「大丈夫です」の一言にも想像力を働かせる。親子の悩みをきくチャットの相談員による本音対談【「子育てのミライ応援プロジェクト」エントリー団体の活動紹介2】
これからの子育ての未来を広げるために、現在たまひよでは「子育てのミライ応援プロジェクト」を実施中。生み育てやすい社会の実現に向けて頑張る3つの団体の活動に対して、ママやパパに投票してもらう取り組みです。本日は、エントリー団体の1つである「認定NPO法人 フローレンス」の担当者に活動内容をお話してもらいます。
子育てだけではなく、生活全般の相談ができる「おやこよりそいチャット」
LINEを通して、家庭の中の困りごとやお悩みに専門の相談員がよりそう「おやこよりそいチャット」。今回は事務局スタッフでもあり、相談員としても活躍する2人のスタッフ(めぐ&ゆき)が、「おやこよりそいチャット」の強みや、チャットを通して構築できた利用者の皆さんとの関係についてじっくりと語ります!
ゆき:「おやこよりそいチャット」の相談員は、それぞれが専門資格を持っています。社会福祉士、精神保健福祉士、看護師、保健師、などを中心に幅広い専門性を持ったスタッフがいます。
めぐ:「おやこよりそいチャット」に届くご相談は、子育てのことだけではなくて、健康のこと、仕事のこと、介護のことなど本当に幅広いので、相談員にも多様なバックグランドが必要なんですよね。
ゆき:私は看護師と保健師の資格を持っていて、「おやこよりそいチャット」と同時に今フローレンスで注力している、妊娠中の方に向けたオンライン面談の相談員を中心に活動しています。これは、産前産後の支援のひとつで、妊娠中の方と面談をしたり、行政窓口に同行したり、困りごとをうかがったりして、今後の生活の見通しを一緒に立てています。
めぐ:最近だと、どんな相談が多いですか?
ゆき:「おやこよりそいチャット」では最近、経済的に追い詰められていて、食支援を届けてほしいというご相談がとても多いのは印象的ですね。
めぐ:物価高騰の影響は私もひしひしと感じています。妊娠中や産後間もない方からの相談にも力を入れていると思うのですが、印象的なことはありますか?
ゆき:こちらは出産前の不安や産後の心身疲労、お子さんの成長の様子など、非常に多岐にわたりますが、共通しているのは、「病院や行政の窓口に問い合わせるほどではない、相談ごととしてまとまっていない日々の不安」が寄せられていますね。
めぐ:「どこの誰に聞けばいいの?」「とにかくつらい気持ちを吐き出したい」そんなお悩みの初期の初期から受け止められる。これがチャット相談の強みですよね。
ゆき:私たちのような民間団体がやっているということも強みですね。制度にとらわれずに柔軟でスピーディな支援ができるところが利点ではないかと感じています。
ご相談は「単語ひとつ」でもOK!
めぐ:一方で顔が見えないチャットでのコミュニケーションには、よい面も難しい面も両方ありますよね。
ゆき:そうですね。夜間は、皆さんご自身の心身の痛みに目が向くことが多いです。でもその時間に誰かに電話するわけにもいきませんよね。そこでチャットならとりあえず吐き出す、という意味でハードル低く利用してもらえます。「つらいです」の一言で構わないんです。
めぐ:気持ちを吐き出したいときにすぐにチャットできる、というのが大事なことですよね。私たちはいただいたチャットにはすべてお返事をしています。相談員の対応時間は9~18時ですが、ご家庭からの連絡は24時間受け付けています。
ゆき:連絡は単語でもいいんです。そこからご本人の気持ちを引き出したり紐解いていくのが私たち専門家の役割で、自動返信では対応が難しい領域だと思っています。
めぐ:そうですよね。気持ちの引き出し方にも工夫が必要ですよね。
ゆき:「大丈夫です」が、必ずしも「大丈夫」ではない場合もあるというか……。対面であれば表情や声色から読み取れることもありますが、文字だけのコミュニケーションなので相談員は「この時間にこの言葉で送られた背景にはどんな生活があるのだろう」と常に想像を働かせて対応しています。使う言葉のテンポ、長さ、やわらかさなどにも相談員たちはそれぞれに配慮をしています。
明日、人生が変わるかもしれない。だからこそみんなに「お守り」が必要
めぐ:利用者の傾向として、登録してすぐに相談をする方よりも、1年程度会話を続けていくなかで相談がはじまるケースが多いですね。こちらから、お役立ち情報をお届けした後のお返事でご家庭の様子を知らせてくださって、少しずつ気持ちを打ち明けてくださる方もいらっしゃいます。
ゆき:誰でも急に本心を言うのはハードルが高いものです。だからこちらからの継続的な語りかけを大切にしています。さらに子育てや家庭生活の状況は、日々移ろいゆくものです。今日困っていなくても、明日何らかの条件がそろって追い詰められる可能性は誰にでもあること。そんなときに常に自分を気にかけている存在がいるということをお知らせしたくて、私たちはご家庭とのコミュニケーションを長い目で継続しているんですよね。
めぐ:誰でも困りごとにぶつかるのが当たり前。だからこそ「困った!」の瞬間、まず思い浮かべてもらえる。そんな「お守り」のような存在でいたいですよね。
ゆき:私は以前、お子さんの成長について悩んでいる方と、長期間やり取りをしていたことがあります。やり取りの末に「やっとトンネルから抜けたような思いです」と絵文字付きで報告してくださったことがあって。私までパァッと明るい気持ちになりました。
めぐ:自分が嬉しいときに、自分の家族のことで他人が一緒に笑ったり泣いたりしてくれることって、まずないですよね。思う存分喜んだり、あるいは嘆けたり。「おやこよりそいチャット」は、どんな状態でも一緒にいられる場でありたいですね。
ゆき:今、社会的には子育ての「大変な部分」についての情報が溢れていますが、その大変さは認めた上で、たくさんの人がよりそい合うことで、「子育ては本来愛おしいことだ」「社会みんなで子育てをしていくことがあたりまえ」という価値観を次世代に手渡していきたいなあと思っています。
めぐ:本当ですね。私たちのような民間団体がこうして気軽につながれるしくみを広げて、利用者の思いを必要な支援に確実につなげるための橋渡しができればと願っています。
文/酒井有里(認定NPO法人フローレンス) 構成/たまひよONLINE編集部
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「子育てのミライ応援プロジェクト」では、ほかにも、妊娠育児の社会課題に取り組む団体をご紹介しています。妊娠中・0歳1歳のママパパのみなさま、「これからの子育ての未来を広げる」ため、ぜひ応援したいと思う活動や団体に投票をしてください。
◆認定NPO法人フローレンスについて
こども達のために、日本を変える。フローレンスは未来を担う子どもたちを社会で育むために、事業開発、政策提言、文化創造の3つの軸で、社会課題解決と価値創造をおこなう国内最大規模のNPOです。 日本初の訪問型・共済型病児保育事業団体として2004年に設立し、ひとり親支援と子どもの貧困防止、子どもの虐待や親子の孤立防止、障害児家庭支援など、日本の子ども・子育ての領域で総合的な活動をおこなっています。
待機児童問題解決のための「おうち保育園」モデルが、2015年度に「小規模認可保育所」として国策化されたほか、障害児に専門的に長時間保育を提供する日本初の「フローレンスの障害児保育・支援」や、子どもの虐待問題解決のため「フローレンスのにんしん相談・赤ちゃん縁組」、子どもの貧困を解決する「こども宅食」などの取り組みを全国で加速しています。 たくさんの仲間と共に、社会に「新しいあたりまえ」をつくるNPO法人です。
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●記事の内容は2023年9月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。