「ママはこっちゃんがきらいだ」自閉症の兄を持つきょうだい児・こっちゃんからぶつけられた本音【自閉症育児体験談】
みっちゃんママは、重度知的障害と自閉症の息子のみっちゃん(中3)、娘のこっちゃん(小6)、パパの4人家族。みっちゃんは2022年に受けた発達検査で“2歳半程度”の精神発達年齢と診断されています。児童発達支援施設で6年間働いた経験を持つみっちゃんママに、きょうだい児(障害のあるきょうだいがいる子)のケアや、自分の心のケア、知的障害・自閉症について世の中に知ってほしいことをお聞きしました。全2回のインタビューの2回目です。
「ママはこっちゃんのことがきらいだ」きょうだい児のケアを意識
――きょうだい児の娘・こっちゃんに対してケアが必要だと思うようになったきっかけは?
みっちゃんママ:こっちゃんは兄のみっちゃんが通っていた児童発達支援施設に併設されていた保育園に入園しました。そこはきょうだい児たちも通っていて、小さい時から障害を持つ子どもたちと関わりがある環境だったので、兄の障害のことを自然に認めてくれるようになったと思います。もし一般の保育園に通っていたら兄と妹はまったく別の世界で生きていたかもしれないし、こっちゃんにほかのきょうだい児との繋がりができてとてもよかったと思っています。
しかし、こっちゃんが小2のころ「ママはこっちゃんのことがきらいだ」というメモを見つけて、「私の目はみっちゃんの方へばかり向いていた」と気づかされました。当時はこっちゃんに手がかからなくなり、みっちゃんの自我が出てきた時期だったので、どこか我慢や寂しい思い、辛い思いをさせていたと思いますし、「みっちゃんはいいのに、なんで私はダメなの?」と不公平感や疎外感を感じることもあったかもしれません。その出来事を機に、こっちゃんのことをしっかり見るように意識を変えていきました。
――こっちゃんと接するときに気をつけていることや習慣はありますか?
みっちゃんママ:その子の性格によって対応も違ってくると思うので「こうしたほうがいい」ということではありませんが、わが家では夜寝る前の1時間程、毎日こっちゃんとの時間を作るようにしています。今日1日あったことを話したり、そのときに流行っている遊びをします。最近はこっちゃんが好きな漫画のセリフを声を出して一緒に読み合うのがブームです(笑)。
あとは、パパがお休みの日はママとこっちゃんの2人で出かけたり、休みの前の日はみっちゃんが寝たあとにパパとこっちゃんの時間も作るなど、マンツーマンで“1人っ子時間”を必ず作っています。時々その様子を察知したみっちゃんがヤキモチを焼くこともあります(笑)。
パパとこっちゃん
――こっちゃんに救われていることはなんですか?
みっちゃんママ:こっちゃんに救われていることはたくさんありますが、疲れているとき「ママ、大丈夫?」と声をかけてくれる優しさに救われました。寝る前のこっちゃんとの時間も私の癒しの時間になっています。いつも家族の味方でいてくれて心強いです。
支援を利用することに罪悪感も…今は親子で楽しめるように
――繋がれてよかったと思う支援はなんですか?
みっちゃんママ:みっちゃんが小さかったときは“ヘルパー”さんに入浴介助や食事介助をしてもらいました。予防接種も大人3人がかりじゃないとできなかったので、ヘルパーさんに手伝ってもらってとても助かりました。今は大きくなったので行動援護のヘルパーさんと一緒に買い物や散歩に行ったりしています。
あとは“ショートステイ”。小さい時は毎週行っていました。みっちゃんがショートステイに行くことによって、自分の体を休めたり、こっちゃんとの時間も取れました。何よりみっちゃんができることが増えたのもショートステイのおかげです。今でも私が高熱を出したときなど半年に1回ぐらいお世話になっています。
最初は利用するときに「こんなに小さい子を1泊も預けてもいいのか」と罪悪感があったのですが、いっぱいいっぱいになってイライラするよりも、少し離れて休憩して私が元気でいなくちゃ…と思えるようになってきました。そしてだんだん「いってらっしゃい!」と明るく見送れるようになったら、子どもも落ち着いて楽しめるようになりました。
自分を大事にすること=家族を大事にすること
――自分の心のケアで大事にしていることはなんですか?
みっちゃんママ:息子が児童発達支援施設に入所すると同時に、私は親に向けたカウンセリングを受け始めました。9年間カウンセリングを受けて“自分のことを知る”ことができて、自分が疲れているとき、イライラしているとき、喜んでいるときがすぐわかるようになりました。ちょっとでも「嫌だな」と思ったら我慢しないで自分の気持ちに素直になるように心がけています。それまでは体調が悪くていつも病院通いをしていたのですが、自分の違和感に気づけるようになってからは体調が良くなっていきました。「心と体は繋がっているから心が元気になったら体も元気になるよ」とカウンセラーさんが言っていたことは本当だなと実感しました。
私は過去にネグレクトされていたので、小さい頃の自分がずっと自分の中にいます。「あのときおなか空いていたな……」と思い出したときは、思いっきり好きなものを食べて、昔の自分を癒す気持ちで自分を大事にします。最近はジムにも通って健康にも気遣っています。あとは「ママ今日洗い物したんだよ!偉いでしょ」などひとり言を言って、あたり前のことでも自分を褒めるようにしています。
昔はとにかく「子どものために!子どものために!」と必死だったんですが、どこかで我慢が爆発してしまって子どもに怒ってしまうことがあったので、頑張りすぎもよくないと思うようになりました。今は家族のことも子どものことも大事だけど、一番は自分。自分を大事にすること=家族を大事にすること。そうすると子どもにも優しくできるようになりました。
――「明るい家族になろう」と決めたきっかけはなんですか?
みっちゃんママ:ネグレクトされていた自分の家庭環境がすごく影響しています。過去の自分がしてもらえなかったことをすることによって、自分が癒されたり救われていきます。けれども「〜してあげたのに!」と思ってしまう時期もあって、それは良くないなと思い“自分と子どもは別人”ということをカウンセリングで修正していきました。
障害児の子育て“共感”できる場所づくりを
――今現在の課題はなんですか?
みっちゃんママ:今現在のみっちゃんの課題は「トイレ」です。自立はしているけれど、毎回汚してしまうので「トイレ座ってするよ」とトイレに入る前に声がけしています。座ってできたら「わぁトイレ座ってできてカッコイイね!」と褒めています。なかなか綺麗にお尻がふけなかったんですが、練習するようになってだんだん上手に拭けるようになってきました。あとはお風呂でも体を自分で洗えないので、パパと一緒に入りながら教えてもらったり、パパがいないときは私が「次はここだよ」と声がけをしながら体を洗う練習をしています。
これからの大きい目標はとにかく“可愛がってもらえる人になること”です。「いただきます」「ごちそうさま」「おはよう」「ごめんなさい」「こんにちは」「ありがとう」など自然に挨拶ができるようになってほしいです。この先どう成長していくのかは親である私にも正直予想はつきません。でも、現時点ではこれからもきっと支援が必要だと感じています。支えられながら生きていく身として、やはり周りから愛される人になってくれることが親としての願いであります。
――知的障害・自閉症について世の中に知ってほしいことはありますか。
みっちゃんママ:みっちゃんの一見不思議に思える行動にもきちんと理由があること。重度知的障害と言われる子でも必ず感情があること。人と関わりたい気持ちは持っているけれどそれをうまく表現はできないだけなんです。
一般的に自閉症や発達障害の方は周りの空気が読めないと思われがちですが、実は人一倍周りの空気を敏感に感じ取っています。刺激に敏感なゆえに大きな声が出てしまったり、思わぬ行動をしてしまうことがあるということを知って欲しいです。もちろん全員が全員同じではありませんが、少なくとも私が6年間関わってきた子たちを見ていてそんなふうに感じることが日々ありました。前編でもお伝えしたように、いろんな人に障害のことを知ってもらうと障害に対する見方が変わる人もいるのではないかと思いyoutubeで発信を続けています。
また、子育てで共感できる場所があることも大切だと思っています。同じ境遇の人同士が繋がれる場所はとても少ないので、周りに共感できる人がいないまま1人で頑張っているママ・パパもたくさんいると思います。そんな人たちが悩みを吐き出したり、共感できたりする場所づくりができたらいいです。自分自身も救われながら、だれも「1人じゃない」と思える場所にしていきたいです。
お話・写真提供/みっちゃんママさん 取材・文/清川優美
障害児本人だけでなくきょうだい児、親の心のケアも大切だと話してくれたみっちゃんママ。特にきょうだい児のケアは見過ごされがちなので、きょうだい児に対する周りの大人の意識改革や手厚い支援が必要に感じられました。
当事者家族同士が繋がって共感できる場所を増やしていくことはもちろん、より多くの人が障害のことを正しく理解し、障害児とその家族が孤独にならないように社会全体が働きかけていかなければなりませんね。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることをめざしてさまざまな課題を取材し、発信していきます。
『2歳半のみっちゃんがくれたもの ネグレクトされた母親が重度知的障害・自閉症の息子と世界一明るい家庭を築くまで』
自閉症の子ならではの「こだわり」遍歴や、パニックが起きたときの対処法、きょうだい児(障害のある子をきょうだいに持つ子ども)のケア、実親との確執と和解など、動画では話していない内容も収録。パパとこっちゃんの“超”のつく偏食についても、書籍に詳しく書かれています。
Youtubeチャンネル【Hikari Kizuna TV】:https://www.youtube.com/@TVHikariKizuna
●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年9月の情報で、現在と異なる場合があります。