右片まひの後遺症とたたかう小学5年生の女の子が、プロ野球の始球式に挑戦!あこがれの近藤選手からのサプライズに感激【体験談】
北海道に住む髙橋萌ちゃん(11才)は、ママのおなかにいるときに新生児脳梗塞を起こしました。そのため現在も右半身にまひの症状があり、毎月リハビリを続けています。そんな中2022年9月下旬に札幌ドームで行われたマクドナルドが冠協賛した「ドナルド・マクドナルド・ハウス さっぽろ 応援ナイター」(プロ野球公式戦「北海道日本ハムファイターズ」対「東北楽天ゴールデンイーグルス」戦)の始球式で、大ファンの近藤健介選手のユニホームを着てピッチングを披露しました。ママの奈緒さんに、まひによる手術やリハビリの様子、始球式でのことについて話を聞きました。
右足のまひによって尖足が進み、手術を受けることに
――萌ちゃんの生まれたときの病状について教えてください。
奈緒さん(以下敬称略) 萌は生後間もなく新生児脳梗塞と診断され、北海道立子ども総合医療・療育センターのNICUに入院しました。原因はわかっていませんが、私のおなかの中にいるときに脳梗塞を発症し、左の脳がダメージを受けてしまったため、右半身にまひが残る可能性、てんかんや発達の遅れ、言語障害が出る可能性があると医師から説明されました。
ただ、生後1週間ほどで容体は安定し、萌は1カ月でNICU(新生児集中治療室)を退院。とっても元気で大きな声で泣く赤ちゃんでした。退院してから毎月リハビリに通っています。
――その後の成長や症状の様子はどうでしたか?
奈緒 てんかんや発達の遅れ、言語障害などはありませんが、右手の指先には重いまひがあり、ものをつかむことはできない状態です。また、2020年、小学校3年生のときに右足のまひによって尖足(せんそく)が進んでしまいました。尖足は、足のひざが曲がってきてしまい、歩くときにかかとを地面につけることができずに、つま先で歩くような状態です。
月1回のリハビリと、3〜6カ月ごとの整形外科の診察を受けている中で経過も見てもらっていましたが、そのままでは足首などほかの部分にも負担がかかってしまうので手術をしましょう、と整形外科の先生から提案があり、10月に右足の筋解離(きんかいり)の手術を受けることになりました。
――筋解離の手術というのはどのようなものですか?
奈緒 ふくらはぎの下のほう、足首に近いところのアキレス腱あたりの筋膜を切って、かかとが伸びるようにする手術のようです。手術自体は難しいものではないらしく、実際の手術時間は30分くらいだったと聞きました。萌が全身麻酔を受けて手術室に入ってから1時間半くらいで出てきたことを覚えています。その後、リハビリのために4カ月ほど入院をしました。
学校に通いながら毎日リハビリを頑張った
――4カ月の入院中、萌ちゃんは学校をお休みしていたのでしょうかか?
奈緒 いいえ、北海道立子ども総合医療・療育センターに隣接している手稲(ていね)養護学校に通いました。入院期間が長くなることは事前にわかっていたので、10月から翌年1月までは、地元の小学校から養護学校に転校しました。手術前に入院したときから、その学校で授業を受けて、手術後には車いすで通いました。とてもいい環境だったと思います。
――手術のあと、経過はどうだったのでしょうか。
奈緒 術後の経過は良好で、萌もとっても元気で、手術後2日目には登校していたくらいです。ただ、手術後しばらくは車いすの生活で、手術をしていない左脚の筋力も落ちてしまっていたので、ギプスが外れる前から理学療法士の先生が立ち上がる訓練を初めてくれたと思います。ギプスが外れたのは手術から1カ月ほどたったころで、2本のバーにつかまって両足で立つ練習が始まりました。さらに1カ月半ほどして車いすから降りて、歩行器を使って歩く訓練が始まりました。
――リハビリを受けながら学校に通う生活はどのようなスケジュールでしたか?
奈緒 養護学校の時間割は、1時間目はリハビリの時間が組み込まれています。萌は療育センターの入院病棟から、朝ランドセルを背負ってリハビリ室へ向かい、1時間ほどリハビリをしてから学校へ行く、というスタイルでした。午後にも1時間ほどリハビリの時間がある日もあったと思います。
入院中も土日は外泊ができるので、私の実家に行ったり、一緒に自宅に帰ったりしていました。
4カ月のリハビリを経て、萌は地面にかかとをしっかりついて立て、歩けるようになりました。手術とリハビリのおかげで、今現在も両足で歩けています。
――萌ちゃんの入院中、奈緒さんはどのようにつき添っていたのでしょうか?
奈緒 病院のすぐ隣に、入院中の家族が滞在利用できるドナルド・マクドナルド・ハウスがあるので、予約が取れる日にはハウスに滞在し、それ以外は自宅から1時間ほどかけて通っていました。ちょうどコロナ禍で感染拡大している時期で、ハウスを利用できる人数の制限もあったのですが、それでも病院のすぐ隣にあるので、利用できてすごく助かりました。
ダンスと野球観戦が大好き!明るく活発な女の子に
――右半身にまひがあるという萌ちゃんですが、日常生活で不自由を感じることや介助が必要なことはありますか?
奈緒 不自由を感じることも介助が必要なこともほとんどないんです。右側のまひについては、手をあげたりすることはできますが、右手指先のまひは重く、ものをつかんだりすることはできません。
けれど萌は左手だけで大体のことができるし、学校の勉強も左手でしています。
体育の授業では、ドッチボールをキャッチするなどの両手を使う動作は難しいこともありますが、それ以外はみんなと同じようになんでもやっています。自転車も意外に器用に乗りこなすので、幼稚園年長のときにはもう補助輪が外れていたくらい、運動が大好きな活発な女の子です。
――萌ちゃんが学校の勉強以外で好きなことはどんなことでしょうか?
奈緒 萌はダンスが大好きで、小学校1年生のころから、日本ハムファイターズのダンスアカデミーに毎週通ってダンスを習っています。ファイターズ公式チアリーダーの先生に教えてもらいながら楽しく練習していて、年に何回か球場で踊ることもあって、とっても楽しんでいます。
日本ハムファイターズの始球式 に登板!
――萌ちゃんは日本ハムファイターズの近藤健介選手のファンだそうですね。
奈緒 はい。私も夫も野球が大好きで、萌が2才半のころからドームに連れて行って観戦していたので、自然と好きになったんだと思います。萌は中でも近藤選手の大ファンです。
近藤選手は2020年から、日本プロ野球選手会の社会貢献活動の一環として、ドナルド・マクドナルド・ハウスに寄付する活動をしているそうなんです。2020年に萌の入院中、私がハウスを利用したときにそのことを聞いて、萌が近藤選手の大ファンだったことから応援メッセージを送らせてもらったことがありました。そのときからのご縁で、今回始球式で投げさせてもらえることになり、さらに始球式の前にはサプライズで近藤選手と対面する機会もありました。
――近藤選手とサプライズ対面したとき、始球式のとき、萌ちゃんの様子はどうでしたか?
奈緒 驚きと感動で言葉が出ないくらいかたまっていました(笑)なんとか頑張って「大好きです」ということと「1000本ヒットおめでとうございます」とだけ伝えることができました。
萌は始球式の1カ月前に参加が決まってから、毎週土曜日におじいちゃんと一緒にたくさん練習していました。貴重な機会をもらえてとても感謝していますし、始球式で頑張ってボールを投げた姿を見て、ここまで大きくなったんだな、と萌の成長をとってもうれしく感じました。
【主治医・藤田裕樹先生より】リハビリに前向きに取り組む姿勢に成長を感じた
初めて会ったのは生後8カ月のとき。はいはいやひざ立ちができるようになり、さらにまひの改善を目的としたリハビリをするための母子入院のときでした。右の腕・手、脚・足にまひがある萌ちゃんの、今後の整形外科的治療の可能性についてしっかりと向き合っていたお母さんの姿勢が印象的でした。
運動発達が伸びるにつれて右手の器用さの問題、右尖足の問題が浮上してきましたが、それを隠すことなくファイターズガールのダンススクールに通い、それを外来で恥ずかしそうに報告してくれる萌ちゃんがいました。
複数回のボトックス治療を経て右尖足に対しては9歳時に手術を施行しました。入院中のリハビリに対する前向きな姿勢、自分の意見を医師に伝える姿に、外来で診てきた萌ちゃんとは違う成長した一面を垣間見た気がしました。
今後も整形外科的な治療の可能性はありますが、札幌ドームの大観衆の前で始球式を見事やり遂げた彼女ならすべてを乗り越えられると信じています。
最後に、彼女の通院及び治療に常に真摯(しんし)に向き合い、やむことのない献身的なサポートを続けているお母さん、それを支えるお父さんに感謝及び敬意を表します。
お話・写真提供/髙橋奈緒さん 取材協力/公益財団法人ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン 協力/藤田裕樹先生(北海道立子ども総合医療・療育センター リハビリ整形外科) 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
近藤選手のどんなところが好きかを聞くと「笑顔がすてきなところが好きで、近藤選手がヒットを打つと元気をもらえます」と萌ちゃん。サプライズ対面したときには「うれしかったけど、目も合わせられないくらいドキドキしてしゃべれなかった」のだそうです。
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
ドナルド・マクドナルド・ハウス さっぽろ
病気と闘う子どもとその家族を支える滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウス」は、全国に12施設あり、いずれも小児病院のすぐ近くにあり1日1人1000円で利用することができます。
さっぽろハウスは仙台以北で唯一の小児専門病院である、北海道立子ども総合医療・療育センターに隣接し、運営はすべて寄付・募金とボランティアの活動によって支えられています。詳細は財団ホームページから確認できます。