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「NICUにいる赤ちゃんと会える」母子の愛着形成を促すオンライン面会システムを作った阪大病院小児科の今

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新生児集中治療室(以下NICU)に入院している赤ちゃんに会えない家族のために、大阪大学医学部附属病院(以下、阪大病院)の総合周産期母子医療センターでは、オンライン面会システム“OSAKA-Nシステム”を開発しました。資金は2020年9月から11月までの2カ月間にクラウドファンディングで集め、2021年の7月から本格的に運用を開始しています。システム担当の小児科医北畠康司先生に、現在のオンライン面会システムの運用状況について話を聞きました。

オンライン面会と直接面会を併用して赤ちゃんと家族をつなぐ

――現在の阪大病院NICUの面会状況を教えてください。

北畠先生(以下敬称略) 2021年8月の緊急事態宣言のころは、産後入院中のママ以外は完全面会禁止となっていましたが、9月中旬ごろから現在は、直接面会は午前10時から午後5時まで、1家族につき1日1回、30分としています。以前阪大病院NICUでは24時間面会可能な体制を取っていました。新型コロナの感染状況が落ち着いてきたので、そろそろ24時間面会の再開に踏み切ろうか、というところにオミクロン株のニュースがあり、まだ再開のめどは立っていません。

オンライン面会も直接面会と同様に午前10時から午後5時、1日1回、30分としています。試験運用時は1時間以上の利用も検討しましたが、実際に始めてみると30分くらいがちょうどいいようです。面会禁止の期間は入院している赤ちゃんのすべての家族がオンライン面会を利用されていました。会いたいときにいつでも会える、と思えるところに安心感があったようです。

――では、現在は直接面会とオンライン面会の両方の面会方法を利用できるのですね。

北畠 はい。毎日の直接面会ができるようになってオンライン面会は使用されなくなるかな、と思っていたのですが、現在も入院中のご家族の半数がオンライン面会を利用しています。ママの体調が悪くて直接来られないときや、上の子が小さいから一緒に来られないとき、パパが仕事で来られないとき、など、オンライン面会と直接面会を上手に組み合わせて利用されています。

――実際のシステムの利用はどのように行っているんですか?

北畠 まず、NICUに赤ちゃんが入床すると、看護師が赤ちゃんに割り当てられたバーコードをスキャンして、システムに登録をします。するとシステムの説明用紙が発行されるので、お母さん・お父さんはそれをもとにメールアドレスとパスワードを登録します。自宅などでパソコンやタブレット端末のインターネットブラウザからシステムにログインし、面会予約をするしくみです。予約が確定され面会時間になると、赤ちゃんとオンライン面会ができます。

――システムに登録するだけで、手軽にオンライン面会ができるのですね。

北畠 そうです。このシステムの大事なポイントが2つあります。1つはセキュリティー。ログイン時には2段階認証にし、安全性が担保されるようにしました。
もう1つは無理なく続けられること。既存のオンラインミーティングでは、事前に予約時間を決めて、看護師がミーティングURLを発行する手間が考えられますし、利用する家族が急に時間を変更したいときにもメールなどのやり取りをする必要があります。その点、“OSAKA-Nシステム”は利用者が直接サーバーに利用したい時間を登録できるので、何回でも面会予定の変更が可能です。
看護師は、面会の予約時間を見てシステムを赤ちゃんのベッドの横に移動し、システムに赤ちゃんのIDをスキャンするだけですので、スタッフにとっても負担が少なくてすみます。

システム運用開始から5カ月。利用者とスタッフの声は?

点滴台にタブレット、バーコードリーダー、カメラが取り付けられた“OSAKA-Nシステム”

――以前の取材で、オンライン面会システムを稼働してスタッフの負担がどのくらいになるかを懸念されていましたが、開始から5カ月たって、いかがですか?

北畠 開始当初はネットワークの不具合などで困ったこともありましたが徐々に慣れてきました。今は大きなストレスや問題もなく運用できており、よかったと感じています。

また私たち医療従事者は、母子の愛着形成を促すとても大切な新生児期に、赤ちゃんと家族の面会を制限していることをとても心苦しく思っています。看護師からも「オンライン面会で家族がつながる時間を作ることができてホッとした」「赤ちゃんを見た家族からよろこびの言葉をいただくと、やってよかったと思える」という声が上がっています。

――利用した家族からはどのような声が届いていますか?

北畠 緊急事態宣言下の完全面会禁止の時期は、ママやパパにとって、赤ちゃんに会えない、見えないことがすごく不安だったと思います。オンライン面会ではママやパパは抱っこできませんが、代わりに看護師が抱っこし、ミルクをあげて大切にかわいがっている姿を見ることができ、安心していただけたのではないでしょうか。自分の赤ちゃんに愛情を注いでくれている人がいると知ることで、不安な気持ちが和らぎ、気持ちを落ち着かせることができると思っています。

また、ある家庭では上に2人のきょうだいがいて、オンライン面会中もにぎやかすぎてママがオンライン面会に集中できず、赤ちゃんの様子もなかなか見られない、ということがありました。でもそのママは「家族が大騒ぎしている声を赤ちゃんに届けることで、赤ちゃんに“こういうにぎやかなおうちに帰るんだ”ということを知ってもらえるのがうれしい」と話していました。考えてもみなかったことですが、たしかにそうですよね。赤ちゃんに家族の様子が伝わるのも、いいことだと思います。

“OSAKA-Nシステム”のこれから

――今後のオンライン面会システムについて教えてください。

北畠 10月に国内のNICU・GCU(新生児回復室)施設を対象に、“OSAKA-Nシステム”を半年間無償で貸与するプロジェクトを立ち上げ、公募を行いました。その結果、神奈川、広島、大阪にある3つの施設が採択となりました。このシステムがさらに多くのNICUで利用されることと、面会システムの使い勝手や機能についてフィードバックをもらうことを目的としています。

たとえコロナ禍でないとしても、NICUに入院している赤ちゃんに毎日面会できることは、都会だけのぜいたくともいえます。地域によっては県内にNICUが数カ所しかなかったり、片道数時間かかったりすることはよくあります。そういう地域にこそオンラン面会システムが必要です。医療のデジタル化は進んでいますから、オンライン診療・オンライン面会は進めていくべきだと考えています。

ただ少し問題なのは、オンライン面会は診療報酬の対象ではないことです。一生懸命開発して面会できるようにしても、病院に報酬が入るわけではないので…(笑)。だけど、コロナ禍の下ではもちろんのこと、コロナによる面会制限がないときでも赤ちゃんと家族がつながる時間を作ることはすごく大事ですし、患者さんの家族はとっても喜んでくれるのでやりがいを感じています。

――では、赤ちゃんの健康を守りながら、家族との愛着形成をはかるために、今後の面会方法についてどのように考えていますか?

北畠 ‟家族との面会は治療の一環”と考えていますから、やはり24時間の直接面会は再開しなくてはいけないと思っています。家族の愛着形成は大事ですが、一方で医療というのは感染対策がすごく大事です。阪大病院が面会制限をしている中でNICUだけ24時間面会をするのも難しい面もあります。病院の方針や世の中の感染の度合いも見て、バランスを取りながら、直接面会とオンライン面会の両軸を進めていきたいと考えています。

お話・画像提供・監修/北畠康司(きたばたけやすじ)先生 

取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部

現在運用している“OSAKA-Nシステム”は、タブレットなどの機器を点滴台に取り付けたもの。機器を点滴台に取り付ける部品は、北畠先生自ら道具屋さんを回って探したのだとか。「手作り感満載ですよね(笑)。でもこれがけっこう使いやすいんです」と北畠先生。スタッフや利用者の声に耳を傾けながら、赤ちゃんと家族の絆(きずな)を守るため、よりよい方法を追求し続けています。

※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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