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「10歳までいのちがもつかどうか」と言われたわが子が18歳に。少しでも多くの人にこの病気のことを知ってほしいという願い【難病アラジール症候群・体験談】

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生後2カ月の検査入院の様子。今、生きようと頑張っている姿を見守りたい、という思いが込められた吉田さんのひとこと入り写真。

4男1女、5人の子どもの父親である吉田幸司さん(44歳)。妻の麻里さん(44歳)と7人で大阪府に暮らしています。三男の真翔(まなと)くんは、生後4カ月のときに「アラジール症候群」と診断され、「移植しないと10歳までもたないかも」と医師から言われます。10万人に1人という難病にかかった息子を育てていく中で気づいたこと、感じたことを聞きました。全3回のインタビュー、最終回です。

5歳になっても身長は90cm。ついに弟に背を抜かれ

2歳下の弟と。弟の面倒をよく見るお兄ちゃんです。写真左が真翔くん。

1歳の誕生日を目前にして行った心臓の検査により、肝臓移植の可能性が断たれた真翔くん。1歳5カ月のときには弟が生まれ、お兄ちゃんになりました。その後、2歳、3歳と成長して幼稚園入園を迎えました。

「集団生活に入るにあたり、アラジール症候群がどういった病気なのか、真翔の症状がどういったものなのかを知ってもらうためチラシを作成して配布しました。子どもは大人ほど偏見がないので普通に接してくれますが、加減がわからないので思いっきり遊んでしまいます。逆に大人は注意力・警戒心が強くありすぎ必要以上に距離をとってしまうことがあると感じていたからです。
事前にできること・できないことを伝えておくことで、真翔が幼稚園生活、お友だちとの共同生活を楽しくそして仲よく過ごせるようにしたかったんです。
また、心臓が悪いので少しの運動で息切れ、大泣きすると酸素がたりなくなってチアノーゼが出たりします。そういった状況にならないよう、幼稚園に酸素ボンベを置かせてもらうようお願いしました」(幸司さん)

体中にあらわれる「黄色腫」。「うつらない」と周囲に告知

「黄色腫」について周囲へ正しい知識を広めるようにしました。

「2、3歳のころから手やひざ、ひじ、うなじや背中に「黄色腫」が現れました。胆汁のうっ滞によって皮膚にコレステロールが沈着したものです。これについてもチラシで『うつらないので安心してください』と伝えました」(幸司さん)

幸司さんのサポートのもと、幼稚園生活を思いきり楽しんでいた真翔くんですが、5歳を迎える目前に成長ホルモンの検査を受けました。身長の伸びがよくなかったのです。

「もうすぐ5歳になるのに身長が90cmちょっとしかなくて。3歳の弟にも抜かれてしまいました。
そこで、成長ホルモンが分泌されているかどうか検査を受けたのですが、基準値以上の正常でした。では、なぜこんなに身長が伸びないのか?やはりアラジール症候群特有の栄養が吸収されないことが原因なのか?と不思議に思いました。
ですが、さほど落ち込んでいない自分がいました。ほかの子と比べると背は小さいかもしれないけれど、確実に真翔は少しずつ毎日成長していることがわかっていたからです」(幸司さん)

育児をしていると、ついわが子とほかの子とを比べてしまうことがあります。

「子どもの成長のしかたは一人一人違うので、成長の過程を親として見過ごさず、きちんと感じることが大事だと思います。まわりと比較してしまうとマイナスイメージばかりになってしまうので、子どもが頑張って成長していることに目を向けることで、親としてもポジティブになれたと思います」(幸司さん)

「10歳まで命がもつかどうか」と言われ、迎えた10歳の誕生日

写真は9歳のころ。自分の病気を明確に自覚しはじめた時期。

その後、小学校に入学した真翔くん。同級生から「ちび」とからかわれたこともあったと言います。

「そんな友だちに真翔自身が『僕は病気だから、体が小さいねん!』と言い返したと言うのです。真翔が僕に話してくれました。聞いたときに、ほんと素直に『すごいな』と思いました。真翔が自分の病気を受け入れて頑張っているのだから、僕も前向きに頑張らなければ、と奮い起こされました」(幸司さん)

たくましく小学校生活を送っていた真翔くん。そしてついに10歳の誕生日を迎えます。

「10歳という年齢にはとても大きな意味がありました。生後7カ月のときに、移植をしなければ10歳まで命がもたないかも、と言われていたからです。いい意味で医師の予想を裏切ってくれました。
でも、心臓や肝臓の数値は決してよくなっているとは言えません。毎月検査に行き、1回で10本近く取られる採血。そして検査入院。とてもつらく大変だったと思いますが、毎日明るく笑顔で楽しそうに過ごす姿を見ると、一日一日の大切さや小さな幸せ、そして将来への希望を与えてもらいました。大変なことはいっぱいありますが、決して私たちは不幸ではありません。これまで見過ごしてきたこと、小さな幸せを真翔が気づかせてくれました」(幸司さん)

余命10年の可能性を宣告されてから18年。真翔くんの現在

17歳のとき、後方中央にいるのが真翔くん。2人の兄、弟と妹とともに。

真翔くんは17歳のとき、自ら「まなと基金」という団体を設立しました。治療に必要な検査を受けられる病院が少なく、遠方から高額の移動費をかけて東京に来なければならないという患者の話を聞いたことがきっかけです。

「難病は大学病院など診察を受ける場所が限られていて、交通費や滞在費の出費が患者の大きな負担になっています。『まなと基金』はそれに気づいた真翔自身が作ったもので、集まった資金は入院や治療のためにかかっている患者の長距離移動費や宿泊費支援、研究開発費支援にあてています。
現在、真翔は18歳になりました。高校を無事卒業して希望の企業に就職しました。医師からは『これほどよくなるとは思っていなかった』と言われています。
薬や定期的な通院は必要ですし、すべての問題が解決したとはいえないものの、就職に伴って寮生活をしています。
身長も、中学生のころから伸び始め、今でも伸びています。僕の背は越しました」(幸司さん)

「アラジール症候群」のことを、とにかく知ってほしい

「アラジール症候群」のことを知ってほしい、という思いから生まれたカラフルなTシャツ。

吉田さんは2007年、真翔くんが2歳のときに「日本アラジール症候群の会」を麻里さんと一緒に立ち上げました。メディアやSNSによる情報発信、講演会、グッズ販売など幅広く活動し、「アラジール症候群」の認知活動を行っています。

「わが子が難病にかかってみて初めて、社会で知られていない病気にかかるとどんな不便なことがあるのか、ということがわかりました。
真翔が風邪にかかってしまったときにも、医師がアラジール症候群のことを知らないために、アラジール症候群の薬に加えて風邪のどんな薬を出していいのかわからなかったり、診察を断られて大学病院まで行ったり・・・。
治療薬の課題もあります。海外では新薬として認められている薬も、希少難病の場合、患者数が少なく治験者を確保する費用がかさんで申請が後回しになってしまっている現状です。
海外に比べて使える薬の承認が数十年遅れている『ドラッグ・ラグ』という問題も起こっています」(幸司さん)

少しでも多くの人に難病・アラジール症候群のことを知ってほしいと幸司さんは言います。

「知らないことが患者との距離を生むので、できるだけ多くの人にアラジール症候群という病気を知ってほしいと思っています。医療や福祉の制度を改正するには時間がかかります。難病の患者や家族が何に困っているかを知っている人が増えるだけで、患者の生活の質が変わってくると思うのです
『いいね!』や『シェア』をしていただけるだけでも認知は広がります。難病患者にとって、『認知=多くの人に知ってもらうこと』が運命を分ける、と言っても過言ではありません」(幸司さん)

重く真面目なテーマだからこそ、明るくオープンに伝えたい

おそろいのTシャツを着た、吉田幸司さんファミリー。

最後に幸司さんは語ります。

「認知されないと、医療も福祉制度も進みません。難病とつき合っていくのはとても大変だけど、苦労や大変さだけを伝えても、重く苦しくなってしまいます。病気を知ってもらわないと前へ進めません。難病と向き合う事、 命と向き合う事はとても大切な事だから難しく、深く、重くなってしまいます。大切なこと、大事なことだからこそ伝えるほうも 聞く方も真面目に真剣になってしまいます。
でも、深くて重い、真面目な話になってしまうと、気軽にまわりに話せなくなります。それではなかなか想いは広がりません!認知が進みません!
だから、言葉や写真や音楽、絵や文字、ファッション、いろいろな物を使って、いろいろな感性を使って、楽しく 明るく、伝えていきたい、人の心を動かしたいのです」(幸司さん)

【近藤先生より】「アラジール症候群」は、医師でも知らない人がいる認知度が低い病気

幸司さんの「ひとこと写真」。幸せは求めるものではなくすぐそばにある、ということを気づかせてくれます。

生まれつき肝臓や心臓などさまざまな臓器に症状がある遺伝性疾患である、「アラジール症候群」。原因はまだ解明されていません。

アラジール症候群は非常にまれな病気のため、まだこの病気を診たことがない医師が多く、認知度が低い原因となっています。現在、私たちはアラジール症候群など小児の希少難病を多くの医師に知ってもらうために、大人と子どもの学会が協力して周知活動を進めています。
また、新薬の開発が望まれますが、現在、かゆみの症状に対して治験が進んでおり、間もなく世に出ると期待しています。アラジール症候群の原因遺伝子は見つかりましたが、どのようなメカニズムで病気が発症するのかは、まだわかっていません。現在、世界中でiPS細胞などを使って基礎研究が行われています。

お話・写真提供/吉田幸司さん  監修/近藤宏樹先生 取材・文/岩﨑緑、たまひよONLINE編集部 

難病患者の生活の質を上げるためには、吉田さんは「まずは病気のことを知ってほしい」と強調します。わが子のため、難病と共に歩む患者や家族のため、日本が抱える社会問題に明るく、前向きに立ち向かう吉田さんの姿がありました。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

日本アラジール症候群の会

Happy Family Life ~難病アラジール症候群との生活~

日本アラジール症候群の会(instagram)

近藤宏樹先生(こんどうひろき)

PROFILE:近畿大学奈良病院小児科准教授。大阪大学大学院医学部卒業後、大阪府立母子保健総合医療センター研究所・環境影響部門主任研究員、大阪大学大学院医学系研究科小児科学助教を務めたのち、近畿大学奈良病院に入局し、現職。

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年4月の情報であり、現在と異なる場合があります。

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