脱・イクメン
“イクメン”から“父親”へ
"保育士おとーちゃん"の子育てコラム第2回目の今回は、ファッションやレジャーなど多くの商業的な動きを巻き込んで一大ブームになった"イクメン"について見ていきたいと思います。
今では"イクメン"という言葉がすっかり定着しましたが、どうも最近では「うーん、イクメンはなんか違う気がするんだよなぁ」という声が女性からも男性からも上がってきているようです。
女性からすると、イクメンブーム華やかなりしころから、「うちのパパは、人から見えるところでは協力してくれるのだけど、家の中では結局何もしてくれないのよね」「子育てに関心を持ってくれたり、育児に協力的になってくれるのはうれしいのだけど、ブームに乗せられてしている程度だったら本当のところでは理解していないのではないかしら?」そんな思いや疑問を感じていたようです。
男性からは、「"イクメン"という言葉に踊らされてうわべだけ取り繕ってもしょうがないじゃないか、もともと"父親"なのだからわざわざ"イクメン"にならずに、"父親"であればいいんだ!」そういった考えを持つ人がだんだんと多くなっているようです。
実際に、"イクメン"という言葉がさんざんもてはやされていたころから、育児相談を受ける僕のところには、「うちのパパはまわりから"よい父親""かっこいいパパ"と思われたいために、休みのたびに子どもを自分の趣味に連れ回して、それで疲れてイライラした子どもを受け止めるのは、全部私でもう嫌になってしまいます。どう言ったらわかってもらえるんでしょう?」「休みの日に子どもを見てくれると言うのですが、その日の準備は全部自分がしないとならないし、帰ってくればほとんどやりっ放しでその片づけは結局私がすることになって、それで"どうだ、やってやったぞ!"という態度を取られるのがすごく納得がいかないんです」そんな相談や悩みも多く聞いてきました。
とはいえ、イクメンブームにも大きな意味があったと僕は感じます。それまでは、「男子厨房に入るべからず」みたいな感覚が育児にもありました。「男性が抱っこひもをしているのはみっともないのではないか」「家の中ではまだしも、外で男が哺乳びんを使っているのは恥ずかしい」そんな感覚が男性の中に少なからずあったようです。
イクメンブームは、そんな風潮に大きな風穴をあけました。多少、外からの目線を気にしたファッション的なところはあるにしても、それまでなんとなく踏み込みづらかった実際の子育ての世界に抵抗感なく男性が入っていくことを可能にしてくれたのではないかと思います。
“サポーター”から“プレイヤー”に
今、そのイクメンからさらに進化する過渡期に差しかかっているようです。
イクメンブームのときは、まだ男性の感覚も「子育てをしている母親を支えなければ」とか「理解して、手伝わなければ」といったところにあるようでした。それはあくまで「“子育ての主体”は母親で、自分はサポートをすればいい」という段階です。それが現在は、「自分も母親と同様に“子育ての主体”の一員なのだ」と男性が自分から思うようになりつつあります。
多くのお母さんたちが、子育てに“孤立感”を感じています。父親はいるのに「まるで1人で子育てしているようだ」、そう感じている母親が少なくありません。その孤立無援さが、余計に子育てを難しく不安に感じさせ、イライラを募らせていました。
「お父さんは、忙しいながらも私のことを支えようとしてくれている。それはわかるのだけど、子育てにどこか“母親任せ”のようなところがある。もっと“当事者意識”を持ってくれたら、日々の育児は大変でも気持ち的に私は救われるのになぁ」実際に言葉にはしなくても、そういった歯がゆさをイクメンブームの陰で母親たちは強く感じていました。ここにきて、その女性の心情や悩みを男性も受け止め、理解し共感する人が多くなり、“イクメン”からさらにその先へと進もうとしているのではないでしょうか。
また、女性も男性と同等と考えるようになった現代では、実はすでにずっと前から母親たちはそのことを父親に望んでいたのでした。ですから、母親の側からすると、父親がそういう意識を持ってようやく“スタートライン”、それが本音の人が少なくないと思います。これまでの時代、母親は子育てのシングルスのプレイヤーで、父親はあくまでサポーターでした。それが「下手でもいいから、一緒にダブルスをしましょうよ」と父親を子育てに誘っているわけです。
本当にここ最近、せいぜいこの1年か1年半くらいのことだと思うのですが、お父さんが“まるっきり1人”で赤ちゃんを抱っこひもやベビーカーに乗せて歩いている姿を頻繁に見かけるようになりました。イクメンブームの少し前くらいから、抱っこひもで赤ちゃんを連れているお父さんは少なくなかったのですが、その多くがあくまで“お母さんも一緒にいる状態”で抱っこしているという状況でした。それが今は、気後れせずに男性も1人で堂々と子どもの面倒を見るようになってきています。単なる“イクメン”ではなく、“父親”として子育ての当事者の1人へと意識が変わってきている現われではないでしょうか。
これからお子さんが生まれる男性や、今乳幼児のお子さんがいるお父さんは「育児に参加するかどうか?」ではなく、「自分として何ができるか?」を問われる時代に差しかかっているのだと思います。
でも、実際“子どもとどうかかわったらいいか”なんて、自然にできてしまう人にはなんでもないけど、わからない人には皆目見当もつかないもの。とくに、お子さんの年齢が低ければ低いほど難しく感じてしまいますよね。そんな中で、少しでも参考になるようなきっかけやヒントを、今後もコラムを通じてお伝えしていけたらと考えています。

監修:須賀義一 先生
子育てアドバイザー
1974年生まれ。公立保育園勤務の後に退職し、現在は子育てアドバイザーとして講演、執筆活動を行なっている。従来の子育てを見直し、個々を尊重した関わり、子育ての仕方を提案している。 二児の父でもあり、保育士としての経験を生かした子育てブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』が多くの人の支持を得る。難しくなりがちな現代の子育てを具体的に楽しいものにしていける方法を提案している。著書に『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』(PHP研究所)がある。
「子育ては楽しめるようになるのが一番です。”できる子”を目指すやより、”かわいい子”を目指してみてください。きっと子育てが楽しくなりますよ!」
※この記事は「たまひよコラム」で過去に公開されたものです。