あるものが不足すると取り返しのつかない発達の遅れに⁉ 子どもの脳を育てるために伝えたいこと
赤ちゃんの脳は生まれてから劇的に発達し、6才までに大人の約95%の重量になるといわれます。2021年10月初旬に行われた明治主催のオンラインセミナーで、予防・医療コンサルタントの細川モモ先生は「乳幼児期の栄養が不足してしまうと、取り返しのつかない発達の遅れをもたらすこともある」と言います。5才と1才6カ月の姉妹を子育て中である細川先生の「脳をはぐくむために大切な栄養について」の講演内容をリポートします。
育脳に欠かせない3つの栄養素とは?
乳幼児期は脳が急激に成長する時期。2才児の脳の重さは生まれたときの約3倍になり、運動能力、言語能力などにも著しい発達がみられます。そのため、乳幼児期にはバランスのいい食事を心がけ、エネルギーと栄養をきちんととることが大切です。
「とくに育脳の観点から注目したい栄養素は“DHA(ドコサヘキサエン酸)”“タンパク質”“鉄分”の3つです。
DHAは神経組織に多く含まれる脂質で、脳内では記憶をつかさどる海馬という部分に、とくに多く存在します。タンパク質は脳そのものの材料となり、物理的な重量の増加を担っています。鉄分は脳の神経回路の増設に必要な栄養素で、体の各器官に酸素を運ぶヘモグロビンの材料でもあります。とくに脳は、体の中でもっとも多くの酸素を必要とするので、鉄分をとることは脳の発達にとても大事です」(細川先生)
1才前後の赤ちゃんは貧血になりやすい
「乳幼児期の脳の発達の観点でとくに気をつけたいのが鉄欠乏」と細川先生はいいます。乳幼児期(0~2才ごろ)に鉄分が不足すると、運動発達、言葉の理解のほか、長期的には学習面やコミュニケーション能力、情緒の安定などに影響を及ぼす可能性も指摘されているのだそうです。
「実は赤ちゃんは1才前後で貧血になりやすいといわれています。その理由の1つは、赤ちゃんがママの胎内にいるときにママからもらった体の中の鉄分を使い切ってしまうこと。2つめの理由は生後6カ月ごろから、母乳中に含まれる鉄分が減少すること。この2つの理由で、離乳後期ごろから鉄分不足になりやすいのです。赤ちゃん特有の鉄欠乏性貧血について、日本では全国的調査は行われていません」(細川先生)
日本での乳幼児の貧血状態を調べるため、細川先生が代表を務める一般社団法人ラブテリでは、2018年から日本各地で親子の栄養状態や鉄分状況の測定をする取り組みを行っているとのこと。
「2019年に2〜5才の子ども106名のヘモグロビン測定を行った結果、約4割の子どもに貧血の疑いがあるという結果が出ました。この調査は採血不要の測定器を使ったため数値の誤差が否定できないこと、貧血の原因が必ずしも鉄分不足とは限らないことを考慮しても、私は日本の子どもの鉄分不足は思った以上に深刻だと考えています」(細川先生)
3回の食事で1日に必要な鉄分を満たすことは難しい
脳を育てるために大切な栄養素「DHA」「タンパク質」「鉄分」 の中でも、鉄分は吸収率が悪く、食事だけで必要量を満たすのはかなりハードルの高いことなのだそうです。
「1~2才の幼児が必要な鉄分の摂取推奨量は4.5mg/日といわれています。これをたとえば牛の赤身肉でとる場合、1日に166gも食べなければいけないことになり現実的ではありません。
海外では小麦や米、豆などに鉄分を添加する試みがされていますが、日本ではまだそこまでの動きはありません。ママたちも、鉄分が大切だとわかっているけれど、鉄分補給のためにはとくに何もしていない人が多いです。推奨量まで摂取するのは難しいとしても、鉄欠乏を防ぐために、ぜひ毎日の食事で工夫してとるようにしてほしいと思います」(細川先生)
鉄分には、吸収率が20〜30%の“ヘム鉄”と、吸収率が2〜3%の“非ヘム鉄”があります。“ヘム鉄”は赤みの肉やレバー、魚などの動物性食品に含まれ、“非ヘム鉄”はほうれん草、大豆、ひじきなどに含まれます。
「鉄分を摂取する意味では、“ヘム鉄”を含む動物性タンパク質を積極的にとるといいでしょう。また、ビタミンCやクエン酸は鉄分の吸収を助けるので、野菜や果物も合わせてとると効果的。脳にとって、タンパク質や脂質・炭水化物・ビタミンなどをバランスよく摂取することがとても大切です」(細川先生)
バランスよく栄養をとるための工夫を教えて!
栄養バランスがとれた食事が大事、とわかっていても、毎日のこととなると意識して料理をするのもなかなか大変です。普段の食事で頑張らなくても続けられる効果的な栄養のとり方について、細川先生は以下のように話します。
【1】鉄分を多く含む加工食品を利用する
かつおぶし、ツナ水煮缶、さば水煮缶などは鉄分とDHAが同時にとれるし使いやすい加工品なので、おかずに取り入れたり、塩抜きをしておかゆやごはんにのせてもいいでしょう。幼児食期になったら、味が濃すぎない鶏そぼろ、牛そぼろ、鮭フレークなども活用しても。
【2】おやつに鉄分補給のものを
乳幼児期の子どもはそもそも食べる量が少なく、食事だけでは鉄分不足になってしまいます。鉄分を含んだヨーグルトや、ビスケット、ベビーせんべいなどのおやつも合わせてとるといいでしょう。
【3】ベビーフードを活用しよう
フリーズドライや粉末タイプのレバーを溶かして、肉だんごやハンバーグのつなぎに使うと、手軽に鉄分がとれるのでおすすめです。
【4】離乳後期以降はフォローアップミルクもOK
フォローアップミルクは十分な鉄分量が含まれているので、離乳完了期を過ぎたら飲ませてあげるといいかもしれません。煮ものやスープなど離乳食や幼児食に使うのもいいですね。
取材協力/明治 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
1才ごろの赤ちゃんが貧血になりやすいとは、驚いた人も多いのではないでしょうか。鉄欠乏を防ぎ、赤ちゃんの脳を健やかに育てるためにも、毎日の食事やおやつでバランスよく栄養をとることが大切です。
※この記事は、2021年10月初旬に行われたオンラインセミナーの講演内容をもとに執筆しています。