赤ちゃんの“知恵熱”?? 正体不明の熱に隠されている病気とは【小児科医が解説】
その日来院したのは、39度の熱が出たという11カ月の男の子と、そのお母さん。熱以外の症状はとくにないため、お母さんは、赤ちゃんの頭が発達するときに出る“知恵熱”ではないか?と考えているのこと。
そこで陽ちゃん先生は、知恵熱とは病名ではないこと、この表現が生まれた由来などを、お母さんにやさしく説明します――。
赤ちゃん、ママやパパにいつもやさしく寄り添う陽ちゃん先生こと、小児科医の吉永陽一郎先生が、日々の診察室で起こった、印象深いできごとをつづります。先生は育児雑誌「ひよこクラブ」でも長年監修として活躍中です。「小児科医・陽ちゃん先生の診察室だより」#36
39度の熱が出たけれど、とくにほかの症状はない赤ちゃん
「先生、熱が出ました」
そういって病院を訪れたのは、11カ月の男の子と、そのお母さんです。
――そうですか。せきや鼻水はどうですか?
「それが何にもないんです。なのに、39度まで熱が上がりました。家族からは知恵熱じゃないかと言われているのですが…」
――では、とにかく診察してみましょうね。
診察すると、わずかにのどが赤いようですが、胸の音もきれいで、中耳炎でもありません。
――のどが少し赤いようですが、そのほかに目立った所見もないですね。ひとまずは咽頭炎(いんとうえん)、つまりのど風邪だと思っていていいんじゃないでしょうか。
「え?知恵熱ではないんですか?」
――お母さんは、知恵熱ってどんなものだと思っていらっしゃいますか。
「そりゃあ、赤ちゃんが脳をたくさん働かせて、脳が発達するときに出る熱じゃないんですか?」
――なるほど。今回は熱以外の症状もないので、脳が働きすぎたかなと思われたんですね。
「そうですが、違うんですか?」
知恵熱という言葉は、赤ちゃんが突然熱を出したときに使われる俗称です。
ある特定の病気をさしているのではなく、「急に熱が出たよ」といったたぐいの言葉です。
歩き始めたり、言葉が出始めたりする時期のことなので、発熱と同時に赤ちゃんが少し発達したように見え、この表現が使われ出したようです。
――だから、本来は知恵熱という名前の病気や症状はないんですよ。
「なぁんだ。じゃあ、熱が出ているから、その分脳が発達しているというわけではないんですね」
――そうですね。むしろ健康や発達を妨げる病気じゃないかどうか、きちんと見ておく必要がありますね。
昔から知恵熱と間違われやすい、ある病気とは?
「先生、のど風邪でこんなに熱が高くなることってよくあるんですか?」
――それはめずらしくないと思います。一緒に中耳炎の症状がある事もあります。今回は中耳炎はないようですけどね。
「そうですか。ほっとしました」
――ただ、せきなどの症状がないことや、のどの赤くなり方から、突発性発疹(とっぱつせいほっしん)という病気の可能性があると思います。
「え、それはどんな病気なんですか?」
――高熱が3日くらい続き、熱が下がるころに体や顔に発疹が出る病気です。生後半年から3歳ごろまでかかる病気ですが、とくに10カ月前後に多いです。
ただし、突発性発疹であればほぼ問題なく治りますし、発疹も3日くらいでひくと思います。
「うちの子もそれなんでしょうか」
――このあと発疹が出ればそうでしょう。今回のように、昔は知恵熱といわれていたけれど、実は突発性発疹だった、ということは多かったんじゃないかなと思っています。ちょうど歩き始めたり、最初の言葉が出たりしそうなころの病気ですからね。
「じゃあ、知恵熱って“知恵がつくための熱”じゃなくて…」
――“知恵がつくころの熱”、ですね。
文・監修/吉永陽一郎先生 構成/ひよこクラブ編集部
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