「お母さん、行かないで!」の言葉が辛かった…。障害児もきょうだいも子どもらしく生きて欲しい。団体を設立した母の想い
障害や重い病気を持つ兄弟姉妹がいる子どもを「きょうだい児」といいます。お世話や介護に精一杯な親の様子を見て、きょうだい児は「寂しい」と言えずに我慢したり、親の愛情を実感できずに塞ぎ込んでしまうことも。
きょうだい児・家族の支援団体「ブレイブキッズ」代表の岡田実和子さんは、自身の子育て経験から「きょうだい児のための団体を作ろう」と決意し、“きょうだい児問題”がまだそれほど知られていなかった10年以上前から活動を続けてきました。今回は、岡田さんにこれまでの経緯や活動について伺いました。
「 たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
NICUの廊下で、1人ぽつんと待っていた2歳の長男
――岡田さんはきょうだい児や家族の支援団体「ブレイブキッズ」を運営しておられます。そのきっかけとなった、ご自身の育児のことを教えてください。
岡田 長男が2歳の時に、次男が脳性まひの障害を持って生まれました。その時から次男中心の生活になり、長男を連れてNICU(新生児集中治療管理室)に毎日通う日々が始まりました。NICUには子どもは入れてもらえないので、廊下でひとりぼっちで長男を待たせることもあって…。まだ甘えたい盛り、遊びたい盛りなのに遊んであげる時間が本当になくなってしまい、我慢をさせたり、泣かせてしまうことがすごく多くなりました。
今でもはっきり覚えているのは、長男を幼稚園に預ける朝のことです。長男を預けた後で私はそのまま次男を連れて病院に行かなければいけなかったのですが、そのことを察していたんでしょうね。「行かないで、行かないで!」「僕も行く!」としがみついてきたんです。幼稚園の先生が長男を羽交い絞めにして「お母さん、今のうちに!」と私を行かせてくれたんですけど、大泣きしている長男を置いて後ろめたい気持ちで去ったことは忘れられません。
――そういったご経験が、団体の設立につながったのですね。
岡田 直接のきっかけとなったのは、長男が4歳の時に、きょうだい児向けのワークショップに参加したことです。そこは「きょうだい児にお母さんを独り占めする時間を作ってあげる」という場で、次男を私の親に預けてから1日がかりで長男と参加しました。すると長男は1日じゅう上機嫌で、わがままも一切言わずに、とにかく楽しそうにしていたんです。そんな表情を見たのが本当に久しぶりだったので、長男にとってすごく大事な時間になったんだなって感じました。
ただ、そのワークショップは遠方だったので、しょっちゅうは通えません。そこで、長男と同じようなきょうだい児のためにも、支援団体を自分で立ち上げることにしたんです。「ブレイブキッズ」設立は2009年。当時私たちは埼玉県川口市に住んでいたのですが、通っていた施設や親の会のお母さんたちに声をかけて活動をスタートしました。
パーティー、貸し切りスケート…気兼ねなくたっぷり遊べる場を提供
――私(ライター)も自閉症の兄を持つきょうだい児ですが、きょうだい児という言葉を知ったのは2009年頃で、ちょうどブレイブキッズさんの設立の頃です。当時はきょうだい児の問題は今以上に知られていませんでしたね。
岡田 当時はまだ珍しかったですね。私はその頃、障害児のための育児セミナーにいろいろと出席していたんですが、きょうだい児研究をしている先生のセミナーで初めてきょうだい児という言葉を知りました。
インターネットできょうだい児について検索したのですが、あるサイトでは大人になったきょうだい児の方々が思いをたくさん綴っていて、涙なしには読めない内容でした。きょうだい児だからという理由でいじめにあったり、いろいろな我慢してきた経験から「障害児がいる親はきょうだいを作らないでほしい」と吐露していたりと、ネガティブな思いであふれていたんです。それだけつらい経験をしてきたんだなと痛感しました。
支援団体を立ち上げたのは、これからの子どもたちにはそういったつらさを感じさせたくないという気持ちもありました。当時4歳の長男に「車いすの子とかのきょうだいが、みんなで遊べる時間を作るよ」と伝えたら、「遊べるの!?」ってすごくうれしそうな顔をしていたのを覚えています。
――ブレイブキッズの活動内容を教えてください。
岡田 きょうだい児の子どもたちに遊びの体験の機会を提供しています。最初はきょうだい児と親だけの参加に限定していたのですが、障害のある子のデイサービスなどの預け先が当時はほとんどなく、参加できないご家族が多かったことから、家族全員で一緒に遊ぶようになりました。スポーツなどきょうだい児限定のイベントもありますが、いずれも家族で楽しくスキンシップが取れるイベントやプログラムです。
障害児を持つご家族は、なかなか自由に遊ぶことができません。例えば知的障害のお子さんは奇声を上げたり、飛び出してどこかに行く可能性などがあるので人混みが多いところに行くのは難しくなります。医療的ケアが必要なお子さんの中には、常時呼吸器など医療機器の荷物が多くて、外出するのが本当に大変な場合もあります。人の目が気になって遊びに行けないという親御さんもいるので、私たちのイベントを通じて伸び伸びと気兼ねなく遊んでほしいという思いがあります。
ハロウィンパーティーやスケート体験は、毎年恒例のイベントになりました。特にスケート体験は平日の夜にスケートリンクを貸し切って、車いすの子も参加できるようにしました。周りの目を気にせず、家族全員で参加できると好評です。
きょうだい児に「あなたが大事」と伝えてほしい
――親御さんのためのヨガ教室も毎月開催されていますね。
岡田 私の地元の同級生がヨガの有名インストラクターで、スケート体験のボランティアに来てくれた時に「お母さん向けにヨガを教えてあげようか?」と申し出てくれたことから始まりました。日々のお世話や介護などで腰痛やひざがつらいお母さんたちが多くて、1回試しに開催したら「気持ちよかった!毎日やってほしい」と大好評で、今では毎月開催しています。ヨガとその後のおしゃべりタイムで、良いリフレッシュの機会になっています。
――保護者やきょうだい児の皆さんとコミュニケーションを取る中で、感じたことはありますか。
岡田 我が家も最初そうだったのですが、きょうだい児に共通しているのは「寂しい思いをしている」ということです。お母さんやお父さんと過ごす時間が極端に少なくなるだけでなく、障害を持つきょうだいのことを学校でからわれたり、いじめにあう子も少なくありません。
また、大人になったきょうだい児の人たちに話を聞くと、きょうだいゲンカで暴力を振るわれたことを我慢の末に親に泣いて訴えても「この子は障害があってしょうがないのだから、あなたが我慢しなさい」と言われたことが大きな傷になった人もいます。「障害があるから」と親があきらめたりせず、そこはちゃんと注意してあげてほしいなと思います。
――私の親もそうでしたが、障害を持つ子のお世話に一生懸命なだけに、そのきょうだいにまでは気がなかなか回らなくなってしまうようですね。
岡田 そうですね。保護者の皆さんのお話を聞くと、障害を持つ子に対してはもちろん、きょうだい児のことも皆さんすごく大事にして、可愛がっているんです。でも、かける時間がどうしても違ってしまいますし、自分は成長してお世話をしてもらうことが減ったけれど、障害を持つ子はいつまでもお世話をしてもらえる。そんな気持ちから「○○ちゃんばっかり。自分なんていらないんでしょ」「弟のほうがかわいいんだ」といった不満を持ってしまいがちです。
時間のゆとりを作るのは難しいかもしれません。でも、だからこそしっかり声を上げて、「あなたのことがとっても大事」と、何度でも言葉と態度で伝え続けてほしいなと思います。
「ブレイブキッズ」代表 岡田実和子さん
東京都出身。大学1年生の長男と、特別支援学校高等部2年生の脳室周囲白質軟化症(PVL)児の母。2009年、障害児のきょうだいと家族を支援する会「BRAVE KIDS(ブレイブキッズ)」を設立。代表を務め、イベントや情報交換の場を提供している。
(取材・文 武田純子)
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