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20年後に活きるかもしれない子どもの弱さを決して潰さない 「マイノリティデザイン」の著者澤田智洋さんにインタビュー

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世界ゆるスポーツ協会代表理事の澤田智洋さん

常に競う相手がいて、勝つことが前提の学校教育が当たり前だった日本。少しずつ社会は弱者にも優しくなってきているとはいえ、勉強などで求められる強さや速さ、効率の良さに、ついていけない子どもたちがいます。その「弱さ」を活かすチャンスは、いつかきっと来るので、保護者はそんな子どもたちの「弱さ」を決して潰さないこと。そして、子どもの研究者になって見守ることが大切だと、「世界ゆるスポーツ協会」の澤田智洋さんは言います。そして、その子らしさを見つけたら、今度はその部分をどうやって伸ばすかを考えていけばいいと教えてくれました。

前編の「弱さ、苦手、障がい。全てのマイノリティは社会の伸びしろ」に続いて、強さや効率を求められがちな今の日本で、親として子どもにどう寄り添っていけばいいのかを聞きました。

子どもの弱さを潰さずに、子どもの研究者になる

ーーー 「弱さ」の可能性を子育てに置き換えるとどうなるのでしょうか?

澤田智洋さん(以下澤田、敬称略) 学校の授業はどんどん進んでいくし、塾にも行かなくてはならないし、受験も迫っているし……。そんななかで子育てをしている方が、「『弱さ』の可能性」を感じるのは難しいと思います。だから、子どもがその状態を嫌がらないのであれば、今はそのままでもいいと思うんです。

でも、もし今、子どもに「弱さ」を感じているのであれば、その「弱さ」は絶対に潰さないでください。今は、役に立たない「弱さ」でも、20年後に活きる可能性は十分にありますから。

僕の場合がまさにそうで、34歳のとき「世界ゆるスポーツ協会」を立ち上げました。体育の授業が嫌でたまらなかった僕が、将来スポーツが苦手という弱さを活かすことになるなんて、小学校4年生、10歳の頃には全く予測できませんでしたからね。

平均寿命が延びている日本では、いつか自分の弱さが何かとかけ合わさって、思わぬ形で良い影響を及ぼす可能性も極めて高いと思っています。だからこそ親は、子どもの弱さを潰さないことが大切なんです。

ーーー とは言っても、目の前にいる子どもが学校に行けなかったり、苦しそうにしていたりしたら、親もつらくなってしまいます。

澤田 例えば、不登校になる子どもの何割かは、勉強などで求められる強さや速さ、効率の良さについていけない、向いていないのだと思います。実際に不登校の子と話していてもそういう話題が出てきます。

もし、自分の子どもが不登校になってしまったり、そういう状態になりそうだったりした場合は、つらいかもしれませんが、社会基準の強さは一度捨てちゃっていいと思うんです。「そんなに学校を休んでいると勉強についていけなくなるよ」と言いたい気持ちは抑えて、学校や隣近所の同世代の子のことはいったん忘れて、「この子らしさってなんだろう?」と、自分の子どもの研究者になるといいと思います。そして、その子らしさが見えてきたら、その部分をどうやって伸ばすかという方向に切り替えて考えてみてください。

子どもの「強さ」だけではなく、「弱さ」やその子らしい「雑味」に着目して、「どういう瞬間に活き活きしているのか」を見極めることから始めれば、自然と子どもとの向き合い方は変わっていきますし、「弱さ」や「その子らしさ」を育む目線がもてるのも親なのだと思います。

これからの社会が求めるのは、「その人にしかできないこと」をもっている人

盲学校の生徒が大胆に、豪快に、自由に書くブラインド書道

ーーー これからは、どんな人が社会に求められるようになっていくと思いますか?

澤田 社会起業家やユーチューバーなど、新しいルールを作ったり、小さくても自分だけの物語を立ち上げたりしている人たちが支持を集めていることからもわかるように、これからの社会が求めるのは、「その人にしかできないこと」をもっている人です。決して強くなくても、人間味や「その人らしさ」を活かせる人の方が強い時代になってきていますから。

例えば、目が見えないうちの息子には「字」という概念はありませんが、通っている盲学校には「書の時間」があります。「どんなふうに授業をするのか」と先生に聞いてみると、例えば「大胆に」「豪快に」のような抽象度が高いテーマに沿って、生徒たちは半紙に自由に書くといいます。実際に学校に行くと、見たことのないような書がいっぱい学校に貼られています。

「書が書けない」ことは、そのままにしておけば弱さでしかありません。見える子と比べてしまうと、「なぜ文字が書けないんだろう?」という疑問で悶々としてしまったり、「見える子と同じように書きなさい」と強い方に追随したりしてしまうと思うんです。

でも僕は、この書を見た瞬間に、「めちゃくちゃいいな。この弱さを活かせないかな」と考えました。そして、目が見えない人の「書が書けない」という弱さに着目して、「ブラインド書道」というジャンルを立ち上げ、企業と連携してネクタイを作ることにしました。

ーーー まさにプロデュース力ですね。

澤田 子どもが活き活きする瞬間を目撃すると、親として鳥肌が立ったり、頬が高揚したり、心拍数が上がったりなどする瞬間が必ず訪れます。しかし、それらの価値は、世間全般の見方に照らし合わせてしまえばスルーすることになってしてしまいがちです。

でも、自分の身体感覚やセンサーに鋭敏になれさえすれば、子どもの伸びしろや、これから価値につながるかもしれない「弱さ」や「雑味」を見つけられるかもしれません。僕自身、親として、そういう前提で、息子を研究、観察しながら接しています。

もう一つ、歴史を勉強するのがとても好きな僕は、何かを考えるときは、常に目の前にある常識や社会通念、社会規範が「今の時代に限定されたものである」ことを前提にしています。そう考えれば、自分の子どもが漢字の書き取りができなくても、「300年前、500年前は怒られていたのだろうか」と考えれば、目の前にある常識の脆さに気づくことができるんです。

その人の雑味や弱さを仕事という形でプロデュースし新たな価値に転換する

「特業」という新しい働き方のジャンルのひとつ「ジャッジマン」

ーーー 「弱さ」を活かすためにプロデュースするという考え方は、子育ての参考になりそうです。

澤田 僕が好きな『江戸商売図』という本を見て、江戸時代には今では考えられないようなユニークな仕事や働き方もいっぱいあったことを知り、江戸時代にあったユニークな働き方を令和の新しいジャンルとして蘇らせられないかと、「特業」というプロジェクトを進めています。

例えば、肢体不自由の車椅子ユーザーで、若干発語が困難だけど、審判が大好きな男の子の「ジャッジマン」。その仕事は、誰かが悩みを打ち明けると、独断と偏見で「アウト」か「セーフ」かを答えます。これまで世界になかった仕事です。普通だったら、審判が上手というだけでは切り捨てられてしまうだろう彼の雑味や人間味にフォーカスして、仕事という形でプロデュースして、新たな価値に転換しました。

最近、彼は「ジャッジマン」という名刺を持って営業しています。名刺がないと「この子は障がいがあるんだな」などというバイアスがかかり、彼の第一印象は偏見から始まってしまいます。しかし「初めまして。ジャッジマンです」と名刺を渡すと、障がいではなくて、「ジャッジが得意だ」という彼のもっとも活き活きと輝く側面にフォーカスされるのです。

こんなふうに「特業」というフレームを作ったことで、子どもの弱さも含めて、資本主義で活かされない能力を、みんなで活かしてみようという前向きな発想が生まれました。
僕は今、障がいのある子どもや彼らのお父さん、お母さんと連携して、そういう環境を作っていこうと活動を続けています。


取材・文 / 米谷美恵、たまひよ編集部  画像提供 / 澤田智洋

※記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

澤田智洋さん

PROFILE
世界ゆるスポーツ協会代表理事/コピーライター

1981年生まれ。幼少期をパリ、シカゴ、ロンドンで過ごした後17歳の時に帰国。2004年広告代理店入社。映画「ダークナイト・ライジング」の『伝説が、壮絶に、終わる。』等のコピーを手掛ける。東京2020パラリンピック閉会式のコピーライターとしてコンセプト開発を担当。2015年に誰もが楽しめる新しいスポーツを開発する「世界ゆるスポーツ協会」を設立。これまで100以上の新しいスポーツを開発し、20万人以上が体験。海外からも注目を集めている。 また、一般社団法人 障害攻略課理事として、ひとりを起点に服を開発する「041 FASHION」、視覚障害者アテンドロボット「NIN_NIN」など、福祉領域におけるビジネスも多数プロデュースしている。著書に「マイノリティデザイン(ライツ社)」「ガチガチの世界をゆるめる(百万年書房)」。

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