SHOP

内祝い

  1. トップ
  2. 赤ちゃん・育児
  3. 赤ちゃんの病気・トラブル
  4. 赤ちゃんの嘔吐
  5. 小児救命救急センター24時【ロタウイルス胃腸炎】

小児救命救急センター24時【ロタウイルス胃腸炎】

更新


テーブルの角に頭をぶつけ、その後、けいれんが起こり始めて…

 夏の終わりのある日、「1才8カ月の女児がテーブルの角で頭を打ったあと、けいれんが5分間続いているとの要請です!」と救急隊員から連絡があった。

 しばらくして到着した救急車から母親に抱っこされて降りてきた女児は、頭部外傷後のけいれんにしては、顔色などほかの状態が良好そうに見えた。私はすぐに女児のバイタルサイン(血圧、脈拍、呼吸、体温、意識レベル)をチェックしたが、とくに異常はなく、発熱も認められなかった。

診察を続けながら母親に話を聞くと、「兄と一緒に遊んでいて、テーブルの角に頭をちょっとぶつけた程度だったんです。すぐにぶつけた部位を確認したのですが内出血なども見当たらなかったので、とても頭蓋(ずがい)内に異常が生じたようには感じられませんでした」と話してくれた。しかし、その後母親は気になることを話し始めた。

 「3日前に突然嘔吐が始まり、下痢の回数も増えたのでかかりつけ医で便の検査を受けたんです。そのときは、『ロタウイルスによる胃腸炎』と言われて、脱水症状に気をつけてしっかり水分と塩分、そして糖分の補給をするように言われて帰りました。2日目からは嘔吐もなくなり、下痢の回数も減ってきていたところだったのですが......」

再び女児が全身をこわばらせ、ガクガクと震えだした


 診察が終わり、検査の指示を出したところで、再び女児に全身強直間代性(ぜんしんきょうちょくかんたいせい)けいれん※1が起こり始めた。女児が無熱性(むねつせい)けいれんを短時間内に繰り返していることから、「嘔吐下痢に伴うけいれん群発」と診断して、抗けいれん薬を経鼻胃管(けいびいかん)※2を挿入して注入し、けいれんを抑える処置を行った。

 母親から再度話を聞くと、「上の子は熱性けいれんを3回ほど起こしたことがあるのですが、医師には『妹さんは熱性けいれんの心配はなさそう』と聞いていました。でも、この子は発熱がなくてもけいれんを起こしていますし、たった1時間の間に2回も……。頭を打ってからだと思うのですが、大丈夫なんでしょうか?!」と、今にも泣きそうな表情で質問された。

 「頭を打って頭蓋内に異変が生じたら、けいれん後に意識が正常に戻ることはありませんから、このけいれんは今回の頭部外傷とは無関係でしょう。短時間に何回もけいれんが起こることは心配なのですが、『軽度の嘔吐下痢に伴うけいれん群発』という症状があり、ロタウイルス胃腸炎に感染した患者さんに多く見られます。発症から2~3日目にけいれんを繰り返すことが多い症状です。

 とくにてんかんや熱性けいれんを起こしやすくするなどの続発症や合併症はありませんので、数日間入院して観察しましょう」と説明すると、母親は納得したようで、安堵(あんど)の表情を浮かべた。その後、念のために行った頭部CT検査や脳波検査でも異常はなく、下痢もしだいに改善して、3日目には退院することができた。母親は退院時に、「次に子どもが生まれたら、早めに予防接種のロタウイルスワクチンを飲ませるようにします」と、明るく話してくれた。

※1手足をかたく突っ張る「強直性(きょうちょくせい)けいれん」が数秒続いたあとで、ガクガクと震えだす「間代性(かんたいせい)けいれん」を繰り返すこと。
※2鼻から胃に挿入するやわらかいチューブのこと。

【ロタウイルス胃腸炎とは?】
嘔吐や下痢の症状に続き、発症2~3日目で突然、発熱のないけいれん発作を繰り返すことが。「嘔吐下痢に伴うけいれん群発」と呼ばれ、幼児に多く見られますが、原因はわかっていません。対処法として熱性けいれんなどで使われる抗けいれん薬とは別の薬が用いられるため、必ず受診を。

■監修:(故)市川光太郎先生
北九州市立八幡病院救命救急センター・小児救急センター院長。小児科専門医。日本小児救急医学会名誉理事長。長年、救急医療の現場に携わり、子どもたちの成長を見守っていらっしゃいます。

【市川先生から…】
嘔吐下痢症(とくにロタウイルス胃腸炎)の経過中に無熱性のけいれんを群発することがあります。嘔吐下痢の症状後にけいれんが起こった場合は群発することを念頭に、救急受診が必要です。

イラスト/西田聡子

【お知らせ】
市川先生が、赤ちゃんがかかりやすい病気や起きやすい事故、けがの予防法の提案と治療法の解説、現代の家族が抱える問題点についてアドバイスしてくださった「救命救急センター24時」は、雑誌『ひよこクラブ』で17年間212回続いた人気連載でした。2018年10月市川光太郎先生がご逝去され、連載は終了となりました。市川先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます(構成・ひよこクラブ編集部)。

※この記事は「たまひよコラム」で過去に公開されたものです。

赤ちゃん・育児の人気記事ランキング
関連記事
赤ちゃん・育児の人気テーマ
新着記事
ABJマーク 11091000

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第11091000号)です。 ABJマークの詳細、ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら→ https://aebs.or.jp/

本サイトに掲載されている記事・写真・イラスト等のコンテンツの無断転載を禁じます。