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小脳が発達する年長児は、運動能力も伸びるとき。気づかれにくい発達障害のDCDを早期発見し、できることは?【専門家】

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ゲートを持つフィールドでサッカー少年
●写真はイメージです
LeManna/gettyimages

極端な不器用さのために日常生活に困難を抱える協調性発達運動症(以下DCD)は、発達障害の一つです。青森県弘前市では発達について支援が必要な子どもを早期に支援につなげるため、2014年から5歳児の発達健診を行っていますが、その健診のデータから5歳児の5%にDCDがあることがわかっているそうです。弘前市の健診にも長くかかわる弘前大学大学院教授の斉藤まなぶ先生に、DCDの特徴やサポートについて聞きました。

運動の苦手さや不器用さは、支援によって少しずつ改善に向かうことが

――DCDがある子の場合、定型発達の子どもと比較して差が見られるのはいつごろからでしょうか。

斉藤先生(以下敬称略) DCDの原因は研究段階でまだわかっていないことが多いのですが、一つは、脳と体の運動にかかわるシグナルのミスマッチだと考えられています。脳から運動の指令が出されると体の筋肉などが動きますが、その指令の伝達がうまくいかない状態、ということです。もう一つは新しい運動学習が難しいということです。年長時期は子どもの脳の運動をつかさどる領域の発達が加速する時期で、一般的には運動能力がぐんぐん伸びていく時期ですが、DCDがある子はシグナルのミスマッチや新規学習の難しさがあるために、運動能力の伸びにくさが目立つようになってきます。

その時期には体を大きく使う粗大運動だけでなく、手先の器用さも差が見えるようになります。クレヨンで線を描く、自分の名前をひらがなで書くことができないと、小学校に入学してから困ることもあるため、適切に支援できるような準備を進めることが大事です。

――子どもがDCDかもしれない、と感じたときには、小児科や発達支援センターで相談したり療育を受けたほうがいいのでしょうか。

斉藤 DCDの半数はほかの発達障害が併存しています。ほかの障害とも合わせて、程度によって利用する施設は変わってくるでしょう。発達支援を行う相談機関(療育センターや児童発達支援センターなど)には運動を専門とするスタッフ(OTやPT)がいますので、子どもにどの程度の遅れがあるかアドバイスをもらうといいでしょう。

DCDの場合、乳幼児の専門家が非常に少ない課題があります。そのため、保健センターや発達相談などで相談しても、「これくらいなら大丈夫」と主観的に言われてしまうことも多いようです。相談先が自治体によってバラバラで、なかなか支援につながりにくい課題もあります。集団生活の中で子どもの困りごとが少しでも減るように、NPOなどの相談機関も含めて、相談先を探してみるといいかもしれません。

――支援先が見つからない場合、家庭でできることはどんなことがありますか?

斉藤 DCDがある子の場合は、上手にできるようになることよりも、機会を持つことがとても大事です。機会さえあれば、ゆっくりだとしても、手の使い方、体の使い方を脳が少しずつ学習していくことができるからです。
たとえば字を書くのが極端に苦手な子でも、ブロック遊びが好きなら、小さなブロックをつまんでつなげるような指先の運動を繰り返すことで手指の運動能力を伸ばすことにつながります。

お絵描きが苦手で嫌だといったら、道具を変えてみるのもいいでしょう。筆を使うのが嫌なら、絵の具を手につけてペタペタしたり、野菜ハンコなども楽しいですよね。専門家に相談できないとしても、その子のペースで楽しみながら手指や体を使える方法を見つけてあげたいですね。

ネガティブな価値づけをせず、楽しく体を使う機会を増やして

――子どもが運動に困難さがあると気づいた場合、幼稚園や保育園の先生にはどんなふうに配慮を求めるといいでしょうか。

斉藤 DCDのある子は着替えやしたくなど活動の準備が遅かったり、運動会やおゆうぎ会の練習に参加したがらなかったりすることがあります。準備が遅いなら、その理由を分析しながら、どうするとうまくできそうか、子どもの考えを聞いて作戦を立てて少しずつ行動を変化させていくといいでしょう。たとえば着替えに時間がかかるなら、ボタンがない服や簡単に着脱できる服に変えてみる、といったことです。

運動会やおゆうぎ会の練習に参加することを嫌がってお友だちと同じことにチャレンジしにくい場合は、その子がやりやすい方法を先生と一緒に考えられるといいと思います。子どもが参加する機会を失わせないことは、支援として非常に重要です。

――DCDがある子どもも、体を動かすことに自信をなくしたり、嫌になったりせず、楽しく取り組むためには、家庭でどんなかかわりをするといいでしょうか。

斉藤 運動が苦手なことについて、保護者がネガティブな価値づけをせず、苦手でもいいんだと伝えることが大切です。「チャレンジできたね」「一緒に動いて楽しかったね」と言ってあげてほしいです。運動が苦手でも体を動かすのが好きな子はたくさんいますから、親子で体操をしたりアスレチックをするのもいいでしょう。

体幹の筋力をつけたいのであれば、買い物をしたときに荷物を持つのを手伝ってもらうと、どのくらいの力でバランスを取ったらいいかの学習ができます。ペットボトルに水を少し入れて、シャカシャカと振り回す遊びも楽しいです。

子どもはよくいたずらでティッシュを何枚も引っ張り出してしまうことがありますが、子どもの指先の運動にはとてもいいことなんです。親は片づけが大変ではありますが、子どもにとっては貴重な機会。ティッシュはまた重ねて使えばいいわけですから、危険なことでない限りは、子どもが楽しんでいるときは、自由に汚したり散らかしたりさせるといろんな力が伸びていきます。自宅にあるものや食材など、さまざまなものを触ったりつまんだりつかんだりする体験から、子どもたちは運動を調節する能力や協調する能力をじわじわと育んでいくのです。

「上手にやらなくていいよ」「楽しもうね」の声かけが大事

――DCDがある子も、そのような体験を積むことで少しずつ運動能力が成長するのでしょうか。

斉藤 人と比べればゆっくりかもしれないけれど、チャレンジを続けることで少しずつ運動を獲得できる可能性は高いです。運動の習得の不器用さは残るかもしれませんが、年齢とともに筋力がついて体も大きくなってくれば、5歳のときにできなかったことが8〜9歳になればできることもあります。

ただ、DCDは客観的に見えやすいために、小学校の体育の授業などでは、ほかの子との違いを指摘されることもあるかもしれません。そのような経験から自分に自信を失ってしまったり、体育の授業が緊張するからと学校に行かれなくなってしまう人もいます。
だから、大切なのはなるべく小さいうちに運動をした楽しい経験を増やすことです。「下手でもいいよ」と言ってもらえる場所では、多くの子どもは楽しむことができます。上手にやることを求められると緊張したり嫌だと思ったりしてしまうけれど、「ただ体を動かして楽しもう」という場所ならば、子どもたちは楽しい運動の経験を積むことができます。

――斉藤先生たちは、発達障害の早期発見システムを開発されたそうです。どのように活用されるのでしょうか。

斉藤 私たちの乳児発達支援チームは3歳児、5歳児の発達障害の早期発見と早期支援のためのWEB調査ツールを制作し、5歳児用のシステムは現在国内の数カ所の自治体で取り入れています。子どものいちばん近くにいる保護者たちが、子どもの特性のどんな部分について特別な練習が必要なのか、判断の手助けをするツールです。このシステムを活用することによって、必要な人を早期に支援につなげる機会をもつことができると考えています。早期発見は支援の入り口に立つ機会を与えるものです。ここからの周囲とのかかわりが子どもの能力を伸ばす重要な時間となります。

発達障害は見つけなくてもいいのでは、という意見もあります。けれどダイバーシティの時代、合理的配慮を求めることができるようになった今、特別支援教育の利用者は10年前の2~3倍に増加し、小学1年生の普通学級でも12%の子どもに配慮を必要としており(2022年文部科学省発表)、予想以上に多くの人が支援を求めています。困りごとを抱える人たちのニーズにあった支援を準備していくことが社会には必要だと思います。

お話・監修/斉藤まなぶ先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

「上手にやる」ことを求めるのではなく「楽しむ」経験を増やせば、運動の苦手さがある子も、体を動かす楽しさを積み重ねることができます。子どもにできるだけ機会を与えることが、少しずつ発達を促すことにつながるのだそうです。

●記事の内容は2023年8月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

斉藤まなぶ先生(さいとうまなぶ)

PROFILE
児童精神科医。弘前大学大学院 教授 保健学研究科・医学部心理支援科学科 子どもの発達支援研究室。MTXスポーツ・関節クリニック非常勤医師。

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