「保育園落ちた日本死ね!!!」の衝撃から早7年。日本は変わったのか?若者たちの意識にもある変化が【女性活躍の30年・後編】
女性活躍推進法が成立したのは2015年。従業員数301人以上の企業は、仕事を続けたいと考えている女性が、活躍できる職場環境を作ることを定めました。そして2022年の改正で、従業員数101人以上の中小企業も対象になりました。
女性が社会で活躍するために、日本はこれからどのように変わっていく必要があるのでしょうか。
たまひよ創刊30周年企画「生まれ育つ30年 今までとこれからと」シリーズでは、30年前から現在までの妊娠・出産・育児の様子を振り返り、これから30年先ごろまでの流れを探ります。
今回は、女性はもちろん男性も、自分が望むように子育てと仕事を両立させるために必要なこと、考えなければいけないことなどについて、東京大学大学院情報学環准教授の藤田結子先生に聞きました。
「男性の家事・育児分担は当たり前」を共通認識に
――「育児休業等に関する法律(育児休業法)」(※)が施行されたのは1992年のことでした。
藤田先生(以下敬称略) この法律は、育児と仕事を両立したいと望む子育て世代を応援するためのものです。でも、出産後も仕事を続けたいと願っているのに、職場の理解を得られないなどの理由で、退職してしまう女性が多くいました。こうした事態を改善するために、育児・介護休業法は数年おきに改正されています。
――2022年10月に産後パパ育休(出生時育児休業)制度が新たにできました。
藤田 子どもが生まれてすぐの時期に父親が育児に参加することには、意味があると思います。
出産後、母親だけが育休を取って育児・家事を行う生活パターンになってしまうと、母親が仕事に復帰したあとも「育児と家事は母親の仕事」という暗黙のルールができてしまいがちだからです。
役割が固定されてしまう前に、夫婦・パートナーで育児・家事を分担する生活スタイルを作ることは、仕事復帰後の母親の負担を減らすことにつながります。
――藤田先生の家庭では、出産後に夫婦でほぼ同時に育休を取ったとか。
藤田 多少のずれはありましたが、子どもが生まれた直後にそれぞれ半年間ずつ育休を取り、2人で育児に向き合いました。そのため、保育園入園後の家事・育児の分担がスムーズにできるようになったと思います。
――男性の育休取得に関する政府の目標は、2025年度に50%にすることだとか。
藤田 2022年度の男性の育休取得率は17.13%。これは過去最高の数値です。でも、あと2年で33 %も引き上げるのはかなり難しいのではないでしょうか。
もし取得率が上がったとしても、たとえば、1年の間に3日だけ育休を取るというような男性が増えただけなら、女性の育児負担は変わりません。「取るだけ育休」は言わずもがなです。
※1999年に現名称の「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児・介護休業法)」に変更
「保育園落ちた日本死ね!!!」の衝撃と今の状況
――「保育園落ちた、日本死ね!!!」と題したとく名ブログで、待機児童の問題が注目されたのは2016年のことでした。
藤田 この年の4月、待機児童数は2 万3553人いました。厚生労働省は1995年から待機児童数を発表していて、直近では2017年の2万6081人がピークです。「保育園落ちた」のころ、子どもが保育園に入れず悩むママ・パパがかなりの数いたのです。
――2017年以降、待機児童数は減り続け、2022年4月1日時点の待機児童数は2944人。4年連続で最少を更新しました。
藤田 2017年の約9分の1ですね。確かに保育の受け皿は拡大しています。でも、保育園は数を増やせばいいというものではありません。それを示すように、「隠れ待機児童」は7万人を超えているのではないかという意見もあります。たとえ保育園に空きがあっても、自宅から遠かったり、上の子の保育園と全然違う場所にあったりしたら、預けられませんよね。また、園庭のない保育園には入れたくない、保育士さんの質が心配など、さまざまな理由で、保育園に空きはあっても入れることをためらう親がいることを、国には理解してほしいです。
――「学童落ちた」問題も深刻化しているようです。
藤田 何かと嫌な事件が多い昨今、小学生を1人で留守番させることが心配な親は多いでしょう。育休後に保育園に預けて仕事を続けてきたのに、学童保育には登録できず、正社員からパートに仕事を変えたなど、ライフスタイルの変更を強いられた女性は少なくないでしょう。あるいは、民間の学童保育を利用したり、週5日子どもに習い事をさせたりして、経済的な負担が増えている家庭があることも見過ごせない問題です。
小さな子どもを持つ親が、日中は仕事に専念できるようにするには、子どもを安心して預けられる保育園と学童保育はなくてはならないものです。政府はこのことを第一に考えて、保育園・学童保育問題に取り組んでほしいと思います。
仕事が多くて家事・育児を分担できない父親の現状
――母親、とくに働く母親の大変さ、生きづらさについて考えるとき、父親の育児・家事参加の少なさが問題とされ続けています。
藤田 世界的に見て、日本の男性が家事・育児にかける時間が圧倒的に少ないのは明らかです。でも、「育休を取りたいけれど、周囲に迷惑がかかるから育休を取れない」「早く帰宅して家事・育児をしたいけれど仕事が多くて残業になる」など、日本の男性が置かれている環境の厳しさも考える必要があるのではないかと思います。
日本人男性は仕事時間が極端に長く、家事・育児の時間が極端に短い
日本人男性は、家事・育児などの無償労働の時間が世界的に見て極端に少ないですが、有償労働(仕事)の時間が非常に長く、家事・育児に使える時間がないという現実があります。
企業は「ケアレス・マン」を求めるのを改めるべき
――日本の父親が家事・育児にもっとかかわれるようにするために、たりないものはなんでしょうか。
藤田 日本の企業は、自分の時間や能力のほぼすべてを仕事に注げる人をメインにした、「ケアレス・マン」モデルを軸にしていることが大きな問題です。企業が多様な働き方・生き方を認め、それを後押しするシステムを作らなければいけません。
その一方、やはり男性の意識を変える必要もあります。私がこれまで行った調査では、早く帰ってきても家事・育児をしない男性が少なからずいました。「家事・育児は妻(母親)がやるのが当たり前」という性別役割分担はもう古すぎる考えだということを、ぜひわかってほしいです。
Z世代は性別役割分担へのこだわりが減っている!?
――家庭のことはなんでも夫婦・パートナーが協力して行うもの、という考え方がスタンダードになっていくでしょうか。
藤田 なると思います。大学で学生たちと話していると、そのように感じます。10年前は「男性も家事・育児をするのが当たり前」というようなことを講義で伝えると、ごく一部の男子学生から嫌がらせのコメントをもらったこともありました。
ところが今の学生、いわゆるZ世代には共感してもらえます。ようやく性別役割分担へのこだわりのない(少ない)世代が出てきたんだと思います。
彼らが社会の中心になっていく10年後、20年後、30年後には、女性の生きづらさもかなり解消されているのではないでしょうか。もちろん、そうであることを強く期待したいです。
――日本のジェンダー・ギャップ指数の順位は、これからは上がっていくでしょうか。
藤田 日本は「教育」と「健康」は、ほぼ男女平等が実現できています。女性の大学進学率の上昇からもわかります。人口減で男性だけでは人材がたりなくなるので、女性管理職の増加は多少は期待できます。「経済参画」については改善されていくと思います。
問題になると思われるのは「政治参画」です。女性政治家の数は増えにくいでしょうし、増えたとしても、男性政治家に忖度(そんたく)するようなかたちでは、増えても何も変わりません。世の中のしくみをどんどん変えようとしてくれて、女性が活躍する場を増やすことに力を入れてくれる女性政治家が必要です。
そのためには私たち一人一人が政治に興味を持ち、選挙に行くことがとても大切です。
若い世代の政治離れが問題になっていますが、彼らの投票率が低いのは、十分な主権者教育(※)を受けていないことも大きな要因ではないかと思います。
ママ・パパが国や政治に関心を持ち、投票に行くのはもちろんですが、子どもも一緒に連れていき、「選挙は行くもの」と小さいうちから教えることがとても大切です。そうしたことの積み重ねが、今の子どもたちが大人になったころの日本を変えることにつながっていくと思います。
※国や社会の問題を自分の問題として捉え、自ら考え判断し、行動することの重要性を教えること
お話・監修/藤田結子先生 取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部
●記事の内容は2023年10月20日の情報であり、現在と異なる場合があります。
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