2児の母の絵本作家が考える、子どもを性犯罪から守る術。自身の痴漢体験もベースに【はまのゆか】
9歳と3歳の子育て中である絵本作家、はまのゆかさん(44)。性教育の絵本も出版しているはまのさんに、子どもを性犯罪から守るために普段の生活で気をつけていることなどについて話を聞きました。
子どもたちを性犯罪から守りたい
――絵本作家であるはまのさん、性教育をテーマにした絵本も出版しています。イベントなどで、子どもを性犯罪被害から守るための資料も作成し配布しているそうです。
はまのさん(以下敬称略) 私が子どものときに痴漢犯罪や不審者に出会ったことがあって、同じ思いを自分の子どもたちにしてほしくないという思いが強くあります。5年ほど前に上の子の保育園で「いのちのおはなし会」に参加したことも影響しています。
性犯罪は身近にあるという危機感から、子どもを性犯罪から守るためにどうすればいいか自分で本を読んだり、2人の子どもと一緒に考えたりしています。
――性犯罪から子どもを守るために、親としてどんなことができるでしょうか。
はまの 性犯罪についてのニュースを目にしたら子どもと話して、身を守るにはどうしたらいいかを一緒に考えることだと思います。以前インターネットで見かけた記事では、犯罪者は20メートルくらい離れたところからターゲットの子どもを見つけて近づき、ターゲットとの距離が6メートルくらいになったときに一気に襲いかかる、と書いてありました。また、そこには、こんな実験のことも書かれてありました。子どもと犯罪者役の距離を6メートルとって、同時に走りだした場合、ランドセルを背負った低学年の子どもが、走って20メートル逃げ切れたそうです。
それで、実際に9歳の上の子が小学校から下校したときに、一緒に家の前の道路でやってみました。私が加害者役で子どもから6メートル離れた位置に立ち、「行くよ!」の合図で子どもに全力で20メートルの距離を走ってもらい、私は全力で子どもを追いかけました。結果、私は全然子どもに追いつけなかったんです。実際にやってみて、「全力で20メートル走れば、変な人がいても逃げ切れるかもしれないね」と親子で実感できました。
――ただ、実際に被害にあうときには、怖いと思うと体がすくんで動かないこともあるかもしれません。
はまの そうですよね。私は中学生のときに自宅の門の前で痴漢被害にあったことがあります。学校から歩いて帰る途中、前を歩いていた男の人が速度をゆるめて私の後ろを歩いたり、私を追い越したりしていたので「変な感じの人だな」と思っていたんです。すると私が家の門を開けようとしたときその人が急に私の胸を触ってきました。実家には自営業の祖父がいて「きゃー!」と声をあげれば助けに来てくれる距離でしたが、そのときは怖くて声も出せず体も動きませんでした。その経験から、自分の子どもたちにも「いざというときには声を出せないかもしれないし、防犯ベルを押そうと思っても体が動かないかもしれないよ」と予備知識的な話をしています。
――夫婦での性被害についての意識の共有についてはどう考えますか?
はまの 性被害にあった経験があるかないかで、危機感はかなり違うと思います。外出先で目が届かない場所にトイレがあるときは必ず親子で一緒に行く、温泉やプールに行くときは子どもから目を離さないように気をつける、という夫婦での意識の共有は大事だと思います。
子どもの話を最後まで聞いて、なんでも話せる関係に
――子どもには、身を守るための方法としてどんなことを話していますか?
はまの 下の子はまだ3歳で、保育園の送迎も外出時も基本的にはずっと私と一緒にいて1人になる時間はあまりないので、まだ「こんな人に注意しようね」といった話はしていません。ただ、下の子はなぜかカーテンを全開にするのが大好きなので、「だれか外から見ている人がいるかもしれないからカーテンは閉めようね」と伝えています。
以前、性犯罪者についての本で、性犯罪者はターゲットを見つけたらその家のポストの郵便物を見て家族構成を調べたり、外出時間帯や通学先、学校のイベントなどを調べ上げ、家に1人でいる時間まで推測する、と読んだことがあります。3歳の子にはそこまで説明できませんが、外から室内が見えにくいレースカーテンは必ず閉めるように伝えています。
9歳の上の子には、「知らない人と話すときは、相手が手を伸ばして捕まる距離には行かないようにしようね」と話しています。大人の力で腕をつかまれたら子どもは絶対逃げきれないでしょうから。また、性被害について調べる中で、身近な人からの被害も少なくないと知ったので、子どもには「何かあったらすぐに教えてね」と話しています。
――万が一性被害にあったときのためにも、普段からなんでも話しやすい親子関係を築くことが大切なのでしょうか。
はまの そう思います。以前、子どもの司法面接をしている人のオンラインセミナーを受けました。セミナーでは、性被害にあった子どもから話を聞くときの基本は「子どもの話す内容を、途中でさえぎらずに最後までまず聞く」ことだと話がありました。その聞き方は自分の子どもとのコミュニケーションにもきっと役立つと思い、普段から子どもの話をきちんと聞く姿勢を持つようにしています。「親がいつでも自分の話を聞いてくれる」という安心感があると、何かあったときにも打ち明けやすいのではないかと思います。
親自身も性の知識をアップデートする必要がある
――最近では幼児期からタブレットを使ってYouTubeを見たり、ゲームアプリを使ったりしますが、そのときに広告で性的な刺激の強いものが表示されることがあります。そういった情報から子どもを守るために気をつけていることはありますか?
はまの タブレットやスマートフォンを子どもだけで使わせないようにしていて、YouTubeを見るときは一緒に見るようにしています。今はSNSやインターネットで、小さな子どもたちも性に関する間違った情報が入ってくることがあると思います。ちょっとした間違いから子どもの写真がインターネットで拡散されてしまうリスクもありますよね。そういうとき、正しい性知識があると自分の体を守れるんじゃないかと思い、絵本『さわってもいい?』を作りました。
――園や小学校低学年くらいだと子ども同士で「ちんちん」など下ネタを言って盛り上がるシーンを最近も目にしますが、そういったことについてはどう思いますか?
はまの 「家ではいいけど、外では言わないよ」「その言葉を聞いていやな気持ちになる子もいるんじゃないかな」と、保護者が真剣に話せば、少しずつわかっていくんじゃないかと思います。
私が子どものころはスカートめくりをして遊ぶような時代だったから、大人も「それくらいのことで・・・」という感覚もあるかもしれませんが、親の意識もアップデートしないといけませんよね。笑いながら「やめなよ」と言うのでは伝わりきらないので、真面目に「人がいやな気持ちになることはしてはいけない」と伝える必要があると思います。
お話・イラスト/はまのゆかさん 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
普段の親子の会話でなんでも話しやすい雰囲気を作ったり、いざというときの逃げ方を親子でシミュレーションしてみたり…大切な子どもを性犯罪から守るためにはまのさんが実践していることが家庭での性教育のヒントになるのではないでしょうか。
●記事の内容は2023年4月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
はまのゆかさん
PROFILE
絵本作家・イラストレーター。1979年生まれ。大阪府出身・東京在住 京都精華大学卒業。二児の母。大学在学中より村上龍の著書イラストを多数担当し、「13歳のハローワーク」(村上龍 著/幻冬舎)は、ミリオンセラーとなる。イラストを担当した作品「ママが10にん!?」(天野慶・文・はまのゆか・絵・ほるぷ出版)は、第10回ようちえん絵本大賞を受賞。最新作の絵本は「さわってもいい?」(はまのゆか さく/めくるむ)
『さわってもいい?』
子どもの遊びの中のできごとから、自分の心と体を守るために、自分の気持ちを相手に伝えることの大切さが描かれます。表紙をめくった部分には、プライベートゾーンや、性犯罪から身を守るための解説も。杏林大学保健学部教授 佐々木裕子監修。はまのゆか 作/1980 円(めくるむ)