「やめなさい!」子どもが話す性の話に嫌悪感…「子どもとどう向き合う?」迷う母たちが医師監修の情報を発信
「あかちゃんはどうやって生まれるの?」
もし子どもに聞かれたら、どんな風に答えますか?
「子どもが聞くことじゃない!」 怒りますか?
「子どもは知らなくていいの」 ごまかしますか?
「……」 ドギマギして答えられませんか?
今回話を聞いたのは、家庭でできる性教育サイト『命育(めいいく)』を運営する宮原由紀さん。宮原さんの子どもたちがまだ小さかったころ、姉と弟が自分とは違う身体や性器に興味をもってとった行動に対して、思わず大きな声をあげたと話します。それをきっかけに、同じような経験をもつママたちと『命育(めいいく)
』を立ち上げ、医師専門家の監修のもと、幼児から中高生の子どもをもつ保護者に向けて、さまざまな性教育情報を発信しています。
ママクリエイターが性を伝えるサイトを制作
親として、ひとりの大人として、子どもと向き合い、性についての知識を身につけることは、自分だけでなく他人も大切にすることでもあると話す宮原さん。どのように子どもと性の話をするのか、大切にすべきことは何か、話を聞きました。
性教育サイト『命育』を立ち上げたきっかけ
――― 宮原さんが「命育」の活動を始めたきっかけを教えてください。
我が家には、小学4年の長女と1年生、4歳の男の子の3人の子どもがいます。
上の二人がまだ就学前だったある日、一緒にお風呂に入っていたのですが、自分とは違う身体や性器に興味をもったようでお互いに触ろうとしたんです。本当にびっくりしました。
今思えば、子どもたちは「自分とは違うものがついている、どんなんだろう?」という純粋な気持ちだったと思います。でもその瞬間、私にはものすごい嫌悪感が湧き上がってきて、「やめなさい! 何やっているの!」と大声で止めました。でも、子どもたちはなぜ怒られているのかわからず「ポカン」としていましたけれど……
その様子を見て、ハッとしました。子どもたちの行動に私が思っているような性的な意味はまったくなかったのに。「良くない反応をしてしまったな」「なんて言えば良かったんだろう」と考えてしまいました。
男の子、女の子、それぞれの身体についてどう説明したらいいか、なぜお互いの性器を触ったらいけないのかなど考えたこともなかったし、ましてどう伝えたらいいかなんてまったくわからなくて、ネットで検索してみたんですよね。でも、「これだ」と思えるような情報がなく、なんとなくモヤモヤした気持ちが残りました。当時(2018年頃)は、今以上に子どもの性に関する情報をネットで探すのは難しい状況でしたから。
『命育』の立ち上げメンバーにも同じような経験がありました。実はそのなかのひとりに性教育経験のある中学校の元保健体育の先生がいたのですが、それを知ったときに子どもの性別も年齢も違うママたちが、彼女にさまざまな質問をぶつけたんです。
私たちにはたまたまそばに疑問に答えてくれる相手がいました。でもきっと多くの人はそうではありません。そこで、世の中に性教育に関して知りたい情報が載っているサイトがないのだったら、自分たちから発信しようと『命育』を立ち上げました。
アダルトサイトを子どもが見てしまったときの適切な対応は?
――― ネットでなんでも検索できてしまう便利な世の中になりましたが、一方で子どもたちに見せたくないような性についての有害な情報もたくさん出回っています。
ひと言で有害な情報といってもいくつかの種類があると思います。例えば、年齢にそぐわない情報。ひと昔前なら本がなければ目に入らなかったようなことが、3歳の子でも簡単にアダルトサイトが見られてしまいます。また、小さい子を狙ったりレイプまがいの行為だったりなど犯罪に結びつく可能性のある動画もあります。
そのなかには、例えば「女性は嫌がっているように見えても本当は喜んでいる」などの事実とは異なる情報も混じっています。そしてそれを本気で信じているような中高生も少なからずいると聞きます。
今の子どもたちが単語ひとつで年齢問わず不適切なサイトにアクセスしてしまったり、本人は意図していなくても広告をクリックしたらアダルトサイトに飛んでしまったりなどのリスクにさらされている点は、私たち保護者の世代にはなかったことです。
実際に、命育に届く保護者からの声には、小さな子どもが性的な動画を見ていた、子どもが使ったパソコンの検索履歴に「おっぱい」とあった、などインターネットの性情報に関するお悩みも多くあります。
――― 子どもたちをそれらの情報から守るためにできることはありますか?
スマホのフィルター機能や、家庭ごとのルールを話し合うことなどが基本的な対策かと思います。しかし実際にはそれだけでは防ぎきれません。そんなときの大切なのが、保護者や身近にいる大人の行動だと思います。
例えば、小さい子が意図せずアダルトサイトを見てしまったときに、大人が「怖かったよね」「びっくりしたよね」と、子どもの気持ちを代弁してあげると、「性=怖いもの」というイメージを植えつけずに済むかもしれません。
例えば子どもが好奇心からアダルトサイトを見ている場面に遭遇したとき、「何見ているの!」とつい言ってしまいがちです。しかしそう言われたことで子どもは「悪いことをした」という思いを抱いてしまうかもしれません。そんなときは子どもが性について罪悪感をもたないようなケアが大切だと考えています。
また、子どもが自らアダルトサイトにアクセスする中高生くらいになったときにぜひ伝えていただきたいのが、「アダルトサイトの多くは、例えば、避妊の場面が描かれていなかったり、お互いの同意を得てなかったり、胸を強調して大きいおっぱいの方がいいといったり、実際とは違う意識を植え付けているということ」です。
保護者が心がけておきたいことは?
子どもに直接言うことのハードルが高いようであれば、性の情報が載っている本や動画、youtubeなどを見せる方法もありますね。
とはいえその子の置かれた状況やそれぞれの家庭の価値観等によっても異なるので、「何が正しいか」は一概には言えません。まずは保護者が見て、専門家や医療的な監修が入っているか、また、エビデンスに基づいているかなど、信頼できるソースの情報を選ぶことが必要だと思います。そのうえで、各家庭の価値観に合う情報源を教えてあげてはいかがでしょうか。
一方的な禁止ではなく、保護者自身のアダルトサイトに対する価値観を伝えたり、性の知識を得られる情報源を教えてあげたりしながら、子どもたちが「性」とのつき合い方を学ぶことができると良いですね。
父親を性教育から除外しないで
―――性教育をする際、男女で違う点、気をつける点はありますか?
初潮や精通など、身体の発達については男女それぞれに違うと思いますが、それ以外は同じでいいのではないかと考えています。
例えば、性犯罪という観点で考えると、被害に遭うのは女性だというイメージがあり、平成元年の犯罪白書でも実際に女性の方が多く被害に遭っているというエビデンスもあります。しかし、実は子どもを狙う性犯罪は、性別に関わらず女の子も男の子も被害に遭っているのです。女の子には「気をつけて」と言うのに、男の子には言わない、では子どもを守れません。だからこそ、性別に関わらずプライベートゾーンについて伝えておくことはとても大切なことだと思います。
――― 性教育するにあたって、父親の役割を教えてください。
はい、もちろんです。特に子どもが男の子の場合、同性の父親だからこそ、体について話すことができますし、思春期になると異性の親よりも性の話がしやすいこともあるでしょう。でも子どもが小さいうちは、子どもにとって信頼できる大人、おとうさん、おかあさんという信頼できる大人から話を聞くことが大切だと思います。
「命育」は、立ち上げてすぐあるおとうさんから「父親を性教育から除外しないでほしい」というメールいただいたこともあって、父親も意識したサイトにしています。
命育では、定期的に性教育イベントも実施していますが、おとうさん向けのイベントを開催したときには、定員はすぐに埋まってしまいました。改めて子どもの性について理解したいおとうさんがいるのだなと実感しています。
<宮原さんプロフィール>
Siblings合同会社 CEO、性教育サイト「命育」(https://meiiku.com/)代表。
大学卒業後、大手メディアやインターネット企業を約15年経験し、現職。子どもへの性教育に課題意識を持つクリエイターたちと、医師専門家協力のもと命育を立ち上げる。サイト運営の他、園や学校、PTA、地域などと連携して、多方面から家庭での性教育をサポートする活動に取り組む。3児の母。
<宮原さん著書>
著書『子どもとの性の話、はじめませんか?ーからだ・性・防犯・ネットリテラシーの伝え方』(監修:産婦人科医 高橋幸子、出版:CCCメディアハウス)