやすく解説。