生後7ヶ月で知った、長女の食物アレルギーは10項目以上。泣き明かした夜をこえて、今は小学校の給食を食べられるまでに克服。料理研究家ひろさんのお話【前編】
管理栄養士であり、サンキュ!STYLEライターなどプロの料理家として活躍中のひろさんは、8歳(小3)、6歳(小1)の姉妹、そして夫の4人家族です。
長女ちゃんは生後7ヶ月のとき、食物アレルギーがあると診断されました。血液検査によると疑いのある食べ物は10項目以上。現在は学校の給食が食べられるまでに克服したというひろさんが、「同じ境遇の方の参考になれば」と、その道のりを語ってくれました。2回にわたって連載します。
※今回のお話はひろさんと長女ちゃんの体験談です。食物アレルギーの症状はお子さんによって異なるため、アレルギーの治療については医師の指導のもとで進めてください。
最初の異変は、なかなか治らない“乳児湿疹”
「今から思えば最初の異変は長女が生後1ヶ月頃でした。肌荒れや湿疹がひどく、健診や近所の小児科で相談したら『乳児湿疹』と診断され、保湿剤で対応していました。けれども2ヶ月、3ヶ月経ってもなかなか改善しないので、アトピーかなぁと漠然と思っていました。
それが生後7ヶ月の時、離乳食でヨーグルトを与えたらものすごい反応があって。アレルギー対応の病院に駆け込んだら『多分、アレルギーでしょう』と。
頭が真っ白になりました。私は食物どころかアレルギー0だし、夫も花粉症程度です。え? なんで? どうして?という気持ちになりました。
その病院は『1歳になるまで詳しいアレルギー検査はしない』という方針だったので、その時は『アレルギーでも軽症かもしれない』という望みは持っていました」
その直後に夫の転勤で関西から四国へ引っ越すことに。ひろさんは新天地で見つけた食物アレルギーの専門医がいる病院へ赴き、そこで検査をします。すると鶏卵、小麦、牛乳の三大アレルギーに加えてアーモンド、くるみ、ゴマ、ジャガイモ、イカ、エビ、大豆、貝類など10項目以上で「アレルギーの疑いあり」という診断が出たそうです。
「その夜はただただ泣きました。泣いて気持ちを吐き出して、気持ちを切り替えました」
よくよく考えれば食べられない物よりも、食べられる物の方が多い!
「当時の四国の病院は『疑わしきはすべて排除』という完全除去の方針でした。
アレルギーの項目を改めて見直すと主食のお米がOK。実は夫の実家は米農家(笑) これはラッキーだったと思いました。ただジャガイモがダメってことは片栗粉もダメ。とろみの代用は何にする?と、考えたらタピオカが使えそう!とか、小麦粉がダメなら米粉かなぁ、お菓子NGでもフルーツは食べられる、じゃあ米粉とりんごジュースでケーキを作ってみよう、おやつはおせんべいがOKだな、などなど。創意工夫で乗り切ることが楽しくなってきました。
よくよく考えれば『食べられない物』よりも『食べられる物』の方が圧倒的に多いんです。
あれダメ、これダメと考えるよりもあれは食べられる、これも食べられるって考えた方が前向きになれますし」
やがて次女を妊娠・出産。長女ちゃん3歳、次女ちゃんが1歳のとき、再び転勤で中国地方へ引っ越します。転院先も日本アレルギー学会に登録しているお医者さんを選んだそうです。
そこは、食物アレルギーのガイドラインに基づいて『食べて治す』、いわゆる食物経口負荷試験による経口免疫療法を行う病院でした。血液検査をしてトライできそうな数値の食物を選び、医師の指導のもとで少量食べて反応がなければ、少しずつ増量していく治療方法です。
「通院当初は週1回の頻度で通い、最初は小麦を克服。次に鶏卵、ごま、大豆とどんどん克服しました。幼稚園入園後は、通院のペースは半年に1度となり、年長の時には手ごわかった牛乳も克服。今はくるみとエビに反応ありますが、小学校の給食にはくるみは出ないので、エビの時のみ学校の先生と相談してお弁当(おかず)を持参しています。それも年1回程度です」
ここまで聞くととんとん拍子でアレルギーを克服したように感じます。「長女ちゃんの食物アレルギーで一番困ったことは?」という、質問に対して「何だろー」と、考え込むひろ先生のひょうひょうとした人柄もあるとはいえ、夫の転勤にともない2回引っ越しがあり、さらに幼い次女ちゃんを連れての通院は並大抵ではなかったはずです。
夫の協力も大きく、気持ちを切り替えられた
ひろさんは、「やるしかない!」と気持ちを切り替えることができたと言います。
「夫の協力も大きかったです。長女の食事を区別したくなかったので、家族全員が同じものを食べていました。家の食事では、夫は文句を言うどころか楽しんでいるようでした。
夫は勤務時間は外食できますし、私も時にはこっそり隠れて焼きそば食べたりしてましたが(笑) 」
やがて米粉レシピのコンテストで入賞するなど、ひろさんはプロの料理家として活躍します。するとSNSを通じて食物アレルギーのお子さんをもつお母さんから連絡や相談がくるようになり、そこで驚きの事実を知ります。
ひとりで抱え込まず、ちゃんと通院して医師の指示で治療してほしい
「内容は、主に料理の質問や相談です。『お医者さんの指示に従った方がいいですよ』とアドバイスすると『実は通院していないんです』という。質問してくるお母さんのほとんどがそうでした。軽症なのかな?と、思いきやエピペンを常備しているお母さんもいました。
通院していない理由を聞くと『経口免疫療法でアレルギー反応がでたら、子どもがかわいそうで』と。治療に対する考え方は人それぞれなので、私もそれ以上は深く聞かないのですが……」
治療をためらう本当の理由はわかりません。けれども、ひろさんは「早めに治療をしてよかった」と言います。
「確かに治療は大変です。検査は1日がかりなので、幼い次女を連れての通院は大変でした。子どもはもちろん、付き添う親の方も。だから治療に後ろ向きになる気持ちもわかります。
でも私は早めに治療してよかったと思っています。
実は最近、長女がアレルギーの通院を嫌がるのです。アレルギー反応が出ることが不快だからです。今は年1回の通院ですが、それすら渋ります。記憶に残りにくい幼い時期に通院したので順調に克服できましたが、今ならあの頻度での通院は無理だったかも、と思っています。
あと病院で相談できないと、ネットの闇にハマりがちに(笑)
私も検索魔になりました。ネットを通して辛いのは自分だけじゃない、参考になるレシピがたくさんある、克服した話で心強くなれるなどメリットはあります。
ネットにはさまざまな体験談や食生活についての考え方があります。
私もナチュラルフードコーディネイターの資格をとりマクロビの勉強もしましたので、食生活の大切さはわかります。けれど食物アレルギーの症状は人によって異なるため、ひとりで考えこまずに信頼できるお医者さんと一緒に治療するのがいいと思っています」
次回の後編は、ママ友など周囲への伝え方、長女への言い聞かせ方、長女を連れての外食&旅行の際の工夫やおすすめのファミレスなどのお話を伺います。
最後にひろさん直伝、三大アレルギーのお子様も食べられる米粉レシピを紹介します。
米粉をつかった「キャベツとツナのふんわり焼き」
[材料]
・キャベツ 100g
・ツナ缶 1缶
・長芋 約50g
A かつお節 1パック
A 米粉 30g
・水 30~50ml
[手順]
1.キャベツはみじん切りにしておく
2.すりおろした長いも、水気をきったツナ缶、Aを加えてざっくりまぜる
3.全体に衣がからむ程度に水を加えたら、サラダ油をなじませたフライパンでひと口サイズで焼く
5.蓋をしめて蒸し焼きにし、中まで加熱。皿に取り出して、お好みでソースやかつおぶしをかける
※今回のお話はひろ先生と長女ちゃんの体験談です。食物アレルギーの症状はお子さんによって異なるため、アレルギーの治療については医師の指導のもとで進めてください。
ひろ
PROFILE)
小さなころから食べることが大好きで管理栄養士の資格を取得。妊娠中に野菜ソムリエの資格をとり、サンキュ!STYLEライター、Nadia artistなどプロの料理家として活躍中。インスタグラムでは“今夜何を作ろう?”と、いうママのお悩みに応えるシンプルな材料&手順のレシピや、ホットケーキミックス研究家として、家事の合間にささっと作れる本格スイーツレシピを紹介しています。プライベートでは姉妹の母。現在は克服しているが、長女の食物アレルギー(小麦・卵・乳・大豆など)があった経験をもつ。
取材・文/川口美彩子
※この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
※記事の内容は2023年4月の情報で、現在と異なる場合があります。