意外とあいまいで難しい、日常生活の「清潔」「不潔」の境界線は?【ママ泌尿器科医】
ママであり泌尿器科医でもある岡田百合香先生の連載第30回。今回のテーマは、「清潔」について。「パジャマは毎日洗濯するべき?」「おふろは毎日入らないと不潔?」といった、日常生活の清潔の感じ方は家庭や文化によって異なり、あいまいなもの。岡田先生が医師の立場から、日常生活の「清潔」「不潔」について考えます。「お母さんのためのおちんちん講座」ママ泌尿器科医#30です。
医療現場の「清潔」と日常生活の「清潔」の違い
「清潔は大切です。」
「子どもの性器を正しくケアすることで、清潔な状態を保ちましょう。」
よく聞く言葉で、何の疑いの余地もないと思いますよね。
最近この「清潔」について、スッキリしない気持ちを抱えています。
もともと日本は世界有数の清潔国といわれてきましたが、新型コロナウイルスの流行により手洗いや手指消毒が急激に社会に広がりました。
泥遊びをしたあとの手などはともかく、パッと目で見ただけでは自分や相手の手が清潔なのか、菌・ウイルスがたくさん付着しているかわかりません。
わからないからこそ、「汚いかもしれない」と過剰に手洗い消毒をしなければ不安になったり、洗いすぎ・消毒のしすぎで手荒れを起こすような事態も生じています。
子どもの性器についても洗い方、洗う頻度、石けんをつけるか否か・・・講座でもよく質問を受けます。多くの保護者が、いかに清潔を保つかに気を配っているかがわかります。
ただ、手指消毒と同様に、こちらも「正解」「答え合わせ」が難しい。
病院で「清潔」という言葉を使うとき、そこには明確な定義があります。
決められた手順にのっとった手洗いを行い、滅菌されたタオルでふき取り、消毒を刷り込んだのちに、滅菌されたガウンや手袋を装着するという、「無菌状態」を指します。
ただし、常時「清潔」状態で業務を行うのかというとまったく違います。
あくまでも、手術や絶対に菌を混入させてはいけない部位の処置をする際に特別に行うもので、通常の診察や検査は一般的なゴム手袋や通常の手洗い消毒(「不潔」状態)で行っています。
「清潔」の意味が明確な病院と違い、日常生活における「清潔」「不潔」という言葉の使い分けはあいまいで、一体どういう状態を指すのかなと疑問に思うことが多々あります。
日常生活で「清潔」「不潔」のラベリングはあまり意味がない
たとえば。
子どものパジャマは毎日洗濯すべきなのか。
おふろは毎日入らないと不潔なのか。
床に落ちた食べ物を食べたら病気になってしまうのか。
ちなみにわが家は、涼しい季節であればパジャマは何日か連続で着せています。
家庭によって「1回着たらもう不潔!」「1週間くらいは清潔」などそれぞれ違うと思います。入浴も同様、子どもが入浴前に寝てしまったときに「起こしてでも入れる」という人から、「まあ1日くらい入らなくてもいいでしょ」という人まで。
これらは、親の清潔観だけなく子どもの体質も大きいでしょう。皮膚の強い子と弱い子で、汗や汚れへの許容度は違います。「2日以上入浴させなかったら不潔」といった線引きはわかりやすいですが、それが引き起こす結果は個々によって異なるため、そういった画一的な「清潔」「不潔」のラベリングはあまり意味がないようにも感じます。
つまるところ、現在日常生活で使われている「清潔」「不潔」は個人の清潔観、家庭での教育や習慣によって「なんとなく」決まっているところが大きいというのが私の考えです。
だからこそ、清潔観の違いから対立が生じたり、トラブルになったとき、明確な正解がない分解決するのが少し難しいかもしれません。
専門家は「清潔を保ちましょう」というあいまいなメッセージではなく、もう少しわかりやすい考え方や個々に応じた方法を提示していかなくてはと自戒も込めて。
「清潔」は健康に過ごすための手段の1つにすぎない
余談ですが、以前ドイツに滞在していた際、飲食店に行くとたくさんのハエが飛んでいて驚きました。一方でドイツ人にとってはとくに大きな問題ではない様子。日本であればハエの飛んでいる飲食店や料理=不潔という認定になってしまいそうですが、清潔の常識や基準も国や文化によって大きく異なるのですね。
日常的に使われる「清潔」という言葉は、定義や基準があいまいかつ、答えや成果が見えにくいものです。
ゴールの見えない「清潔」を追い求めすぎることで、ストレスや疲れを感じたり、逆に健康を損なってしまっては本末転倒。
清潔は目的ではなく、健康や元気に過ごすための1つの手段でしかないことを忘れずに過ごしたいものです。
文・監修/岡田百合香先生 構成/たまひよONLINE編集部
清潔を意識することは大切ですが、子どもの健康や皮膚の状態などに合わせて、消毒のしすぎなどに気をつけましょう。次回も子どもの性や、性器、排せつ、性教育など、ママ・パパが気になるお話をお届けします!お楽しみに。
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