2022年10月施行「産後パパ育休」で男性が育休を取りやすい社会へ。制度改正のポイントを解説【経済学者】
育児休業(以下育休)を男性が取得しにくいという問題に対し、国は新たな策を打ち出します。
2021年6月に「育児・介護休業法」が改正され、2022年4月・10月と段階的に男性が育休をとりやすくなる環境がさらに整備されます。
男性育休の法改正のポイントを、結婚、出産、子育てなどを経済学から研究する、東京大学大学院経済学研究科教授の山口慎太郎先生に聞きました。
男性の育休取得率は目標30%に対して13.97%
男性の育休取得率が低い日本。
厚生労働省が2022年7月29日に発表した「令和3年度雇用均等基本調査」によると、育児休業取得者の割合は女性85.1%に対し、男性は13.97%。国は男性の育休を2025年までに30%にするという目標を掲げています。
――男性の育休取得率ですが、前年(令和2年度12.65%)よりは上昇しています。この数字をどう見ていますか。
山口先生(以下敬称略) 過去最高ではあるものの、伸びていないなという印象です。前年の伸びが大きかった(令和元年度7.48%→令和2年度12.65%)ので、ペースダウンしたのが気になりました。
ただし、よくよく調査時期を見てみると、コロナ禍に半分くらい入っている(調査は令和元年10月1日から令和2年9月30日までの1年間に在職した人が対象)ので、この影響が大きかったのかなと思います。
――コロナ禍がどのように男性の育休取得に影響したのでしょうか。
コロナで社会が揺れ動く中、経済的な不安感があって育休をとらなかったり、緊急事態宣言下にあって家でリモートワークができるのであえて取得しなかったり、有給で対応したり、という男性がいたと考えられます。
企業側からの育休の説明・取得意向確認が後押しに
――コロナ禍は収束する気配を見せません。「育児・介護休業法」改正の目玉ともいえる「産後パパ育休」(※1)と「育児休業の分割取得」(※2)が2022年10月1日から施行されます。この制度で男性の育休取得を大幅に後押しできるでしょうか。
※1 男性が通常の育休とは別に、子どもの出生後、8週間以内に4週間まで取得できる休みのこと。2回に分けて取得することもできる。
※2 通常の育休が2回に分けて取得可能に。さらに1歳以降の延長については、育休開始日が1歳、1歳半に限定されていたが撤廃される。
山口 これだけで大きな変化が起こるとは思えませんが、育休の使い勝手がよくなることは確かです。長期的には、男性の育休取得率は伸びる一方で進んでいくのではないでしょうか。
――「25年までに30%」という国の目標に対して、打ち手が弱いような印象があります。
山口 改正「育児・介護休業法」の中でひとつ期待できることとしては、会社側に社員に対し育休の説明を義務づけました(※3)。こちらのほうが効果的ではないかと思っています。
これまで育休をとらなかった男性の理由として「職場でどう思われるかわからない」ということがありました。社員側から言い出しづらい状況にあって、会社のほうから説明する義務を与えたことは、意味のある変化だと思います。
※3 令和4年4月1日施行された「育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け」のこと。
会社側は育休に関する研修を行う、相談窓口を設置するなどして、育休をとりやすい環境を整備しなければなりません。さらに社員が妊娠・出産(本人または配偶者)を申し出た場合、育休制度について知らせる、取得の意向を確認することなどを義務づけています。
――コンプライアンスを順守する大企業の社員や公務員は、さらに男性が育休をとりやすくなりそうです。一方で、中小企業やいわゆるブラック企業の男性社員は、いくら制度が整ったとしても取得するのは難しいように感じます。
山口 そうですね。まずは大企業の社員や公務員から取得をしていくことにはなるでしょう。できるところからやっていってもらい”当たり前”を徐々につくっていく。そこから中小企業にも波及していって、社会全体の”当たり前”になっていくということは十分考えられると思います。
制度面は充実。あとは取得する男性の輪が広がるだけ
――男性の育児休業をさらに後押しするために、今後どんな制度が必要でしょうか。
山口 ノルウェーでは「パパ・クオータ制」(※4)という、男性だけが育休をとれる制度を導入し、これが起爆剤となりました。とはいえ、いい制度をつくっても、使われなかったら意味がありません。ノルウェーの男性育休取得率が伸びたのは、制度ができたのちに、「同じ職場のあの人がとったのならば、自分もとろう」という、あとに続く男性が増えていったからです。いい流れで育休取得の輪が広がっていきました。
日本ではそこまで大きな制度改革がないように思われるかもしれないですが、制度としてはすでに充実しています。
※4 1993年に導入された、育休の一定期間を男性だけに割り当てる制度。取得しなければ、権利は消滅するしくみ。それまでは約4%だった男性の育休取得率が、2003年には90%になりました。
――日本の充実した育休制度が、あまり知られていないということでしょうか。
山口 そうですね。ユニセフが評価した世界の育休制度ランキングで日本は1位(※5)なのですが、実態がまったく追いついていないといわれています。
制度面で国にできることはだいぶ限られてきているので、ボールはむしろ民間セクターに投げられているといえます。
※5 ユニセフの報告書『先進国の子育て支援の現状』(2021年6月発表)にて、経済協力開発機構(OECD)および欧州連合(EU)加盟国を対象に、各国の保育政策や育児休業政策を評価・順位づけをした結果、日本は育休制度で1位。父親に認められている育児休業の期間が最も長いことが評価されています。
――育休制度が充実していることが知れ渡れば、もっと男性の育休取得率は伸びそうですね。
山口 自分の行動はそこで途切れているのではなく、社会につながっているということを忘れないでほしいですね。先に育休をとった男性は、育休をとろうかどうしようか決めあぐねている男性の背中を押すことになるかもしれません。将来、育休をとりたいと思っている後輩のためという気持ちでも構いません。ぜひポジティブに考えてもらえるといいなと思います。
改正「育児・介護休業法」では、ほかにも企業側に育休取得状況の公表を義務づけしたり、育休取得要件の「雇用期間1年以上」を撤廃したりと、さらに育休がとりやすい環境が整います。
育休中は育児休業給付金が受給できますので、お金の面での心配も少ないといえるでしょう。
取材・文/一乗梓、たまひよONLINE編集部
世界一といわれる日本の育休制度を、取得しないのは損といわれる時代がくるのもそう遅くはないはず。
育休を検討中のママ・パパは、しっかり「育児・介護休業法」をおさえておきたいですね。
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