虐待が疑われた家族も! 就寝中の子どもの首に、隣で寝ているママの髪の毛が巻きつく「ヘアターニケット症候群」【専門家監修】
赤ちゃんの手指に体毛や糸が巻きついてしまう「ヘアターニケット症候群」というものがあります。数年前にタレントがSNSで発信したことなどもあり知られるようになりましたが、添い寝しているうちに、子どもの首にママの髪の毛が巻きつく「頸部ヘアターニケット症候群」という事故について聞いたことはありますか?
頸部のヘアターニケットに詳しい大阪医科薬科大学法医学教室 鈴木廣一名誉教授に話を聞きました。
ママや上の子の長い髪の毛が、赤ちゃんの首に巻きついて起こる
赤ちゃんの手や足の指に体毛や糸が巻きついてしまう「ヘアターニケット症候群」は、髪の毛や糸が巻きついたところから先の部分の血流が悪くなり、最悪の場合、壊死してしまう危険性があります。しかし症例報告が少ないために、知らない医師もいます。
「指のヘアターニケットと同様に頸部ヘアターニケットについても医師の間ではあまり知られていないと思います。調べてみたところ海外で2歳の男の子がママと添い寝中に髪の毛が首に巻きついて、しまる事故が起こっていました。その事例は、医学雑誌「ランセット」(1978年3月11月号)に載っていて、リバプール大学アルダー子ども病院子どもの健康学教室 A. D. キンドレー医師、R. McL. トッド医師からの報告でした」(鈴木先生)
それは以下のようなものです。
●2歳3カ月の男の子の頸部に幅1㎝ほどの表皮剥脱性の索状痕(ひものあと)があった。多数の溢血点(窒息などによって生じるあずき大以下の小出血)もあったもののほかに異常はみられない。
両親が言うには、ママが腰まである髪の毛を、結わいたりせずに寝ていたところ、背中のほうに男の子がすり寄ってくるのを感じた。パパが寝室に入ってきたので、ママが目を覚ますと、髪の毛がぐいっと引っ張られた感じがした。ママがベッドに座ると、ママの頭が後ろに引っ張られ「ゲボッ」という音がした。
パパが見ると、男の子がママと背中合わせの状態で、首にママの髪の毛が巻きついていて、ぶら下がっている状態だった。チアノーゼが出ていたので、パパは急いで首に巻きついた髪の毛を取った。すると男の子はせき込んで、すぐに息を吹き返した。
また日本小児科学会のホームページにある「Injury Alert(傷害速報)」でも、同じような事故が報告されています。
●2022年、10カ月の女の子とママが添い寝で寝ていると、子どもの首に髪の毛がからまり、首がしまるような状態になったと思われる。
子どもの泣き声でママが起き、髪の毛が首にからまっていることに気づいた。パパが寝室に駆けつけて、はさみで髪の毛を切った。首がしまった状態は5分程度続いたと推測される。子どもの顔がうっ血していたため、救急車を呼んだ。病院到着時、目は合い、意識もはっきりしていたが、経過観察のために入院する。腹部超音波検査なども行ったが、異常はなかった。
「Injury Alert(傷害速報)」で報告されたママの髪の長さは、58cmで腰ぐらいでした。Injury Alert(傷害速報)には、過去に報告された同じような事故も記載されています。なかには5歳の上の子の髪が腰ぐらいまであり、1歳7カ月の下の子の首に髪がからまった事故もあります。
事故を防ぐには、髪を短くしたり、髪を結わいて眠る対策を
鈴木先生によると、ロングヘアだけでなく、背中ぐらいの長さでも注意が必要と言います。
「毛先が絡まって輪ができ、寝ているときに偶然その輪の中に子どもが首を入れてしまうこともあります。とくにパーマをかけていたり、染めていたり、髪の毛が傷んでいると毛先がからまりやすいので、より注意が必要です。
子どもが、ママの髪を触りながら寝ているうちに毛先がからまり、輪ができることもあるでしょう。
事故を防ぐには
①髪を短くする
②添い寝をしない
③夜眠るときに、1つに結わく
という方法があります。上の子の髪の毛が下の子の首に巻きつくこともあるので、きょうだいで一緒に寝ている場合も同様の対策をとりましょう」(鈴木先生)
子どもの首に髪の毛がからまったときは、あわてないで! ママが動くと余計に首がしまることも
万一、ママの髪の毛が子どもの首に巻きついたときはどうしたらいいのでしょうか。
「ママがあわてて動くと、余計に首がしまることがあります。そのためパパなど助けてくれる人を呼んで、巻きついた髪の毛をすぐに取ってもらいましょう。
はさみで髪の毛を切るときは、子どもを傷つけないように注意してください。子どもに近いところを切るのは危険です。
子どもが吐いたり、顔色が悪かったり、呼吸が苦しそうなときは、診察時間外ならば救急車を呼んでください」(鈴木先生)
この事故で、虐待を疑われたケースも
鈴木先生はこの事故で虐待を疑われ、児童相談所が一時子どもを保護した例があると言います。
「2019年12月、大阪でこの事故によって虐待を疑われたママ・パパがいました。就寝中に、隣で寝ている子どもの首にママの髪が巻きつき、首にはしめたような跡が残りました。痛がる様子もなかったため、いつも通りに保育園に連れて行き、保育者に傷のことを説明したものの、虐待が疑われて、子どもは児童相談所で一時保護されることになりました」(鈴木先生)
虐待を疑われるケースがあると、受診をためらうママ・パパもいると思います。しかし鈴木先生は、必ず受診してくださいと言います。
「首をしめたときにできる跡は、すぐにはできません。ぶつけたときにできるあざと一緒で、数時間すると首のまわりにしめられた跡ができます。
そうした跡ができても『元気だし、顔色もいいから大丈夫』などと自己判断しないでください。念のためかかりつけの小児科を受診しましょう。
万一、虐待が疑われた場合、医療機関を受診していないことがわかると、より虐待が疑われます。
また髪の毛が子どもの首に絡まるヘアターニケット症候群は、まれな事故ですが、こうした事故があることを、もっと多くの小児科医に知ってほしいと思います」(鈴木先生)
お話・監修/鈴木廣一先生 協力/公益社団法人日本小児科学会 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
「ヘアターニケット症候群」というと、赤ちゃんの指に髪の毛や糸などがきつく巻きつく事故を想像しがちですが、首に髪の毛が巻きつくことも。就寝環境を見直してみましょう。
鈴木廣一先生(すずきこういち)
PROFILE
大阪医科薬科大学 法医学教室名誉教授、嘱託教員。医学博士。大阪医科大学医学部卒。専門は法医学、DNA多型医学。
●記事の内容は2023年3月の情報であり、現在と異なる場合があります。