仕事の引継ぎ、育休取得。「最初の1カ月が一番大変でした」突然やってくる赤ちゃんに喜びと戸惑い【養子を迎えた夫婦】
民間の養子縁組あっせん機関のアクロスジャパンを介して、特別養子縁組制度で男の子を家族に迎えた長谷川拓也さん(仮名・41才)・由香さん(仮名・47才)夫婦。初めて拓海くん(仮名)を抱っこした日から、待ちに待った家事審判が確定した現在までの様子について聞きました。
(上の写真は7カ月とき、お昼寝中の拓海くん)
拓海を迎えた翌日から仕事の引き継ぎを開始。この1カ月がいちばん大変でした
長谷川さん夫婦は民間の養子縁組あっせん機関に養親候補として登録するとき、男の子の名前に「拓海」を候補に挙げていました。そして「拓海くんが生まれたよ」と担当者から連絡があって5日目に、入院育児実習で拓海くんに初めて対面したそうです
――その時の気持ちを教えてください。
由香さん(以下敬称略) 最初に私が抱っこしたのですが、思わず発した言葉は「ちゃんと動いてる~」。すごくきゃしゃで、動いているのが不思議な感じがしてしまったんです。
拓也さん(以下敬称略) 妻から拓海を渡されて抱っこしました。ちっちゃくて壊れそうで怖かった。3500gで生まれたので新生児としては立派なものですが、初めて抱っこしたときの緊張感は今も忘れられません。私たちに託してくれた実親さんに代わってこの子を幸せにしなければいけないと、気持ちが引き締まりました。
――2人ともフルタイムでお仕事をされています。おうちに迎えてからの育児と仕事はどのようにやりくりしたのでしょうか。
由香 養子縁組でも育休が取得できます。会社には養子を迎えるつもりであることと、育休を取るつもりであることを前もって相談していました。ただ、妊娠から産休、育休と進む通常の育休と違い、養子の場合はいつ赤ちゃんを授かるかわかりません。「子どもは突然やってくるので協力してください」と、上司や仕事を引き継いでもらう同僚などに説明し、理解してもらいました。子どもを迎えたら1カ月間で仕事の引き継ぎをして、翌月から1年間育休に入る、ということで了承を得ていました。
――拓海くんを迎えてから1カ月間はお仕事をされていたわけですよね。とても大変そうです。
由香 コロナ禍で私は完全リモートワークになっていたので、出社せずに仕事を引き継ぐことができました。とはいえ、拓海の世話をしながらリモート会議に参加するのは無理。育休前の1カ月間は親子3人で夫の実家に泊まり、仕事中は夫の両親に拓海のお世話をお願いしました。今のところ、この1カ月がいちばん大変でした。両親の助けなしには乗りきれなかったと感謝しています。
長年家族ぐるみで仲よくしている友だち夫婦に「養子を迎えた」と話して驚かれました(笑)
――育休前の1カ月間は拓也さんの両親がとても協力してくれたそうですが、特別養子縁組で子どもを授かることを伝えたときは、何か話されていましたか。
拓也 長い間不妊治療をしていたのを知っていましたし、「2人が決めたことなら応援する」と言ってくれました。実際、拓海のことはとてもかわいがってくれています。
由香 私の両親は遠い県に住んでいるため、コロナ禍でまだ会わせることができていないんです。会えるのを心待ちにしていて、LINEのビデオ通話で様子を知らせると、いつもとても喜んでくれます。
――拓海くんを授かったことを、家族以外の周囲の人たちにはどのように知らせましたか。
拓也 一斉に報告するようなことはしていません。先日、子どもが生まれた友だちの家に遊びに行った時、「実はうちも子どもを授かって…」と報告したんですよ。養子を考えているという話もしたことがなかったので、すごく驚いていました。それはそうですよね。でも、「同学年だね」と喜んでくれて。こんなふうに徐々に知らせていけばいいかなと考えています。
由香 私たちが住む地域は共働きが多いのか日中は不在な家庭も多く、近所づきあいがさほどないので、拓海を抱っこして買い物に行ったりしても、とくに驚かれることはないです。ただ、急に赤ちゃんの泣き声がしたら、近隣の方に不審に思われたりするかな…と思い、不動産屋さんにだけは伝えました。
――拓也さんは育休を取る予定はありますか。
拓也 今はリモートワークがメインになっているので、あえて育休を取るまでもないかなと思っています。仕事をしながらも、1日の育児の流れは理解できますからね。でも、夜の世話だけは育休中の妻に任せて、寝させてもらっています。
由香 育児全般なんでもやってくれますよ。1年後に私の育休が終わって仕事に復帰したら、すべて2人で分担し、一緒に拓海を育てていこうと話しています。
――引っ越しを予定されているとか。
拓也 今の家は夫婦2人で住むことを前提に決めたので、親子3人暮らしにはちょっと手狭なんです。拓海にはのびのび育ってほしいから、3LDKの家に引っ越すことを決めました。
もうすぐ入籍。どんなことも夫婦2人で乗り超え、拓海を守っていきたい
――やっと家事審判が確定し、拓海くんを長谷川さん夫婦の子どもとして入籍する今、やりたいことはありますか。
拓也 死産した子どものお墓参りに親子3人で行って、「弟ができたよ。あなたの分まで大切に育てるよ」と報告に行きたいと考えています。それから、妻の両親に早く会わせたいですね。これは新型コロナウイルスの感染状況次第ではありますが…。
――養子を迎えようと決めてから今日までを振り返り、特別養子縁組を考えている夫婦にアドバイスなどありましたらお願いします。
由香 子育ては夫婦が同じ方向を向いていることが大切だと思いますが、特別養子縁組で子どもを授かるためには、よりいっそうそれが大切だと感じています。夫婦っていちばん身近な存在だけに、実は気を使って言えないことがありますよね。でもそこを踏み越えないと、気持ちを1つにして進むことができません。たくさん話し合ってお互いが納得することがとても大切だと思います。
拓也 夫婦2人で過ごす日々も楽しいし、一概に子どもがいることが必須ではないと思います。それでもやっぱり子どもがほしいと望むかは、お互いが納得するまで話し合うことが重要ですよね。子どもを迎えるということは、子ども中心の生活になり、その子の一生に責任を持つということ。そこの考えが一致していれば、特別養子縁組で子どもを授かるのはとてもすてきなことだと感じています。夫婦二人でどんなことも乗り越えて、拓海を守っていこうと思います。
【アクロスジャパン・小川さんより】育休をスムーズに取得するために、勤務先には事前に相談を
勤務先にも養子縁組でお子さんを迎える予定であることを事前に相談することで、育休中の仕事の引き継ぎや事務諸手続きもスムーズになります。特別養子縁組でも、育休制度や育児給付金などが利用できます。
お話・写真提供/長谷川拓也さん、由香さん 取材協力/アクロスジャパン 小川多鶴さん 監修/林浩康先生(日本女子大学人間社会学部社会福祉学科教授) 取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
「拓海が笑いかけてくれるだけで心が温かくなります」とうれしそうに語ってくれた長谷川さん夫婦。2人で心を1つにして特別養子縁組の道を選んだからこそ得られた幸せなのだと感じました。
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