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二つの研究で卵の摂取を遅らせないほうが卵アレルギーを予防できるということが新常識に。アレルギーは予防できる時代に?【アレルギーの30年・後編】

更新

Photo by Melpomenem/gettyimages

「たまひよ」創刊30周年企画「生まれ育つ30年 今までとこれからと」シリーズでは、30年前から現在までの妊娠・出産・育児の様子を振り返り、これから30年先ごろまでの流れを探ります。小児アレルギーの研究が飛躍的に進んだこの30年。研究はどのように進められたのか、また、これからのアレルギー予防研究はどのように進んでいくのでしょうか。国立成育医療研究センター・アレルギー専門医の山本貴和子先生に聞きました。

2015年、ピーナツアレルギー予防研究に新たな一歩

白い木製のテーブルの上にピーナッツの束とピーナッツバターの瓶。自家製ピーナッツバター、自然で健康的な食べ物。モダンなウェルネスとビーガンのコンセプト。
●写真はイメージです
Evgeniya Pavlova/gettyimages

――前編では、2008年の二重抗原曝露仮説の出現を解説しました。ここからアレルギー研究はどのように進んでいったのでしょうか。

山本先生(以下敬称略)食物アレルギーはアレルゲンを食べることで予防できるらしい、そして、赤ちゃんのころから食べさせているということが重要なポイントではないか、と考えられ始めました。そこでいろいろな実証研究が行われるようになります。

2015年に、生後4カ月から11カ月未満で湿疹と卵アレルギーのある赤ちゃんを対象に、ピーナツを摂取したグループと除去したグループに分けて生後60カ月のときにピーナツアレルギーがあるかを調べる研究(LEAPスタディ)が行われました。

――ピーナツを摂取していた赤ちゃんのほうがアレルギーの発症率を抑えられていたのでしょうか。

山本 はい。ピーナツを食べさせたほうが、食べさせなかった子に比べて相対的に8割も発症を抑えられることがわかりました。これにより、アレルギーのリスクが高い子どもについては、ピーナツを早く与えることでアレルギーの発症の多くを抑えられることがわかったのです。

2017年、卵アレルギー予防にも大変革が

かたゆで卵
●写真はイメージです
sasapanchenko/gettyimages

――翌年2017年には、卵についても国立成育医療研究センターから重大な研究結果が出ました。

山本 アトピー性皮膚炎を発症した生後4~5カ月の赤ちゃんを、湿疹をきれいにしたうえで6カ月から卵を食べさせる群と、まったく食べさせない群に分け、1歳の時点で食物アレルギーの発症率を調べるという研究(PETITスタディ)です。
結果、6カ月から卵を食べさせた赤ちゃんのほうが、食べさせなかった子に比べて8割も発症を抑えられることがわかりました。

卵の早期摂取とアレルギーの関係を検証

出典/国立成育医療研究センター

生後4カ月までに発症したアトピー性皮膚炎がある、食物アレルギーリスクの高い赤ちゃんを二つのグループに分け、一つのグループには生後6カ月から全卵の粉末を少しずつ与え、もう一つのグループには卵ではない黄色い粉末(かぼちゃの粉)を食べさせた研究です。1歳の時点で卵アレルギーの発症率は、全卵の粉末を食べていたグループで8.3%、もう一つのグループ37.7%と、明らかな差が出ました。

――2017年には、日本小児アレルギー学会から「鶏卵アレルギー発症予防に関する提言」が出されました。

山本 私たちが行った「PETITスタディ」がエビデンスとなり、この提言が出されました。それまでアレルギーリスクの高い子に対しては卵を与える時期を遅らせる指導をしていましたが、それを改めて「湿疹が改善したあと、早期に微量の鶏卵を摂取させることを推奨する」という内容のものです。

乳児期早期に発症する湿疹は、食物アレルギーのリスクがいちばん高くなります。
以前は私も、当時のガイドラインに沿って、アレルギーリスクの高い子に対してはママやパパに「卵は一応1歳ごろまでやめておきましょう」と指導していました。2017年は卵アレルギーの予防方法が180度変わる、大きな転換期となりました。

2019年の「授乳・離乳の支援ガイド」では食物アレルギー予防面も考慮

上から白で隔離赤ちゃんピューレの 3 つのベビー スプーン
●写真はイメージです
bigacis/gettyimages

――2019年には、12年ぶりに「授乳・離乳の支援ガイド」が改定されました。栄養や調理の面だけでなく、食物アレルギー予防の観点からも見直されています。

山本 それまでの「授乳・離乳の支援ガイド」には食物アレルギーについては参考程度にしか記載がありませんでした。しかし、増え続ける子どもの食物アレルギーの状況を見て、また、「PETITスタディ」のエビデンスから、食物アレルギー予防の項目が追加されました。
離乳の開始や特定の食物の摂取開始の時期を遅らせることによって食物アレルギーを予防できるという根拠はないことから、生後5~6カ月を目安に卵の摂取を開始すること、とされています。

さらに、子どものアレルギー疾患予防のために妊娠中の母親や授乳中の母親が特定の食品を極端に避けたり過剰に摂取したりする必要はなく、バランスよく食べることが重要である点が明記されたことも大きなポイントです。
ただ、エビデンスがあると説明しても離乳食やアレルギーが心配される食品を遅らせるママ・パパは一定数います。

また、現在も卵の食べさせ方について、課題は残っています。卵アレルギーを誘引するのはたんぱく質の多い卵白です。経口免疫寛容を起こさせるには卵白を早く食べることが重要になります。ただ、卵白は生後5~6カ月の赤ちゃんに食べさせるには調理面や口の動きの発達の面からクリアしないといけない点もあります。離乳食のアレルゲン早期導入はとても大事なのですが、まだ課題があるのも事実です。

離乳食を遅らせることで食物アレルギーを予防できる根拠はないと明記される

出典/2019年「授乳・離乳の支援ガイド」

離乳の進め方の目安の図。2007年に策定された「授乳・離乳の支援ガイド」では、卵の摂取は離乳中期(7~8カ月ごろ)からと記されていたものが、2019年の改定で、離乳初期(5~6カ月ごろ)からの摂取に変更になりました。

最近増えているアレルギーは? ナッツ類が急増中

ミックス ナッツとドライ フルーツ
●写真はイメージです
Premyuda Yospim/gettyimages

――アレルギーは増えているといわれています。最近の食物アレルギーにはどんなものがあるのでしょうか。

山本 今、本当に増えているのがナッツ類のアレルギーです。2020年の消費者庁の食物アレルギーの実態調査によれば、原因食物が1位鶏卵、2位牛乳、3位木の実類となっています。前回調査(2017年)では、鶏卵・牛乳・小麦・木の実類の順でしたので、3位と4位が逆転しています。
木の実類のなかでも多いのがくるみです。くるみは、2023年の3月にはアレルゲン特定原材料に追加されることになりました。木の実類のなかで以前から特定原材料に準ずるものとして、表示が推奨されているのはカシューナッツとアーモンドです。なお、現在マカダミアナッツの表示推奨も検討されています。

「即時型食物アレルギー」の原因食物

出典/「食物アレルギーに関連する食品表示に関する調査研究事業報告書」(消費者庁)

木の実類の内訳は、くるみが56.5%、カシューナッツが21.2%、マカダミアナッツが5.5%でした。
同じ調査で、各年齢群で5%以上を占める原因食物のランキングは、0歳で鶏卵・牛乳・小麦の順、1・2歳で鶏卵・牛乳・木の実類の順、3-6歳で木の実類・牛乳・鶏卵の順でした。

2023年3月、特定原材料に「くるみ」を追加

出典/「加工食品の食物アレルギー表示ハンドブック」(消費者庁)

「特定原材料」は食物アレルギー症状を引き起こすことが明らかになった食品のうち、とくに発症数、重篤度から考えて表示する必要性の高いものとして表示が義務化されたものです。「特定原材料に準ずるもの」は、可能か限り表示することが推奨されたものです。

――そのほかにも、増えているアレルギーはありますか?

山本 最近報告が増えているのは「卵黄消化管アレルギー」です。離乳食の開始時期に卵黄を食べさせると、数時間後から何度も吐くことが多いです。消化管アレルギー症状は、嘔吐以外にも、血便が出る、体重が増えなくなる、下痢が長く続くなどの症状がある場合もあります。2000年ごろから世界的に急増していて、日本では2009年の東京都の全数調査で発症率がおよそ0.21%、およそ500人に1人の乳幼児に発症していることがわかっています。一般的な即時型食物アレルギーとはメカニズムが異なることまではわかっていますが十分に解明されてはいません。

また、花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)も増えています。花粉症から始まり、生の果物や野菜を食べると数分以内に口の中がかゆくなったり、ヒリヒリしたりします。まれにじんましんやせき込みなどの全身症状が出ることもあります。私たちの最近の研究では、5歳でアレルギー症状があると、13歳のときに花粉-食物アレルギー症候群(PFAS)を発症しやすいことがわかりました。

上のきょうだいが多いほうがアレルギーになりにくい!?

3 人の兄弟
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safariman/gettyimages

――最近のアレルギー関連の研究で注目されているものはありますか。

山本 「上皮バリア仮説」と「衛生仮説」という2つの仮説を簡単に紹介しましょう。

「上皮バリア仮説」とは2017年に提唱されたものです。
遺伝子解析の研究により、皮膚のバリア機能の重要な部分に機能不全がある人は、アトピー性皮膚炎をはじめとしたアレルギー疾患の発症リスクが高まることが示されています。その一方で、アレルギー疾患患者のうち、すべての人が、遺伝的要因でバリア機能障害があるわけではないので、外的な環境要因も関係しているのではないかという仮説です。

近代化の生活の中で、皮膚のバリア機能障害を引き起こす環境要因が増えたことが考えられ、大気汚染物質や、衛生的な環境を保つために使用されるようになった合成洗剤などによる影響の可能性が指摘されています。


――「衛生仮説」とはどんな仮説なのでしょうか。

山本 第二次世界大戦後、衛生状態が急速によくなって、細菌やウイルス、さまざまな感染症が消えてしまったことにより、アレルギー疾患が増えたという仮説です。1989年に提唱されました。近代化とともに衛生的な環境になるにつれ、幼少期に細菌やウイルスに触れる機会が減ったことがアレルギー疾患患者数の増加の原因であるという考え方です。

実際の「衛生仮説」のもととなった研究報告は、第二子や第三子など下のきょうだいほど花粉症やアトピー性皮膚炎の発症割合が低いというものです。今、少子化が問題になっていますが、もしかするとアレルギーの増加とも関係があるかもしれません。
いろいろな意味で少子化は解決していかないといけない問題であると思います。

食物アレルギーは予防できる時代になる?

おせんべいを食べる日本人の女の子
●写真はイメージです
ziggy_mars/gettyimages

――この30年でさまざまなアレルギーの研究が進みました。今後アレルギーは予防できるものになるのでしょうか?

山本 即時型食物アレルギーに関しては、ピーナツと卵のアレルギーの予防においてはかなり核心に迫ってきたのではないかと思います。
湿疹・アトピー性皮膚炎の早期皮膚介入とアレルゲンの早期経口摂取の導入が、ピーナツと卵のアレルギー予防にある程度の効果があることが実証されています。
まずできることは、湿疹が発症したら早い時期に赤ちゃんの皮膚の状態をよくすることです。
保護者のなかには保湿剤を塗っていればアトピー性皮膚炎を治せると考えている人もいるようですが、多くの湿疹は、保湿剤だけでは治りません。

私たちの2014年の研究でも、両親または母親・父親のどちらかに、アトピー性皮膚炎がある、もしくは先に生まれた子にアトピー性皮膚炎があるハイリスク乳児の場合は、新生児期から保湿剤を塗っても38%は、アトピー性皮膚炎を発症した、という結果があります。一方、スキンケアをしなかった子は57%がアトピー性皮膚炎を発症しています。つまり、新生児期から保湿剤を塗ることは有効ですが、すべてのアトピー性皮膚炎を予防できるわけではないということも知っておいてほしいと思います。

そして、急増しているナッツ類のアレルギーですが、現在、ナッツ類を早い時期に食べるための離乳食レシピを開発中です。
ナッツ類は日本の食習慣となじみがなく、窒息のリスクがあるため離乳食に使われることがこれまであまりありませんでした。赤ちゃんでも食べやすく、おいしいレシピができて、早めに摂取することが、発症予防につながります。さまざまな専門家と協力しながら作っています。ご期待ください。


お話・監修/山本貴和子先生 取材・文/岩﨑 緑、たまひよONLINE編集部

●記事の内容は2023年7月21日の情報であり、現在と異なる場合があります。

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