賢い子はスマホで何をする?デバイスの活用法を知らないとスマホが悪者に【専門家】
2020年度から全ての小学校でプログラミング教育の必修化が始まりました。とはいえ、ママ世代にとっては「プログラミングって何?」「どうやって子どもに教えたらいいの?」といった疑問をはじめ、子どもがスマホやタブレットに触れることに抵抗を感じる風潮も見受けられます。そこで今回は、日本のデジタル教育を先導してきた石戸奈々子さんに、自宅でもできるプログラミング教育の導入の仕方と、スマホに代表されるデバイスの活用法について教えてもらいました。
教えてくれた人
石戸奈々子さん
CANVAS代表、株式会社デジタルえほん代表取締役、一般社団法人超教育協会理事長、B Lab所長、慶應義塾大学教授。東京大学工学部卒業後、マサチューセッツ工科大学メディアラボ客員研究員を経て、子ども向け創造・表現活動を推進するNPO「CANVAS」を設立。これまでに開催したワークショップは3000回、約50万人の子どもたちが参加。著書には「日経プレミア 賢い子はスマホで何をしているのか」はじめ多数執筆。デジタルえほん作家、一児のママとしても活動する。
子どもたちの好きをデジタルと結び合わせる
プログラミングを学ぶには、どのようなことから始めるのが望ましいのでしょうか。石戸さんが主催するワークショップでは、「自分が描いた絵を動かしてみよう」といったことから始めると言います。子どもたちは、「キャラクターをジャンプさせたい」「一回転させてみたい!」などそれぞれのアイデアを出し、「そのためにどんなプログラムを書けばいいんだろう?」と考え、思い描いた動きを生み出すための方法を実践と共に身に付けていきます。
プログラミングの言語を習得することが目的ではなく、「自分の好きなゲームを作ってみよう」「作曲をしてみよう」というように自分の好きな世界を広げることから入り、自分のアイデアをプログラミングにより実現する体験を通し、楽しみながら学ぶことができます。「“プログラミングを学ぶのではなく、プログラミングで学ぶ”ことにより、物事を論理的に考え、課題を解決する力や、他者と協働して新しい価値をつくり出す力を生み出していって欲しい」と石戸さんは、言います。
実際に子どもたちは、プログラミングという“もの作り”を通して、自らの知識を構築していくそう。
例えば、テニスゲームを作りたいという小学生が、ボールを滑らかに飛ばすために三角関数を学び始めたり、自分の作品が海外の子に賞賛され、その子と交流したいがために英語を学び始めたりと、子どもたちが自ら課題を掲げ、解決を図る姿をこれまで何度も見てきたと言います。「プログラミングは、創造や表現のためのツールです。自分の好きなことにコンピューターを組み合わせると、そこには無限の可能性が広がるのです」。
保護者の学ぶ姿勢が子どものチャレンジ心をうながす
プログラミングに興味があるからと、必ずしもプログラミング教室に通う必要があるかと言えば、いまはたくさんの選択肢があると指摘する石戸さん。望ましいのは「お子さんの関心に沿った環境を用意すること」だと言います。
「プログラミング教室に通わなくても、ネットには無料ツールや情報がありますし、書籍も玩具もたくさん販売されています」。子どもの気持ちに寄り添いながら、まずは身近なところから情報を取得し体験してみるのがいいのかもしれません。
導入としては、「自分の好きなことを通してコンピューターというツールを活用して楽しむ」ことが1番だと話します。「音楽は好きだけれど、作曲はハードルが高いと思っていた子どもにとって手軽に作曲体験をする機会にもなります。絵が好きな子どもが、自分の描いたキャラクターが動き映像を作ることができたら感動します。そんなワクワクする体験がプログラミングに興味を抱くきっかけになる場合もあります」。
そのためには、保護者の理解を深めることも大切だと言います。「プログラミングは、これからを生きるすべての人たちにとって必要なスキルです。保護者である私たちにとっても無縁ではありませんから、一緒に学ぶと良いですね。大人になっても一生学び続ける時代なのだということを、親の背中を見せて教える姿勢こそ、子どもたちにとっての最高の学びになるのではないでしょうか」と説きます。
スマホが悪いは、思い込みの可能性も
最後に、デジタルの必要性は理解できても、根源として「子どもにデバイスを与えてもいいの?」という疑問点が残る方もいるかと思います。
家事の最中や公共施設等、場面によっては子どもにスマホを手渡し、動画を見せたり、ゲームをさせたりと、今や育児の中でスマホを活用することは決して珍しいことではありません。しかし、そういった中で問題視されているのが、育児をしながら保護者がスマホを使用したり、スマホやタブレットを子どもに委ね、好きな動画を好きなだけ見せたりといった“スマホ子守り”です。
“スマホ子守り”について石戸さんは、「スマホが問題なのではなく、コンテンツや使用法の問題」と指摘します。例えば、子どもが2時間スマホを利用して、「ドリルをやっていた」とわかれば、その「学ぶ」という行為自体に子どもを叱る保護者はいないのではないでしょうか。けれど、保護者が教育上、良くないと思う動画やゲーム利用することで、「スマホは良くない」と判断したり、それらデバイスに乳幼児期から触れることに抵抗を感じる風潮が日本には根強くあります。
一方、デジタル教育に前向きな保護者でさえも、「デジタルを導入すれば賢くなるんですか?」と質問を受けることもあるそう。石戸さんは、「それは『鉛筆を持てば賢くなるんですか?』という質問と同じ。大切なのはツール(デバイス)をどう活用するか、どういうコンテンツを選ぶかです。教育的な動画や学習効果の高いアプリも数多くありますから、どういった目的でデバイスを活用するかの判断が大事です」と提言します。
子どもたちに対して無責任にデバイスを渡すのではなく、良い使い方ができるように教えてあげることが私たち大人の責務だと石戸さん。プログラミング教育同様、まずは保護者が理解を示し、学ぶ姿勢にこそ、子どもたちの可能性も無限に広がるのでしょう。
取材・文/佐藤文子