5歳児の5%に見られる発達障害、DCDって知ってる?乳幼児期の特徴は「ミルクの飲みが悪い」「おすわりが遅い」など【専門家】

子どもが自分でボタンがとめられない、ひもが結べないといった手先の不器用さがあったり、走るときにひざが曲がらないなどといった、運動の苦手さが見られた場合、発達障害の一つ、発達性協調運動症(以下DCD)の可能性があります。DCDはいくつかの研究などから一般的に5歳児の5%に症状が見られるといわれていますが、気づかれにくいことや専門家が少ないことが課題になっています。弘前大学大学院教授の斉藤まなぶ先生に、DCDの特徴や診断されにくい理由などについて話を聞きました。
乳児期にはミルクを飲むのに時間がかかる、おすわりが遅いなどの特徴が見られる
――DCDとは発達障害の一つとのことですが、どんな特徴が見られますか。
斉藤先生(以下敬称略) 発達障害とは、生まれつき脳機能に障害があることで脳の発達にかたよりが生じる障害のこと。自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)などは広く知られています。複数の特性を持つこともあり、特性の現れ方は人それぞれです。DCD(Developmental Coordination Disorder:発達性協調運動症)も発達障害の一つです。
運動は大きく二つに分けられます。体全体を使った運動や姿勢の調節などの粗大運動と、指先など小さい筋肉の調整が必要な運動である微細運動です。
ボールを投げるような粗大運動や、はさみを使うような微細運動をするときに、人は手と手、手と目、手と足などの別々の動きを一緒に行う協調運動をしていますが、DCDがある人は、身体機能に問題がないにもかかわらず、協調運動に不正確さ、不器用さ、困難さが現れます。日本の5歳児の約5%にDCDがあるといわれていますが、発達障害の中でも診断されにくい障害の一つです。
ただ、中程度から重度の知的発達の遅れをともなっていたり、神経や筋肉の病気で協調運動が困難な場合はDCDには含まれません。
――DCDがある子は、乳幼児期にはどんな特性が見られるのでしょうか?
斉藤 乳児期には、母乳やミルクの飲みが悪い、離乳食を食べるとむせる、寝返りやはいはいやおすわりがうまくできなかったり、できるのが遅いといった様子が見られます。
幼児期には、歩行ができるのが遅い、よりかからずに座ると不安定、ボタンやファスナーをうまくとめられない、平らな場所でも転ぶ、食べこぼしが多い、走り方がぎこちない、片足立ちができない、ダンスの模倣ができないなどが見られます。
ママやパパがいちばん最初に気づくのは、乳幼児期の「飲み込み」の行動です。おっぱいを吸う吸てつ運動、吸った母乳を飲み込むえん下運動は、口の中や舌の筋肉の運動が必要ですが、この運動がうまくいかないと母乳やミルクを飲み込めなかったり、飲むのが遅かったりすることがあります。
また、はいはいは意外と難しい運動です。はいはいをせずにつかまり立ちをして歩く子もいますが、歩行を始めた時期が早いからといって協調運動が得意とは限りません。運動発達の早い遅いも含めて、一般的な発達と少し違う発達のパターンがある場合には、脳の発達にアンバランスさがあるのかな、と見られる可能性があります。私たちが2013年から2018年に5歳児を対象に行った調査では、5歳でDCDがあるとわかった子は、6-7カ月健診でおすわりが遅いと指摘を受けていた子が多かったことがわかっています。
――では、母子健康手帳などに子どもの普段の発達や運動の様子についてメモしておくことは大事なのでしょうか。
斉藤 運動の発達は外から様子を見て、客観的にわかるものなので、月齢に応じて発達の様子の記録をつけておくことは大切です。子どもの運動能力について心配なお母さんたちには、子どもの運動の様子を月齢をさかのぼって聞くこともあります。
DCDが気づかれにくく、診断されにくい理由は?
――DCDが発達障害のなかでも診断されにくい、気づかれにくい理由について教えてください。
斉藤 私たちの研究チームでは、2017年に2923名の5歳児の保護者と保育所・幼稚園の保育士または教師に対する調査を行いました。SDQ(※1)という子どもの問題行動と困難さを表す尺度で、情緒・行動・多動・仲間関係の項目から総合困難度(子どもの困り感)を算定し、結果のレベルによってどんな支援が必要かを推定するものです。さらに、粗大運動、微細運動のほか、運動を協調させながら行う過程での適応性をみるDCDQ(※2)という調査も行い、二つの調査の関係について相関分析を行いました。
分析の結果、保育士または教師たちの評価では運動の苦手な子どもに対してさほど支援を必要と感じていないけれど、保護者たちは運動の苦手な子が日常の行動にも困難さがあり、支援を必要と感じている、ということがわかりました。
――日常の行動というと、どのようなことでしょうか。
斉藤 幼児との生活では、朝起きて、着替えをしてボタンをとめたり、おはしでごはんを食べたり、靴をはいたり・・・といったさまざまなルーティンがあります。これらのルーティンには協調運動が影響しますが、協調運動が苦手な子はなかなかできないために手がかかり、親は日常的にその大変さを感じているということです。園ではそのような日常的な協調運動をみる機会が少ないこともありますし、苦手さがあっても問題行動ではありませんから、気づかれにくい面があるのだと思います。
――日本ではDCDの専門家が少ないために診断されにくいのでしょうか。
斉藤 発達の遅れの判断は、医学的な基準に基づいて行われます。発達障害の診断基準として日本で使われているのは、世界保健機構(WHO)が公表している「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD)」と、アメリカ精神医学会が公表している「精神障害の診断・統計マニュアル(DSM)」の二つです。
DCDの場合は、実際に子どもの運動の様子を見て診断する必要があります。国際的に推奨されている客観的な運動評価のためのガイドラインがあるのですが、日本ではまだ日本人に合わせたガイドラインが作成されていません。
私たちが弘前市の乳幼児健診で行っている検査では、海外のガイドラインに従い、推奨される検査を日本語に翻訳したものを使用し、制作者の指導を受けながら作成したもので行っています。最近はDCDも少しずつ知られるようになってきた実感はありますが、まだまだ乳幼児の専門家が少ないという課題があります。検査によって運動が苦手な特性があるとわかるだけでなく、ではどんな支援を受ければいいのか、支援につなげるまでが専門家に求められているところでしょう。
粗大運動、微細運動、協応運動の3つをチェック
この項目を「まったくない」「ごくまれにある」「ときどきある」「しばしばある」「常にある」の5段階で評価します。この項目の一つ以上に「しばしばある」「常にある」のチェックがつく子どもは、運動が苦手でDCDの可能性があります。
苦手ならスモールステップからチャレンジすることが大切
――およそ何歳くらいから協調運動の発達の遅れがわかるのでしょうか。早期発見・早期介入をしたほうがいいのでしょうか。
斉藤 1歳6カ月ころまでに歩かないことや、2〜3歳くらいで発音・発話などのつたなさ、動きのぎこちなさなどで気づかれることが多いようです。DCDは着替えや食事など日常生活の自立に必要な動きが習得しにくいため、3歳くらいから「1人でやってみよう」と自立をはかり始めるころに気づかれることが多いでしょう。DCDはASDやADHDと併存することが多いので、早期に特性に気がついた場合には、療育センターなどで歩行や言葉のリハビリを受ける子もいます。
「運動が苦手かもしれないな」と気がついたときには、苦手でもチャレンジできるような工夫をして、手助けしてあげるといいと思います。ボタンはめが苦手ならボタンが少ない服を選ぶ、三輪車が苦手ならストライダーを使ってみる、など、段階をこまかくして、スモールステップで進めてみるといいでしょう。少しずつできることにチャレンジする、少しずつ段階を上げる、といった支援で、発達が促されていきます。
チャレンジする機会を失ってしまうことが子どもにとっては損失が大きいこと。苦手だからやらせないじゃなく、こうしたらやれるかな、と工夫をすることが大切です。
お話・監修/斉藤まなぶ先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
子どもに不器用さが見られたり運動が苦手かも、と感じたりすると、心配で何度も練習させてしまうこともあるのではないでしょうか。斉藤先生は「運動が苦手と気づいたら、できることを子どもに求めるのではなく、苦手なことをしやすいように大人が工夫をしていくことが大事」と話しています。
●記事の内容は2023年8月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
斉藤まなぶ先生(さいとうまなぶ)
PROFILE
児童精神科医。弘前大学大学院 教授 保健学研究科・医学部心理支援科学科 子どもの発達支援研究室。MTXスポーツ・関節クリニック非常勤医師。