「貸してあげなさい」は性教育の観点ではNG?「NOの否定」「YESの押しつけ」は避けて【ママ泌尿器科医】
ママであり泌尿器科医でもある岡田百合香先生の連載第28回。今回のテーマは、いざというときに「いや!」と主張できることの重要性について。性暴力にあいそうなとき「いや!」と逃げるためには、幼少期から子どもが「NO」と言える環境であることが大切なのだとか。「お母さんのためのおちんちん講座」ママ泌尿器科医#28です。
「貸してあげなさい」は性教育の観点ではNG?
公園や子育てセンターで子ども同士遊んでいると、「そのスコップ貸して~」「ぼくもそのおもちゃ使いたい!」と取り合いになることってありませんか?
自分の子どもに「お友だちが使いたいみたいだから貸してあげたら?」と声をかけても「いや!!」となることがほとんど。
そんなとき、みなさんどうしていますか?
ついつい、「『いいよ』でしょ!」「貸してあげなさい」って言ってしまうことも多いのではないでしょうか。
実はこれって性教育の観点ではよろしくない対応なんです。
プライベートゾーンを触られそうになったら、「いや!」と言って逃げるんだよ。
いやなときは「いや」って言っていいからね。
子どもを性暴力から守るためによく言われていることです。子どもに限らず、大人になってからもとても大切ですが、実際にはなかなか「NO」と言えない現状があります。その原因の一つに、幼少期からの「NOの否定」「YESの押しつけ」があるのではないかと私は考えています。
「いや!」と主張すること、すぐに「ごめんね」を言わないことはわがまま?
冒頭のシーンで言うと、子どもの「貸したくない!」という「NO」に対して、大人が「そのNOは自己中心的でわがままな考え方だよね」と否定し、「いいよ(YES)」を押しつけています。
そもそも、何かをお願いされたときに、反射的・無条件に「いいよ」って言えることって、とても不自然です。
大人だって、大切なものや今使っているものを「貸して~」って言われて、すぐに「いいよ」って言いますか?言わないですよね。
大切なものや、気に入っているものを簡単に手放したくないのは当たり前のこと。
子どもにだけ、「自分が我慢して相手の気持ちを優先させる」ことを求めるのはおかしな話です。
同様に、「ごめんね」って言われたら、すぐに「いいよ」って言わないといけない仲直りルールにも異議があります。
大人だって、謝られても許せないことなんていくらでもあります。何年も前のことだけど、いまだに許せないこと、私にもあります。
子ども自身が納得していないのに、無理やり仲直りした形だけつくるのは、お互いの気持ちと向き合い、ぶつける機会を奪うことにもつながります。
子どもの「NO」に向き合い、受け止めてあげたい
まだまだあります。
「先生(大人)の言うことをよく聞きましょう」という言葉も気になっています。
本来であれば、「NO」はだれに対しても言っていいはず。なのに「先生の言ったことには無条件に従うのがいい」「大人にNOと言うと反抗的ととらえられる」といった価値観の中では、子どもたちの「NO」は「悪」にされてしまうし、「自分より立場が上の人にはNOと言えない」ことにもつながるでしょう。
子どもが「NO」と言えない日常の中で、身体を触られたり、性的なアクションに対してのみ「いや!」と言うのは無理があります。
とはいえ、「保育園行きたくない!」「ごはん食べたくない!」「おふろ入りたくない!」など、子どものNOは保護者にとって面倒であったり、なかなかつき合っていられないことも多いですよね。
それでも「いやだよね~」「どんなところがいやだった?」「じゃあどうするのがいいかな」など、真摯(しんし)に向き合うことで、子どもは「自分のNOはちゃんと受け止めてもらえるんだ」という実感を持てます。そしてそれがいざというときの「NO」にもつながるはず。
「おもちゃ貸さない!」に対する保護者の対応・・・正解は?
さて、冒頭のようなシチュエーションで、わが子が「おもちゃ貸さない!」と主張したとき、どうするのが正解でしょうか。年齢にもよりますが、個人的にはすぐに親が介入するのではなく、まずは子ども同士でどう落としどころをつけるか見守りたいところ。
「相手の保護者がどう思っているんだろう」というのは気になりますが、大人のメンツのために、子どもの行動をコントロールするのは違いますよね。
人見知り傾向がある私にとって「少し見守りましょうか」って見知らぬ保護者に声をかけるのはハードルが高いということもあります。またみなさんの意見も聞いてみたいです。
構成/たまひよONLINE編集部
子どもにとって嫌なことを無理に我慢させず、子どもが「いや!」と主張できることは、性暴力の予防だけでなく、成長してからのコミュニケーションやメンタルの面でも大切かもしれません。次回も子どもの性や、性器、排せつ、性教育など、ママ・パパが気になる話をお届けします!お楽しみに。