「教科書通りには行かない」「やってみないとわからないことも」わが家のトイチャレ体験談【ママ泌尿器科医】



泌尿器科医であり、4才の男の子と1才の女の子を育てるママでもある岡田百合香先生。おしっこに関する専門家である岡田先生に、長男がトイレでおしっこができるようになったときの実体験について聞きました。共働きのパパのほうが積極的に取り組みはじめたのだそうです。
“トイレチャレンジ”を始める目安は?
――岡田先生はおむつを取る練習を“トイレチャレンジ″と呼んでいるそうです。その理由を教えてください。
岡田先生(以下敬称略) おむつが必要なくなって、トイレで排泄できるようになることは、単にしつけやトレーニングでできるようになるわけではなく、子どもの体の成長が大きくかかわっています。膀胱やその周辺の筋肉などの体の成長、脳が尿意を感じておしっこを出す指示をするといった神経系統の発達、このような体の準備が整ってから、少しずつ習慣づけの練習ができるようになります。
おむつを取る練習を、一般的には「おむつはずれ」や「トイレトレーニング」と呼ぶことが多いですが、体が成長したから自然にできるわけでもなく、かといってトレーニングを頑張ればできるものでもないので、私は“トイレチャレンジ”と呼びたいと考えました。
――トイレで排せつする練習を始めるのに、適した時期はどのように考えたらいいでしょうか?
岡田 体のしくみと発達を踏まえた上では、“トイレチャレンジ”を始める時期は、一般に2才半〜3才くらいと考えられます。ただ個人差があるため、以下のような項目を開始の目安にするといいでしょう。
・トイレまで歩いて移動でき、子どもが自分で便座に座ることができる
・子どもが自分でズボンや下着の着脱ができる
・おしっこの間隔が2時間ほどあいている
・保護者からの基本的な指示を理解し、従うことができる
・子どもが自身の意思を伝えることができる
・トイレや布パンツ・トレーニングパンツに興味がある
ただ、これは教科書的な内容であって、私の長男の“トイレチャレンジ”を振り返ると、実際にやってみないとわからないこともたくさん。上記のような目安で始めたとしてもなかなかうまくいかないことももちろんあると思います。
――“トイレチャレンジ”を始めるのに季節は考慮したほうがいいですか?
岡田 夏だと洗濯物も少なくすむなどの実用的な利便性はあるとは思いますが、優先順位は低いと思います。親も子どもも始めたいけど夏まで待とうとか、逆にまだ体の準備が整っていないのに夏だから始めようか、というよりも、子どもの様子や各家庭の状況(保護者が多忙であったり体調の悪い時期は避ける)のほうが重要です。
ただ、おなかまわりが冷えるとおねしょの原因になるといわれています。夏場のエアコンでの冷やしすぎや、冬場はおなかまわりが冷えないように気をつけたほうがいいでしょう。
岡田家の“トイレチャレンジ”はパパがリード
――先生の長男の“トイレチャレンジ”はどのように進めたのでしょうか?
岡田 始めたのは、3才になる少し前の秋ごろだったと思います。保育園の先生から、「息子さんはおしっこの間隔があいているし、トイレへ連れて行くとトイレでおしっこできることもありますよ」という話を聞いていて、そろそろやってあげるといいのかな、と思いつつも忙しさにかまけて先延ばしにしていました。
そんなとき、夫が職場で同い年の子どもがいるパパ友から、そこの娘さんがパンツに挑戦し始めている、という話を聞いてきたのです。プリンセスのパンツが好きな子なので、プリンセスがぬれちゃうからトイレでおしっこをしようね、というふうに“トイレチャレンジ”をやっていると。それで、夫がうちもそろそろ始めよう、と言い出しました。
――パパメインで“トイレチャレンジ”を始めたんですね。
岡田 そうなんです。ただ夫も平日の日中は仕事なので、昼間は保育園の先生に様子を見てもらって、親は夜や休日にトイレに誘って、できたらほめるという方針で始めました。夫が6割、私が4割くらいで分担していたと思います。息子自身もばあばからもらった恐竜のパンツが好きで、前向きに取り組んでくれたことや、保育園で基本ができていたのもあったからか、息子は2〜3カ月でわりとすんなりおむつが取れたと思います。
ただおむつが取れてからも、何度もおもらししたこともありました。夜におねしょをしてもいいように、息子に確認しながら、防水パンツをはかせたりパンツの上から紙おむつをはかせたりして、洗濯が増えないような工夫はしていました。
――“トイレチャレンジ”をしていてイライラしたり気持ちがくじけそうになったりしたことはないですか?
岡田 泌尿器科医として大人の患者さんをたくさん診ていると、大人でも「おしっこがもれる」とか「トイレに間に合わない」、と受診する人はすごく多いんです。だから私は、なんのトラブルもなくトイレでおしっこができること自体がすごいことで、健康でありがたいことだと感じています。夫にも最初に「“トイレチャレンジ”のことでしかるのは絶対やめよう」と声かけについて話し合っていましたし、息子の“トイレチャレンジ”中にイライラしたこともなかったです。
職業柄、おしっこやうんちにさほど抵抗感がなかったこともあるかもしれません。4才になった今も、息子はうんちのあとおしりをふいてもきれいにふけずに、パンツにうんちがついていることはよくあります。でも私は汚いと思ったことがなくて「ちゃんとうんちが出ていて健康な証拠だ」と思いながら洗っています。
――1才の娘さんには、何かトイレに関する働きかけはしていますか?
岡田 まだ何にもしていません。でも娘はお兄ちゃんのことが大好きで、どこにでもついて行きたがって、トイレにも入りたがり、お兄ちゃんがおしっこしているところを見たがるんです。そういうときは息子が嫌がっていないかを確認してから見せて「お兄ちゃんはトイレでおしっこをしてかっこいいね」という声かけをすることはあります。
小さい子どもって家族のトイレを見たがることがありますよね。子どもが興味を持っていて、親やきょうだいが見られても大丈夫なときに見せてあげることは、トイレへの興味や関心を向けるにはいいと思います。
おむつが取れないことは、子どもや親の努力とは無関係
――「幼稚園入園」のためにおむつを取らなきゃ、と考えるママやパパは少なくないと思いますが、体の成長と集団生活との調整についてどのように思いますか?
岡田 幼稚園によっては、いまだに「4月の入園までにおむつを取る」ことをお願いしているところもあるようですが、それは問題だ、と声を大にして言いたいです。4月入園といっても生まれた時期によっては1年近く差があるし、子どもによって発達の個人差が大きい時期です。
私がやっている「ママのためのおちんちん講座」でもおむつはずれに関してよく質問を受けますが、ママやパパたちは幼稚園から「おむつを取って」と言われると、親の責任だからやらなきゃ、と抱え込みすぎている印象を受けます。おむつが取れないことは、子どもや親の努力とは無関係だということを、社会全体で共有したいです。
「4月までに」と区切るのではなく、子どもの発達の状況に合わせておむつが取れない場合は、保護者と幼稚園と協力して子どもの成長をサポートしてあげてほしいと考えています。ただそのためには、幼稚園側が十分子どもをサポートできるような人員を配置する必要もあると思いますし、先生方の労働環境を改善することも、同時に考えるべき問題だとも思います。
取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
「医師としての病気の知識はあっても、実際に子どもが病気になると初めてわかることばかり。“トイレチャレンジ”も同じでした」と岡田先生。子どもの“トイレチャレンジ”を通して、親としても少しずつ成長できるのかもしれません。
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