たった一つの大切なこと<前編>
課題でいっぱいの子育て
「三つ子の魂百まで」ということわざもありますが、幼少期の子育ては大切だとよくいわれます。確かに乳幼児期の子どもに親がどうかかわるかは、その後の子どもの成長に大きく影響してくることです。
僕はこれまで多くの子育てする家庭を見てきて、少しだけ別のことを感じています。それは幼少期の子どもへ「どのように関わるか」だけでなく、子育てする親が子どもが小さいうちに「どういった方向を向いて子育てをスタートするか」という親側の心構えです。
親の子どもへのかかわり方を見ていると、子どもが自由気ままに動き回りはじめる1才後半から2才前後に子どもへの関わりに大変さを感じる人が多くなってきます。
それは子どもの行動や範囲が広くなり、そんな子どもの姿を大人が「善かれ」と思うものにするために、たくさんの干渉ががぜん多くなるからです。具体的には「ダメ」「○○しないで」「しーっ」「静かに」「うるさい」「そっちに行かない」といった言葉がけや、子どもの意に反して引き戻したりするかかわり方です。
少なくない人が、子育てとは「そういうものなのだ」と考えています。「そういうもの」とは「子どもとは『言うことを聞かないもの』であり、それを『正しい姿』にしていくことが子育てなのだ」「ダメ出しや注意などのたくさんの『しつけ』をしていくことが子育てなのだ」という理解です。
その結果、子どもの行動を押さえつけたり、コントロールしようとたくさんの過干渉や過保護が行われています。それですんなりいってしまう子もいますが、この方向で子育てをスタートすると、
子どもの行動 ➡ 親の押さえつけ ➡ 繰り返される子どもの行動 ➡ 親のさらに強い押さえつけ
という悪循環になり、子育てに疲れきってしまいかねません。多くの人が「子育てはそういうもの」という先入観を持っているので、この方向性の子育てを展開しているように見受けられます。それがこれまでの日本のスタンダードな子育てのかたちでした。
子どもの行動を「正しいもの」にすべく、たくさんの「○○ができる」ようにと課題を設定して、それを子どもが達成できるように事こまかなアプローチをしていきます。
「子育て=しつけ」と考えている人は少なくないと思います。すると、親には「達成させるべき課題」が山のように現れます。子育てに一生懸命な人、子育て初めての人、性格が真面目な人、そのような人はかえって「たくさんの課題の達成」を頑張りすぎて子育てが苦しくなってきます。
人によっては、「子育ては大変」「できれば子どもと一緒にいたくない」「子どもは1人でたくさん」と感じるようになってしまう場合もあります。極端な言い方をすれば、『しつけの子育て』が望んでいる子どもの姿は、『しつけの関わり』ではつくりだすことが難しいという現実があります。
これから出産やお子さんが乳幼児期を迎える皆さんは、この子育てのスタートの方向性に少しだけ「気づき」を持つことで、「子育ては大変」「子どもは大変」という未来を変えることができるでしょう。
...たった一つの大切なこと<後編>は5月11日更新予定です。
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須賀義一 先生
子育てアドバイザー
1974年生まれ。公立保育園勤務の後に退職し、現在は子育てアドバイザーとして講演、執筆活動を行なっている。従来の子育てを見直し、個々を尊重した関わり、子育ての仕方を提案している。 二児の父でもあり、保育士としての経験を生かした子育てブログ『保育士おとーちゃんの子育て日記』が多くの人の支持を得る。難しくなりがちな現代の子育てを具体的に楽しいものにしていける方法を提案している。著書に『保育士おとーちゃんの「心がラクになる子育て」』『保育士おとーちゃんの「叱らなくていい子育て」』(PHP研究所)がある。
「子育ては楽しめるようになるのが一番です。”できる子”を目指すより、”かわいい子”を目指してみてください。きっと子育てが楽しくなりますよ!」
※この記事は「たまひよコラム」で過去に公開されたものです。