「おしっこが出にくい・・・」からわかった長男の小児がん。テニスボール大の腫瘍ができ、気づいたときはステージ4の状態。闘病をきっかけに音楽の力で支援を【体験談】
エイベックス・ヘルスケアエンパワー合同会社の代表を務める保屋松靖人さんには、21歳の長男と18歳の長女がいます。21歳の長男に小児がんの一種である「横紋筋肉腫」が見つかったのは2013年10月。小学校6年生のときでした。
保屋松さんに当時のことや、小児がんの子どもたちを支えるために必要な社会的支援について聞きました。同社では2023年2月15日の国際小児がんデーに「小児がん治療支援チャリティーライヴ」行います。18時スタート、LIVE以外に無料のオンライン配信もあります。
「おしっこが出にくい」と言われて受診。膀胱にテニスボール大の腫瘍が
サッカーやボーイスカウト活動にも積極的に参加するなど、活発で元気な長男。しかし体調に異変が現れたのは2013年10月。小6のときでした。
――まずは、どのようなことから「おかしい?」と思ったのでしょうか。
保屋松さん(以下敬省略) 長男が妻に「おしっこが出にくい」と話したのが始まりです。妻が、近所の総合病院に連れて行ったのですが、当初は膀胱炎(ぼうこうえん)とか尿道炎なのかな!? と思っていました。
しかし検査を受けた1週間後、医師から電話があり「大切な話があるので、できたら両親一緒に病院に来てほしい」と言われ、妻と一緒に病院に行きました。両親一緒にと言われ嫌な予感がして、一抹の不安がありました。
――検査結果について、どのような説明だったのでしょうか。
保屋松 医師には「膀胱にテニスボール大の腫瘍があって尿道を圧迫しています。おしっこが出にくかったのはそのためです。悪性腫瘍の可能性があるので、紹介状を書くから、すぐに県立のこども病院で診てもらってください」と言われました。紹介されたこども病院は、小児がんの拠点病院です。
――テニスボール大の腫瘍というとかなり大きいですが、触ってもわからなかったのでしょうか。
保屋松 すごく注意深く触るとわかったのかもしれませんが、本人も私たちも腫瘍にはまったく気づかなかったし、痛みもありませんでした。唯一の症状は「おしっこが出にくい」ということだけ・・・。
紹介されたこども病院では、MRI、CTそして患部の一部の組織や細胞などを採取し、顕微鏡などで調べる生体検査などを行いました。
検査結果を待たずに、医師からは「小児がんの一種の横紋筋肉腫の可能性が高いです。入院は長期化します」と言われ、受診した即日に入院となりました。
検査の結果、ステージ4と判明
精密検査の結果、長男は小児がんの一種の「横紋筋肉腫」と判明します。
「横紋筋肉腫」は、皮膚の下の筋肉などやわらかい組織で本来は筋肉(骨格筋)になる未熟な細胞から発生する腫瘍です。発症頻度は、小児から若年成人の中で100万人当たり4~5人程度。日本では年間90人程度発症すると推定されている、まれながんで、6歳未満が約7割を占めます。体のどこにでも発症しますが、頭頸部、目の奥、泌尿生殖器、手足が多いです。
――精密検査の結果を教えてください。
保屋松 息子はステージ4で、すでに転移も見られますと言われました。ただし、小児がんの場合は大人と比べて治る率も高いので、気を落とされないようにと言われたのが救いでした。
治療は、抗がん剤による治療、放射線治療、手術と説明されました。
私は手術をすることのリスクを質問したのですが、人工肛門になる可能性があるとのことでした。
実は、私の父や義理の母も末期のがんで亡くなっていて、進行したがんの治療がいかに厳しいかということを感じていたのですが、なぜか息子のがんに関しては「絶対に助かる! 絶対、息子の命は守れる!」という感じがしていました。
――長男には病気について説明をしたのでしょうか?
保屋松 子どもへの告知の考え方は、家庭によって異なりますが、うちの場合は告知しませんでした。義母ががんで亡くなったとき、長男は8歳で記憶が残っています。
がん=亡くなる病気とは思ってほしくないので、「膀胱のところに肉腫というものができていたから、おしっこが出にくかったみたいだよ。治療すれば治る病気だから大丈夫」と励まし続けました。また入院している病棟のスタッフの方にも、「長男の前で“抗がん剤”などの言葉は使わないでほしい」「がんと悟られないようにしてほしい」とお願いしました。
長男の身のまわりの世話は妻が中心に、そして、私自身はよりよい治療の選択肢がないか、長男の小児がんについてとことん調べました。知り合いを通して、ほかの病院の医師に話を聞いたりもしました。
そんな中で、とある医師の方から、アメリカに横紋筋肉腫の世界的な名医がいることを教えていただきました。そして海外での治療やセカンドオピニオンをサポートしてくれるエージェントに相談したところ、アメリカの医師と直接、メールでやりとりできるようになりました。
アメリカの医師が言うには、当時の日本の横紋筋肉腫の治療は、アメリカよりも5年ぐらい遅れていて、アメリカで治療するならば5年生存率はさらに高くなる、そして手術も不要と言われました。
しかしネックとなったのが高額な治療費です。エージェントからは「1億円は必要だろう」と説明され、さまざまな方法でお金を集めようとしました。家や土地を担保にして3分の1ぐらいはどうにかめどがたっても、その後が進みません。あせりながらも、1日1日と時間だけが過ぎていきます。
するとアメリカの医師からメールが。メールには「アメリカで治療するならば一刻も早く来てほしいけれど、お金の準備が大変ならば、治療のプロトコル(治療内容を詳細に記した実施計画書)を送るから、それを日本の主治医に見せて治療ができるかかけ合ってはどうだろうか? 尊い子どもの命を守るには、日本もアメリカも関係ない」と書かれていました。とても驚きましたし、感謝しかありませんでした。
――アメリカの医師のプロトコルに沿って、治療は進んだのでしょうか。
保屋松 主治医にプロトコルを渡して、これまでの経緯を説明したところ、主治医も「そんなことあるの?」とすごく驚きつつ、「すぐに院長にかけ合うから」と言われて、こども病院内での検討を経て、アメリカの医師のプロトコルに沿った治療が始まりました。
つらい抗がん剤治療で、明るい長男から初めて弱音が
長男の入院は1年以上におよび、保屋松さん家族は長男の心が折れないようにサポートを続けたそうです。
――抗がん剤の治療は、つらいと思いますが、どのように励まし続けたのでしょうか。
保屋松 これは本当に難しかったです。抗がん剤治療は大人でも苦しい治療です。髪の毛は抜けるし、食欲がなくなりやせます。あとおなかを下す回数も増えました。活発で明るく、前向きな長男が初めて弱音を吐きました。吐きけと痛みがつらすぎて「死にたい」って言うんです。親としてもつらすぎました。変わってあげたい気持ちでいっぱいでした。
――小6の10月から入院というと、卒業式にも出られなかったのでしょうか。
保屋松 小学校の卒業式は出られなかったです。1年以上入院していたので、退院して復学したのは、中1の後半からです。
一時退院したとき、小学校の先生から連絡があり「卒業証書を渡したい」と言われて、私と妻と息子で小学校に行き、校長室で小さな授与式を行ってもらいました。お友だちも来てくれていて、息子もすごく喜んでいました。
――がんが発症していない状態が続いている寛解となったそうですが、それまでのことを教えてください。
保屋松 退院後は3~4カ月に1回ぐらい定期検査・診察があり、それが約3年続きました。その後、年に2回ぐらいの定期検査と診察が2年ほど続き、術後5年を経過しても再発がなかったので、18歳のときに寛解となりました。
長男は現在21歳で大学生ですが、年に1回の定期検査は欠かせません。
国際小児がんデーの2月15日、チャリティーライヴを開催! オンライン視聴は無料
2023年2月15日の国際小児がんデーに合わせて、小児がん治療支援チャリティーライヴ「LIVE EMPOWER CHILDREN 2023 supported by 第一生命保険」が、LIVE(NHKホール)とオンラインで行われます。主催は、保屋松さんが代表を務める、一般社団法人Empower Childrenです。
――小児がん治療支援チャリティーライヴ「LIVE EMPOWER CHILDREN」を始めた理由を教えてください。
保屋松 長男が入院していたとき、同じ病棟に白血病の治療をしている女の子がいました。ある日、長男とその子が好きなアーティストの話をしていたときに、その子が偶然にも私が担当しているアーティストのファンだと知ったらしいんです(当時、保屋松さんはエイベックスでTRFなどのマネージメントを担当していました)。
長男は、その子を励ましたかったのだと思います。私にそのアーティストのサインをもらってきてくれないかと言ってきました。普段なら長男のそのようなリクエストに応えることはしていません。でも、長男の抗がん剤の治療のつらさを目の当たりにしていたので、女の子も同じだろう。少しでも心の支えになれるのならと考えて、アーティストにお願いして、色紙にサインとメッセージを書いてもらいました。
女の子に渡したところ、すごく喜んでくれてました。「抗がん剤治療が苦しくて、今まで泣いて嫌がっていたのだけれど、治療に前向きになってくれた」と書かれたお手紙をご家族からいただき、改めてアーティストの力って偉大だと感じました。
そうした経験を経て、2018年1月にエイベックス・ヘルスケアエンパワー合同会社を設立。同年4月には、一般社団法人Empower Childrenを設立し、エンタテインメント×ヘルスケアの力で、小児がんと闘う子どもたちをサポートしたり、がんの早期検査や検診の啓発活動などに取り組んでいます。
――保屋松さんが考える、小児がん治療の課題について教えてください。
保屋松 小児がんは、大人のがんより患者数が少ないので、新薬の開発などが進みにくいです。
また小児がんは、入院が長期化することが多いのですが、医療施設によっては学習支援が十分できないところもあります。とくに高校生以上のAYA世代では、学習に遅れが出やすい課題があります。ほかにはがんが寛解しても、医療保険に入れなかったり、加入条件が厳しくなったりするので、その後、万一病気をした場合、経済的な問題を抱えやすくなるという課題もあります。
小児がん治療支援チャリティーライヴ「LIVE EMPOWER CHILDREN」は、今年で4回目ですが、いただいた寄付金と公演の利益全額を一部の小児がん拠点病院やほかの小児がんサポート団体に寄付し、小児がんと闘う子どもたちやその家族を支援しています。回を重ねるごとに支援の輪が広がってきていることを実感しています。チャリティーイベントは継続が必要なので、応援よろしくお願いします。
お話・写真提供/保屋松靖人さん 取材協力/エイベックス・ヘルスケアエンパワー合同会社 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
日本では年間2000~2500人の子どもたちが小児がんと診断されています。子どもの病死の1位は小児がんです。子どもたちの尊い命を救うためにも、さらなる医療の向上が求められています
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は記事執筆当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
■小児がん治療支援チャリティーライヴ「LIVE EMPOWER CHILDREN 2023 supported by 第一生命保険」
2023年2月15日、18:00からABEMA、dTV、LINE LIVE、TikTok、YouTube、Z-aNの6つのサービスで無料オンライン配信を実施します。参加アーティストは、相川七瀬、大黒摩季、Girls²、ゴスペラーズ、SAM・ETSU・CHIHARU・DJ KOO from TRF、Da-iCEほか。オンライン視聴を楽しみながら、公式サイトより寄付ができます。