SHOP

内祝い

  1. トップ
  2. 赤ちゃん・育児
  3. 赤ちゃんの病気・トラブル
  4. 「右手が欠損している」と聞いて、どういうことか意味がわからず混乱した。生後4カ月で手術、7カ月から義手の練習を始めて・・・【体験談】

「右手が欠損している」と聞いて、どういうことか意味がわからず混乱した。生後4カ月で手術、7カ月から義手の練習を始めて・・・【体験談】

更新

1歳になる直前。義手を使って、鈴が入っているおもちゃで遊んでいる依茉ちゃん。

神奈川県に住む田村依茉(えま)ちゃん(3歳)は、ママの由梨香さん(32歳・主婦)、パパの佑太さん(32歳・会社員)、弟の暖(だん)くん(1歳7カ月)の4人家族です。依茉ちゃんは生まれたときに右ひじから先が欠損した症状と、おしりの割れ目のところに小さなくぼみが見られる二分脊椎(にぶんせきつい)の症状がありました。由梨香さんと佑太さんに、依茉ちゃんが生まれたときのことや、治療などについて話を聞きました。2回シリーズのインタビューの1回目です。

「右手が欠損」と聞いて目の前が真っ暗に

由梨香さんの初めての妊娠の経過は順調で、通っていた産婦人科クリニックでの妊婦健診のエコー検査でも赤ちゃんの腕の欠損のことはわかりませんでした。妊娠36週のころに子宮口から離れた部分で卵膜が破れる高位破水(こういはすい)になり、羊水が少量ずつ流出してしまう状態で入院することに。感染症などのリスクがあることから、陣痛促進剤を使用して翌日に出産することになりました。2020年2月初めのことでした。

「入院した日の朝9時ごろから夜8時ごろまで促進剤を点滴して、翌朝に診察を受けたあと、夫に『あと数時間で生まれるからごはんを食べて来てね』と連絡をしました。でも予想外にお産が早く進み、1時間たらずで出産。元気な産声が聞こえて、無事に生まれてきてくれたことがすごくうれしかったです。助産師さんが私の胸元に抱っこさせてくれた赤ちゃんは、とってもかわいい女の子でした。

ところが『生まれたんだ』と感動をかみしめようとしているときに、娘はすぐに助産師さんに連れて行かれてしまいました。どうしてだろう?と違和感はありましたが、初めての出産ですし、そんなものなのかな・・・と。そのとき私は娘の腕が短いことに少しも気がついていませんでした。今思い出すと、きっと娘の状態を調べる必要があったからだったんだと思います」(由梨香さん)

「僕は妻から連絡を受けて、すぐに自宅から産院に向かいました。産院は自宅から40分ほどかかる距離です。病院に着いたら『もう生まれたよ』と言われて(笑)、出産に立ち会いたかったけど間に合わなかったんです。でも病室に戻ってきた妻の無事な姿を見て安心しました」(佑太さん)

しばらくして2人が待つ病室に、医師が赤ちゃんを連れてやって来ました。田村さん夫婦は医師から「赤ちゃんの右手は短く欠損した状態で、おしりの割れ目のところにも少し異常が見られるため、紹介状を書くから大きい病院で検査してください」と告げられます。

「先生に『赤ちゃんの右手が欠損している』と言われ、まさかそんなことがあるとは思ってもいなくて・・・すごく驚きました。『欠損って何?』『どんな状態?』と、言葉の意味もよくつかめず混乱していたと思います」(由梨香さん)

「妻が頑張って産んでくれたかわいい娘にやっと会えた喜びもつかの間、娘の右手が欠損していると聞いて『いったいこの先どうすればいいんだろう?』と目の前が真っ暗になったようでした。自分はそれまで、そのような身体の特徴のある人に出会ったことがなかったので、右手がないと何ができて何ができないのかもまったく想像がつかなくて・・・。あまりの衝撃に、ただただ、ぼうぜんとしてしまいました」(佑太さん)

由梨香さんと依茉ちゃんは産院を5日ほどで退院しました。そしてその後10日ほどしてから、田村さん夫婦と依茉ちゃんは神奈川県立こども医療センター(以下、こども医療センター)を受診します。

おしりのくぼみは、脊髄の先天性異常「二分脊椎」だった

生後4カ月のころ。二分脊椎の術後3日目の依茉ちゃん。

依茉ちゃんは、腕の欠損のことと、おしりのくぼみの検査をするために、形成外科だけでなく、整形外科、リハビリ科、脳外科などいくつもの診療科を受診し、症状を詳しく診てもらう必要がありました。

「おしりのくぼみは脳外科で検査し『二分脊椎』という症状だと診断を受けました。脊髄は脳と身体の各部をつなぐ神経の束で、脊椎(背ぼね)の中を通っていて、通常は腰くらいの位置まで伸びてたれている状態らしいんですが、娘の場合は、脊髄の先端が近くにある組織とくっついてしまっている状態でした。

成長して体が大きくなると組織にくっついた脊髄が引っ張られて、排せつや歩行の障害が出る可能性があるそうです。なるべく早い段階で脊髄と周辺組織とを切り離す必要があるという説明でした。そして、生後4カ月のころに手術を受けることになりました。外見からすると右手の欠損のほうが気になりましたが、依茉の状態としては優先すべき治療は二分脊椎による癒着でした」(由梨香さん)

依茉ちゃんの二分脊椎の手術は無事に成功。しかしこれからもしばらくは経過を観察し、定期的な検査が必要です。

「手術は成功しましたが、今後の成長によって障害が出る可能性もあるかもしれないということで、娘が高校生になるくらいまで経過観察が必要と言われています。今のところ経過は順調で、今後2年に1回のMRI検査を受ける予定です」(由梨香さん)

生まれてすぐから5カ月、毎週通院する日々が続いた

生後7カ月ごろの依茉ちゃん。右腕に義手のソケットをつけて、装着に慣れることから始めました。

一方で、依茉ちゃんの右手の欠損についても詳しい検査をする必要がありました。

「腕の欠損については形成外科で、先天性の障害かそれとも胎内で後天的に発生した症状なのかを検査しました。
先天性のものであれば、遺伝子検査などでほかの病気の可能性も調べる必要があったためです。結果、娘の場合はおなかの中でへその緒が腕にからまったために切れてしまったケースがいちばん濃厚だと言われました。娘の欠損した腕の骨の先端がギザギザの形状をしているらしいのですが、それは胎内で腕が切れてしまったときに骨折したと考えられるのだそうです。遺伝的な障害なら骨の先が丸くなっているケースが多い、という説明でした。そして切れてしまったのはへその緒がからまってしまったことなどが要因で、妊娠の早い段階だったのではないか、とのことでした」(佑太さん)

「形成外科の先生の話では、右腕はこのまま問題がないかもしれないし、成長によって骨が突き出してしまうことがあれば手術の必要があるかもしれないので、経過観察するとのことでした。
また、リハビリ科では今後の娘の成長に合わせてどんなサポートが必要かを教えてくれたり、地域の療育や、関東近郊の専門病院などのさまざまな情報を提供してくれました」(由梨香さん)

依茉ちゃんが新生児のころからこども医療センターのいくつもの科を受診するために、週に1〜2回のペースで通院する日々が数カ月続きました。自宅からこども医療センターには車で50分ほどかかります。営業職だった佑太さんは上司に相談し、勤務時間の都合をつけてできる限り毎回依茉ちゃんの受診に付き添っていました。

「ひと月に何度もの通院は、夫が一緒で本当に心強かったです。受診科もいくつもあり、先生も違います。先生方は難しい話をわかりやすく説明をしてくれましたが、娘の将来について心配なことがとっても多かったから、もしずっと1人で行っていたらメンタルがボロボロになってしまっていたと思います。家庭の状況を理解してくれた夫の上司にも感謝しています」(由梨香さん)

娘の未来に光が射した、筋電義手との出会い

1歳4カ月のころ。愛犬メルちゃんのお散歩の様子。右腕で上手にリードとバッグを持っています。

依茉ちゃんの二分脊椎の手術が終わったあと、田村さん夫婦は形成外科の先生に神奈川リハビリテーション病院(以下、神奈川リハ)の見学をすすめられました。

「こども医療センターの形成外科の先生が、神奈川リハが数年前から小中学生や成人の『筋電義手』の訓練を始めているから話を聞いてみたら、と教えてくれ、紹介状を書いてくれました。ちょうどそのころから、神奈川リハで乳幼児の筋電義手の支援が始まる時期だったようです。

私たちは2020年の8月、娘が生後6カ月のころに初めて神奈川リハを受診して、娘の右手に『筋電義手』というものを利用できる可能性があることを知りました」(由梨香さん)

「僕たちはそもそも筋電義手が一体どんなものかまったく知りませんでした。娘が右上腕欠損で生まれたときから、ネット検索などを少しはしましたが、義手というと手先が動かない装飾義手のイメージでした。しかし、筋電義手はソケットについているセンサーが筋肉を動かすときの微弱な電流をキャッチして、自分の意思でものをつかむ動作ができる義手です。これが使えるようになれば、活動の幅がかなり広がるな、と思ったことを鮮明に覚えています。

右手がないままでできないことが多いのを心配していました。でも筋電義手があればいろんなことをあきらめなくて済むと、光が射した思いでした」(佑太さん)

「この子が生まれてからずっと、日常生活への不安が頭から離れませんでした。はさみを使うとか、靴ひもを結ぶとか、いずれ大きくなって料理したり洗濯物を干したりドライヤーを使ったりするときどうするんだろう?と考えると、あれもできない、これもできない、とマイナスな面ばかりが気になってしまっていました。でも筋電義手を使えるようになれば、もちろん両腕がある人と全部同じようにはできなくても、ある程度のことはできるようになると知って、娘の未来の可能性が広がることに希望を感じました」(由梨香さん)

子どもの夢が広がる筋電義手のことを教えて!

依茉ちゃん10カ月のころ。手先が丸い遊び用義手をつけ、太鼓をたたいて遊んでいます。

自分の意思で手先を開いたり閉じたりする動作ができる筋電義手。あまり知られていない小児筋電義手のことについて、神奈川リハビリテーション病院、社会福祉士の前田智行さんに教えてもらいました。

小児筋電義手の訓練はどこで受けられるの?

「日本国内では、神奈川リハビリテーション病院を含めると大きいところでは4カ所が知られています。神奈川リハでは2017年から成人や小中学生を対象に筋電義手を扱い始め、2020年ころから相談が多くなりだした乳幼児への支援が始まりました。
先天性上肢欠損は症例数が少ないために情報が得にくく、相談先が少ないことに家族の不安が大きかったと聞いています」(前田さん)

筋電義手1本にかかる費用は150万円って本当ですか?

「病院の訓練や自宅での練習に使う小児用の筋電義手は、1本150万円ほどかかります。福祉の制度で市町村の認定が得られれば、自己負担4万円弱(世帯収入による制限はあるのですが)で入手できるのですが、申請するには筋電義手を使いこなせていることが求められます。しかし、使いこなす練習をするための訓練用義手には公費負担の制度がないため、病院が負担するなど費用面が課題です。神奈川県は予算化を図り、さらに2022年から筋電義手バンクにより寄付をつのり、患者さんに訓練用義手を貸与しています」(前田さん)

お話・写真提供/田村由梨香さん、佑太さん 取材協力/神奈川リハビリテーション病院 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

依茉ちゃんはその後、1歳になるころから装飾義手をつけた練習を始め、2歳になる前くらいから筋電義手を使うための練習を始めました。依茉ちゃんは2023年の7月、3歳半を過ぎたころに市からの公費認定を受け、自分専用の筋電義手を作ることができるようになりました。インタビューの2回目の内容は、依茉ちゃんの筋電義手の訓練の様子についてです。

「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。

筋電義手の訓練を希望される場合

「かながわ筋電義手バンク」への寄付なら

●この記事は個人の体験を取材し、編集したものです。
●記事の内容は2023年9月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

赤ちゃん・育児の人気記事ランキング
関連記事
赤ちゃん・育児の人気テーマ
新着記事
ABJマーク 11091000

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 第11091000号)です。 ABJマークの詳細、ABJマークを掲示しているサービスの一覧はこちら→ https://aebs.or.jp/

本サイトに掲載されている記事・写真・イラスト等のコンテンツの無断転載を禁じます。