【小児科医リレーエッセイ 30】 1カ月健診、ぜひお父さんもご一緒に
「日本外来小児科学会リーフレット検討会」の先生方から、子育てに向き合っているお母さん・お父さんへの情報をお届けしている連載です。今回は、静岡県・パルモこども診療所院長の三田智子先生から、初めての育児に向き合っているお母さん・お父さんたちへの応援メッセージです。
お父さんのハートをわしづかみ
初めての赤ちゃんとの生活、子育てはちょっとしたことでも不安だし、わからないことが多く悩ましいですよね。それは当然のこと。自分が赤ちゃんだったころの記憶はほぼ無いし、今の若いお母さん・お父さんたちの身近なところには、赤ちゃんがいない環境だったかも知れないので、赤ちゃんをお世話するチャンスも子育ての様子を観察した経験がない人も多いと思います。
そんな中での子育て、楽しさもあるけれど不安のほうがずっと大きいと思います。今までの小児科医リレーエッセイでも、そのあたりの話は何回かありましたのでぜひ参考になさってください。
今回は、初めて赤ちゃんを迎えたお母さん・お父さんたちに、ちょっとにっこりしていただけるようなお話をしたいと思います。赤ちゃんとの触れ合いの仕方を小児科医的な観点からお伝えしたいと思います。
妊娠中には妊産婦健診があるように、生まれた赤ちゃんにも乳幼児健診という制度があります。
母子健康手帳を開いてみると、出産時の記録に続いて産院を退院するまでの記録があり、そのあとに1カ月健診、3・4カ月健診と赤ちゃんの健診のページが続きます。1カ月健診については、以前は産後1カ月のお母さんの健診と一緒に、お産をした施設(産院など)で受けられることが多かったと思います。最近は赤ちゃんの1カ月健診を小児科のクリニックで受ける方が増えています。そしてうれしいいことに、お母さんだけでなくお父さんも一緒に来院されることも年々増加しています。そんな両親で来院された1カ月健診の場面をご紹介します。
もちろん主役の赤ちゃんの診察を丁寧に行い、さまざまな項目をチェックしていきます。そうしながら、短いようでとても長く感じたであろうこの1カ月間の様子などを聞き取り、初めての子育てのご苦労をねぎらいます。プロの言葉でお母さんの奮闘ぶりをしっかり評価して差し上げることは、この先の長い年月を夫婦で子育てを継続していくにはとても大切だと感じています。そんな時にお母さんはほっとしたような、また少し誇らしげな表情をされ、お父さんがねぎらうようなまなざしをお母さんに向けてくれると、私たちは正直よかった!と実感します。
赤ちゃんのグーの形の小さな手
一カ月検診のタイミングでいつもしていることをお教えします。赤ちゃんはその小さな手をジャンケンのグーの形に握っていることが多いですよね。そのグーの手の甲を“さわさわっ”となでるとあら不思議、赤ちゃんの手はパーの形に開きます。すかさず私がお父さんの手をつかんでその人差し指を赤ちゃんの開いた手のひらに押しつけると、赤ちゃんがお父さんの指をぎゅっと握ります。これは小さな赤ちゃんに備わっている原始反射というもので、魔法でも何でもありません。でも自分の指を小さなわが子の手にぎゅっと握られてお父さんはグッと来て感極まって涙ぐむ方さえいます。
お母さんは妊娠中からおなかの中で育っていく新しい命を日々体感し、出産という人生の一大イベントを経て、授乳をくりかえし、どんどん母親街道を歩んでいきます。ではお父さんはどうでしょう。大きくなっていくパートナーのおなか、出産、退院後の同居など親道をステップアップする機会はあるものの、お母さんに比べればいまひとつ実感に乏しいのではないでしょうか。赤ちゃんのお世話は授乳(母乳ならなおさら)をはじめ、やはりお母さんが主体にならざるを得ない状況もなかにはあります。
でも、赤ちゃんは一方的にお世話を受けるだけの受動的な存在ではありません。泣いて大人からのお世話を引き出し、適切なお世話には安らかな寝顔やおだやかなほほえみでしっかり評価もし、クークーと喉声を発し、大人の指などをぎゅっと握りしめてその心までがっちりつかむこともできる存在なのです。赤ちゃんってすごい!
お口の次に大切な手のひら
赤ちゃんの体の部位で最も敏感なのはお口です。これは授乳することが赤ちゃんの生存に必要不可欠なので当然ですね。でも手のひらもとても大切な部位なのです。上の図は“ペンフィールドの支配野区(※)”という昔から知られている大脳皮質の支配分野図です。手のひらの部位がずいぶんと大きいことがわかります。手のひらを刺激してあげること(赤ちゃんであれば手を握りあう、握らせる、安全なおもちゃを持たせる)ことで脳にいい刺激を与えるといわれています。ぜひお試しあれ。
※ペンフィールドとはヒトの脳の大脳皮質の機能地図を作り上げた脳神経外科医