育児の合間にゲーム…子育て世代の「ゲーム障害」は氷山の一角?【日本初インターネット・ゲーム依存専門医】
「ゲーム障害」を知っていますか? 2019年にWHOが認定した新しい病気です。アルコール、ギャンブルなどの依存症は広く知られていますが、実はゲームにも依存性があり、生活に支障をきたすことがあるのです。
「育児の息抜きがスマホゲーム」という人もいることでしょう。ゲームにのめり込まないためのポイントを、久里浜医療センターの名誉院長・樋口進先生に聞きました。
受診に至る20~40代はごく少数。けれど氷山の一角
「ゲーム障害」とは、ゲームをする時間をコントロールすることができず、日々の生活や活動よりもゲームを優先してしまい、それが1年以上続くことをいいます。症状が重い場合、1年以内でも当てはまります。
久里浜医療センターは、日本で初めてインターネット依存・ゲーム依存専門診療を開設した、依存症治療の専門病院。樋口先生は「ゲーム障害」の問題にいち早く着目し、長年にわたり研究続けてきました。
デジタルネイティブ世代が子育て世代になりつつある今、スマホゲームの依存性の高さに警鐘を鳴らしています。
――「ゲーム障害」は、子育て世代に増えてきているのでしょうか。
樋口先生(以下敬称略) 我々が実際に診察するのは、10代の男性が多いですね。
それに比べて子育て世代といわれる20~40代の受診は少ないのですが、氷山の一角だと考えています。依存と気づいておらず、受診に至らない人が多くいることは想像に難くないでしょう。
――20~40代にみられる「ゲーム依存」の特徴はありますか。
樋口 10代の男性はほとんどがゲームの依存ですが、20~40代はゲーム以外にもいろいろなオンラインのサービスに依存しているのが特徴です。
たとえば動画の配信サイト。視聴者が動画の配信主に送金できる「投げ銭」というシステムがあるのですが、そこに大金をつぎ込んでしまうという人がいます。
女性では恋愛シミュレーションゲームや、オンラインのロールプレイングゲームで仲間になったプレーヤーに恋愛感情を抱き、のめり込むといったような事例があります。
現実の満たされない気持ちが ゲームやオンライン依存に
――どうしてゲームやオンラインのサービスに依存してしまうのでしょうか。
樋口 日常生活にはない何かを、オンラインに求めて依存していってしまう傾向が強いといえます。現実の人間関係の中で満たされていない「人に認められたい」「受け入れられたい」「目立ちたい」といった欲求を、オンラインで埋めようとしてのめり込んでしまうのが主な原因だと思います。
――育児の息抜きや暇つぶしから、依存に進行していくケースはありますか。
樋口 そのような例は少ないでしょう。ゲームやオンラインのサービスを楽しんでいるだけなら、依存にはつながらないものです。現実生活の中に満たされないものがあって、ゲームやオンラインのサービスで埋めていくという状況が依存につながりやすいといえます。
――「ガチャ」や「投げ銭」などの課金システムがあるサービスのほうが、依存につながりやすいのでしょうか。
樋口 もちろん生活が破綻しない程度に楽しむ分には問題ありませんが、だんだん課金額が増えてくると、後戻りしにくくなるということはあると思います。ギャンブルと同じように「勝ち」「負け」があるしくみになっていると、のめり込みやすいといえるでしょう。
スクリーニングテストで、ゲーム障害の疑いを確認できる
――過剰使用と依存症の境界線はどこにありますか。
樋口 ただ単に過剰に使用するだけでは依存ではありません。過剰使用によって生活や対人関係、身体に明確な問題が起きている場合に依存と診断されます。問題があるかどうか、簡単なスクリーニングテストがありますので、試してみるのもいいでしょう。
ゲームズテスト(GAMES test)
過去12カ月について、以下の質問のそれぞれに、「はい」「いいえ」のうち当てはまるほうを選び、回答の点数を合計してください。最後の質問は最も当てはまる回答を一つ選んでください。
なお、ここでいうゲームとは、スマホ、ゲーム機、パソコンなどで行うゲームのことです。
※5点以上の場合は、「ゲーム障害」が疑われます。
Q1
ゲームをやめなければいけない時に、しばしばゲームをやめられませんでしたか。
はい(1点)
いいえ(0点)
Q2
ゲームをする前に意図していたより、しばしばゲーム時間がのびましたか。
はい(1点)
いいえ(0点)
Q3
ゲームのために、スポーツ、趣味、友だちや親せきと会うなどといった大切な活動に対する興味が著しく下がったと思いますか。
はい(1点)
いいえ(0点)
Q4
日々の生活でいちばん大切なのはゲームですか。
はい(1点)
いいえ(0点)
Q5
ゲームのために、学業成績や仕事のパフォーマンスが低下しましたか。
はい(1点)
いいえ(0点)
Q6
ゲームのために、昼夜逆転またはその傾向がありましたか(過去12カ月で30日以上)。
はい(1点)
いいえ(0点)
Q7
ゲームのために、学業に悪影響が出たり、仕事を危うくしたり失ったりしても、ゲームを続けましたか。
はい(1点)
いいえ(0点)
Q8
ゲームにより、睡眠障害(朝起きられない、眠れないなど)や憂うつ、不安などといった心の問題が起きていても、ゲームを続けましたか。
はい(1点)
いいえ(0点)
Q9
平日、ゲームを1日にだいたい何時間していますか。
2時間未満(0点)
2時間以上、6時間未満(1点)
6時間以上(2点)
※久里浜医療センター ホームページより引用し、たまひよONLINE編集部が改変
出典: Higuchi S et al. Journal of Behavioral Addictions, 2021.
久里浜医療センターのホームページには、ほかにもゲーム障害やネット依存に関するスクリーニングテストがあります。
「楽しい」「おもしろい」という感情だけで、ゲームやオンラインのサービスに依存する人はいないと樋口先生は言います。
「もうやめなきゃ」「こんな状況はよくない」と思いつつ、やめられないのが依存。使用が過剰になっているなと感じたら、少しスマホと距離を置く習慣をつけるといいかもしれません。
取材・文/一乗梓、たまひよONLINE編集部
息抜きだけでは、そう簡単にスマホゲーム依存にはならないようです。しかし、育児中はママが孤立しやすく、だれからの助けもないと心が満たされない状況になることも。
また、パパがスマホゲームを優先し、育児がおろそかになっているなと感じたら、早めに地域の保健センターや子育て支援センターなどに相談してみましょう。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。