〈提言〉子どもの近視が増えた原因は?ゲームのやりすぎより問題になっていることとは?【専門医】
世界的に子どもの近視が問題になっています。とくに日本は近視の低年齢化が進み、小学校に入る前から近視になっている子もいます。子どもの目を近視にさせないために、幼児期からできることはなんでしょうか。子どもの近視の治療・研究をしている東京医科歯科大学 眼科学教室の五十嵐多恵先生に聞きました。
近視の子どもが急増。近視は視覚障害のリスクが高くなる怖いもの
2021年度の「児童生徒の近視実態調査」「学校保健統計調査」ともに、子どもの近視が増えていて、しかも低年齢化していることを示していました。日本だけでなく、世界的に近視の人口が急増しているといいます。
「今の増加傾向がこのまま続くと、2050年には全世界の人口の半数にあたる48億人が近視という推定結果があります。2000年の世界の近視人口は14億人なので、50年間で4倍近く増えることになります。
日本人はもともと近視の人口が多いため、近視を軽く見る傾向があるように感じます。しかし、それほど強くない近視でも、将来、緑内障や網膜剥離、近視性黄斑症など視覚障害につながる病気になるリスクが高くなります。近視の程度が強くなれば、そのリスクは指数関数的に増加します」(五十嵐先生)
近視になってしまったとしても「眼鏡やコンタクトレンズがあるから大丈夫、レーシックをすればまた見えるようになる」と考えるのは間違いで、長寿社会では、将来の病気まで心配する必要があるようです。子どもの近視が増えているのは、スマホや携帯ゲーム機などの電子端末機器を使う時間が増えているからなのでしょうか。
「スマホなどの手で持つタイプの電子端末機器を使うときは、とても近い距離で見続けますね。この行為は近視を進めます。でも、電子端末機器だけではなく、姿勢が悪く、ノートに目を近づけて文字を書く、本を読むなど、近すぎる近業作業(手元など近い距離を見続ける作業)は、すべて近視の原因になります。
近年は0才児でも、早期教育などでたくさんの本を読んだり、スマホ・タブレットを使用するようになったこと、コロナ禍で外遊びが減ったことから、小学校入学前から近視になる子どもが増えています。低年齢で近視になるほど進みが早く、重症化しやくなります。
小学生になったら急に近視になるわけではなく、現代社会では、幼児期からの生活習慣が近視を招くということを、ママ・パパはぜひ理解してください」(五十嵐先生)
1日2時間の外遊びが子どもの目を近視から守ってくれる
外遊びが減ったことも近視が増えた原因になっているということですが、外遊びと近視とはどのように関係しているのでしょうか。
「目の表面の角膜から、目の最も奥にある網膜までの眼球の前後の長さを『眼軸長(がんじくちょう)』といい、眼軸長が伸びると、手元は見えるけれど遠くは見えない状態(=軸性近視)になります。これが近視のメカニズムです。
近年の研究で、屋外の明るい環境で過ごす時間が長い子どもほど、近視になりにくいことがわかりました。たとえ手元で作業をする(近くを見続ける)時間が長い子どもであっても、1日2時間の外遊びをする子どもは、近視が進行しにくいというデータがあります。
屋外活動が近視を抑制するメカニズムについては諸説ありますが、最も有名な説は「光誘導性ドーパミン仮説」です。一定以上の強い光が網膜に到達すると、網膜内で光誘導性ドーパミンが放出され、眼軸長が伸びるのを抑制し、近視の進行が抑えられるという説です」(五十嵐先生)
日本と同様に子どもの近視が急増していた台湾では、国策として子どもの屋外活動を増やしていると言います。
「台湾は国をあげて子どもの近視抑制対策を実施しました。2010年から、小学校で1日2時間の屋外活動時間を設けるようにしたところ、視力0.8未満の小学生の割合が5パーセント以上減ったと報告されています。
また、2014年の時点では、5、6才児の15パーセントが近視でしたが、プレスクールにも1日2時間の屋外活動を確保するよう国が指導した結果、2016年には8パーセントに減少。屋外活動による近視予防効果は、小学生より幼児のほうが高いことがわかりました。
コロナ禍の外出自粛で世界的に子どもの近視が増加しましたが、台湾では増悪は認められなかったと報告されています。この対策の成果と考えられます」(五十嵐先生)
さまざまな研究の結果、外遊びの主要な効果は、「太陽の光を直接浴びる」ことや、「太陽を直接見ること」から得られるわけではないようです。太陽を直接見ると、むしろ目を痛めることになってしまいます。最も重要視されているのは光の量です。
「日中の屋外ならくもりの日でも室内の何倍もの光があります。晴れの日は日陰やベランダでも十分です。とくに夏場は、日なたで長い時間を過ごすと熱中症の危険があるので、日陰で過ごすようにするといいでしょう。また、夏の強い太陽光のもとでは、帽子やサングラス、日傘などで光をさえぎっても、目には2000ルクス近い光が届きます。暑い時期に外で過ごすときは、日焼け対策もしっかり行ってください。
なお学校や家庭での生活で、500ルクス以上の明るさを室内で確保することは難しいです。近視予防効果を得るための明るさを確保するには、外に出ないといけないのです」(五十嵐先生)
台湾で効果があげられたという「1日2時間の外遊び」とは、2時間連続して行うことが基本なのでしょうか。
「30分ずつ4回外に出るなど、小分けにしても同じ効果があります。外に出るといっても、毎回公園などに出向く必要はなく、家の庭やベランダに出るだけでもOKです。
また2時間に満たなくても効果はあるので、ママ・パパが無理なくできる範囲で、外で過ごす時間をつくってください。
子どもを近視にさせない習慣を幼児期に定着させることは、学校生活が始まってからも子どもの目を守ることにつながります。ぜひ今日から子どもの目を守る生活を始めましょう」(五十嵐先生)
取材・文/東裕美、ひよこクラブ編集部
外遊びが子どもの目を近視から守り、しかも幼児期はその効果が高いとのこと。ママ・パパが無理なくできる範囲で、子どもと一緒に外で過ごす時間をつくりたいものです。