20人に1人はいる発達障害「DCD(発達性協調運動障害)」って何?やってはいけない声かけとは?
不器用すぎてハサミが使えない、体の動きがぎこちなく三輪車に乗れないなど、何度練習してもうまくいかないなら、それは発達障害の一つ、DCD(発達性協調運動障害)かもしれません。そんな様子が気になったら親はどうかかわればいいのか、青山学院大学教授で小児精神科医の古荘純一先生に話を聞きました。
不器用すぎる子・運動が苦手な子には、親はどうかかわりればいい?
――ほかの子に比べて運動がすごく苦手だったり、生活に支障が出るほどの不器用さがあったりすると、発達障害の可能性があるのでしょうか?
古荘先生(以下敬称略) そうですね、そのような特徴は発達性協調運動障害(以下、DCD)という発達障害の一つのタイプであると考えられます。DCDは身体機能に問題はありませんが、「ハサミやはしを使えない」「公園の遊具で遊ぶのが苦手」「着替えが遅い」など、動作と動作を組み合わせた動き(協調運動)が苦手です。有病率は学童期の子どもの5〜6%というデータから、保育園などの20人クラスに1人はいると考えられ、珍しくはありません。また、自閉スペクトラム症(以下、ASD)や注意欠陥・多動性障害(以下、ADHD)と合併して見られることも多い障害です。
DCDの不器用さは成長とともに自然に治るものではなく、ほうっておいても改善しません。ただ、自分で苦手な動作のやり方がわかり一度習得すると、その後も継続してできるようになります。
――子どもが日常動作をうまくできないとき、親もついイライラしてしまうことも。DCDかもしれない子ども対してしてはいけない声かけはどんなものか、教えてください。
古荘 DCDの子どもに共通するのは、本人もうまくやりたくて一生懸命努力しているということ。たくさん練習してもみんなと同じようにできないと、親にとっても心配ですが、子どもはそれ以上にとても苦労しています。
そこで、気をつけたいのは以下のような声かけです。
・「ほら、早く早く」とせかす
・「何度言ったらわかるの」としかる
・「○○くんはできるのに…」などときょうだいやお友だちと比べる
・「がんばればできるよ」などの精神論を押しつける
・「ゲームばかりしているから運動ができないのね」など、苦手な理由を決めつける
このようなかかわりでは、失敗体験が積み重なり、子どもの自信を失わせ自尊心を傷つけることになってしまいます。子どもは、体を動かすことで自分の体をコントロールする方法を身につけていきます。運動の楽しみを奪ってしまうと、成長の機会を失わせることにつながりかねません。子どもがどこまでできるのか、何を手伝えばいいのかを客観的に観察し、苦手なことの背景を知ることが、子どもの成長を促す第一歩です。その子なりの成長を喜び、楽しみを見つけてあげましょう。
――子どもがDCDかも…と思ったら、医療機関や子ども発達支援センターなどに相談したほうがいいのでしょうか?
古荘 DCDは、日本では独立した発達障害として注目されておらず、支援方法もまだ確立されていません。DCDの特徴自体が人によりさまざまなこともあり、マニュアルの作成が難しく、支援プログラムの実践は始まったばかりです。しかし、療育の現場では、理学療法士や作業療法士が個別に支援を行っています。親子の負担にならない範囲で、療育で運動療法を行うなどのアプローチが必要な場合もあるでしょう。
――保育園や幼稚園などの先生にも伝えたほうがいいですか?
「合理的配慮(行政や事業者が障害のある人に適切な配慮をすること)」という言葉もあるように、支援が必要な障害者が、幼稚園の先生などに「これとこれがうまくできないのでサポートしてください」とお願いするのは、その人の権利と考えられます。
幼児期にはDCD単独よりも、ASDやADHDと併せて気づかれることが多いですが、これからはDCDも発達障害であるとの考えが広まり、配慮を求めやすくなるといいと思います。
これってDCD?ママたちの気になる質問に専門家が回答
子どもの発達が気になるママたちの疑問を、DCDの可能性があるかどうか、古荘先生に答えてもらいました。
2才1カ月の男の子の場合
食事のとき、スプーンやフォークを使って食べようとしません。手づかみ食べのメニューを出すと、自分で食べます。私が子どもの手を持って一緒にスプーンですくう練習もやろうとしません。
【古荘先生から】
DCDの子の場合、親がどうやって食べるかはちゃんと見て判断できますから、一緒に練習してもうまくいかないならDCDの可能性もあります。しかしこのケースは一緒に練習をしてもやろうとしないので、ほかの発達も確認する必要があります。たとえばADHDの子の場合、自分の食べたいものに注目して手づかみ食べになってしまい、スプーンやフォークに興味を持たないこともあります。ほかの行動面でのこだわりや興味関心を観察し、気になるようであれば保健センターなどで療育の相談をしてもいいかもしれません。
2才1カ月の子の場合
まだ言葉を話さず、あまり理解もしていないみたいです。指さしもまったくしません。運動発達もゆっくりで、歩いたのが1才5カ月。今も歩き方がぎこちなく、走れません。階段も一人で上り下りできません。スプーン、フォークを使いますが、ボロボロとこぼすことが多いです。
【古荘先生から】
このケースは発達全体の遅れを考えた方がいいかもしれません。指さしをほぼしないのはASDの疑いが持たれます。指先の運動などは1才半くらいの発達と考えられます。全体的な発達面に着目して、医療機関などで相談してみるといいでしょう。
3才8カ月の女の子の場合
ゆっくりではあるものの、服のボタンを留められ、自分で服を着られます。ハサミも点線に沿って切ることができます。ですが、体育座りが長く続けられなないことや、何もないところでつまずいて転ぶことが多いのが気になっています。
【古荘先生から】
ボタンも留められ、ハサミも使える、体育座りが長くは続けられないけれど、座ることができているなら、協調運動はできていると考えられます。転ぶのは協調運動よりは全体運動にかかわります。ゆっくりならできる、できるけれど長く続けられないという状況なら、DCDの可能性は低いかもしれません。少し様子を見てみましょう。
お話・監修/古荘純一先生 取材・文/早川奈緒子、ひよこクラブ編集部
不器用すぎる子や、運動が極端に苦手な子に、無理やり教えようとするのは逆効果になってしまいます。子どもの努力を認め、どうすればできるのか一緒に考え、楽しくかかわってあげましょう。