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専門医が出会った、英語が得意なダウン症の女の子。障害がある子どもの将来に不安がない社会に!【小児科医】

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●写真はイメージです
Wavebreakmedia/gettyimages

鹿児島県鹿屋市にある小児科「まつだこどもクリニック」の院長 松田幸久先生は、小児科医になって約40年。鹿児島大学病院の勤務医時代には、小児科で先天異常外来を担当していました。
これまでダウン症候群(以下ダウン症)など、大きな病気や障害を抱える子どもやその家族と接してきた、松田先生にダウン症の子に見られる才能や可能性、課題について話を聞きました。

日本におけるダウン症の年間予測出生数は1万人に約22人。平均寿命は60歳ぐらい

日本におけるダウン症の年間予測出生数は1万人あたり約22人と言われています。

――日本のダウン症の出生数はほぼ横ばいで、平均寿命は延びているとのことです。

松田先生(以下敬称略) ダウン症は21番目の染色体が3本あるために起こる生まれつきの病気です。染色体の数の異常で、最も頻度が高いのがダウン症です。ダウン症は先天性の心疾患や消化器疾患などの合併症を伴いやすく、ふた昔前ごろまでは平均寿命が20歳ぐらいでした。しかし医療の進歩によって、合併症については有効な治療が行われることで、現在は平均寿命が60歳ぐらいまで伸びています。
ダウン症で合併症を持ちながらも子どもたちが、どのようにイキイキと自立して生活していくことができるか、社会全体で考えるべき時期が来ていると思います。

毎日、NHKの基礎英語を聞いていて、英語が得意になったダウン症の女の子も

松田先生は、これまで多くのダウン症の子どもたちと接してきています。先生から見て、どの子にも共通して言えるのは、興味があることへの集中力と根気・継続性だそうです。

――先生の著書『とっておきの診療ノート』には、ダウン症のアカリちゃんとのことが記されています。アカリちゃんのことを改めて教えてください。

松田 アカリちゃんと出会ったのは、私が2年間の研修医期間を終えて、鹿児島大学病院の小児科で先天異常外来を担当していたときです。アカリちゃんは中学1年生でした。
アカリちゃんは勉強が大好きで、とくに英語が得意だと話してくれました。

私が著書で、アカリちゃんのことを書いた章は「1本多い染色体には可能性がいっぱい」というタイトルをつけました。
ダウン症の子の特徴として、興味があることに対する集中力がズバ抜けていたり、継続的に同じことを繰り返すことができます。そうした性質が、秀でた才能を発揮するのだと思います。

アカリちゃんは、中学1年生のときから毎日欠かさずNHKの基礎英語を聞いていると言っていました。そして、ダウン症の患者さんでは国内で初めて4年制大学に入学して卒業しています。得意の英語をいかして、大学は英語英文学科に入学し、1998年にはニュージーランドで開かれた「第3回アジア太平洋ダウン症会議」に参加して、パネリストとして英語でスピーチをしています。

――アカリちゃんのように、ダウン症の子の持っている才能を伸ばすには、ママ・パパの育て方の影響が大きいでしょうか。

松田 アカリちゃんは、英語は得意ですが数学は苦手なようです。お父さんはほがらかな人で、講演会で「健康な人でも算数が苦手な人はたくさんいます。算数や数学が苦手でも何も恥じることはありません」と言っていて、こんなふうに物事をとらえるお父さんに育てられたから、アカリちゃんは自分が得意な英語の力を伸ばすことができたんだな、と感じました。

病気をもつ子だけにかかわらず、子育て全般に言えることですが、苦手なことをどうにかして克服しようと、子どもに過度に頑張らせるよりも、得意なことを伸ばして、少しでもできたときに大いにほめてあげたほうが、子どもはぐんぐん伸びるのではないかと思います。

インクルーシブ社会の構築で必要なのは、まずは子どもたちのへの教育

障害の有無や国籍、年齢、性別などに関係なく違いを認め合い、共生していくことをめざす社会をインクルーシブ社会と言います。ただ日本では、進みづらい一面もあるようです。

――インクルーシブな社会になるために、松田先生は日本ではどのようなことが必要だと思いますか。

松田 保育園などでも、加配の保育士をつけて、身体障害や発達障害のある子を受け入れてくれる園が増えてきました。園に行くと、そうした友だちのお手伝いをする子どもたちも見かけるようになりました。

また給料が安いのはまだまだ課題ですが、障害がある人が働ける場も増えてきているようです。ひと昔と比べると、障害のある人の社会進出の道ができつつあるのではないかと思います。
しかし日本では、一般的にインクルーシブの意識が根づいているかといえば、けしてそうは見えません。
20年ぐらい前にイギリスに留学していた後輩の医師の話ですが、イギリスでバスに乗っていたら、道を渡ろうしていた足の不自由な人がいたそうです。するとバスの運転手さんはバスをとめ、手を引いて道を渡るのを手伝う人もいたそうです。そうしたことが自然とできることに感銘を受けたと話していました。今の日本では考えにくいことだと思います。

インクルーシブ社会の構築で必要なのは、まずは子どもたちへのインクルーシブ教育だと思います。ママ・パパも、そうした教育や社会の在り方に理解を深めることが必要です。

――松田先生は、普段から大きな病気を抱えていたり、障害をもつ子と接していますが、そうした中で感じている課題はありますか。

松田 高齢出産が増えていることで、子どもがまだ未成年なのに、親が高齢になったりして、障害がある子どもの近い将来に漠然とした不安を抱えているママ・パパが多いです。

私は現在、ダウン症や知的障害、発達障害がある子どもたちと「とっておきの音楽隊」という音楽隊を作っているのですが、メンバーのママ・パパたちが「私たちが歳をとったら、子どもはどこの支援施設に入れることができるのだろうか?施設なしでも生活できるように自立することはできるのだろうか」などと話し合う光景を何度となく目にしてきました。

ひと口に支援施設といっても、数がそろえばいいというものでもありません。理想的な施設ばかりということもないでしょう。そして、たとえばダウン症といっても、一人一人にはもちろん個性があります。それは健康な人と同じです。
一人一人の個性を大切にして、当事者もその家族も安心して、イキイキと生活できることが当たり前の社会となるように、国がもっと力を入れてほしいと願っています。

お話・監修/松田幸久先生 取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部

松田先生は、インクルーシブ社会の構築には、子どもたちへの教育が欠かせないと言います。これまで日本は障害のある子どもと障害のない子どもを別々に教育する分離教育を進めてきましたが、2022年、国連は日本に対してインクルーシブ教育を進める必要があると勧告しました。松田先生は「個々の多様性が重要視されるようになり、インクルーシブ教育はこれから前進すると思います。子どもたちが築く、日本の未来に期待を寄せたい」と言います。

松田幸久先生(まつだゆきひさ)

PROFILE
鹿児島大学医学部を卒業。同年同大学小児科学教室に入局。2001年に、鹿屋で「まつだこどもクリニック」を開業。専門は、小児科学、とくに臨床遺伝学、遺伝カウンセリング。障害をもつ子どもたちやターミナルの子どもたちと接するようになり、童話を書き始める。絵本に『どろぼうサンタ』(こぐま社)、『天にかかる石橋』(石風社)、『魔法のドロップ』(石風社)など、著書に『とっておきの診療ノート』がある。

●記事の内容は、松田先生の体験をもとに個人を特定しない情報で編集しています。
●記事の内容は2023年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。

『とっておきの診療ノート』

1人の小児科医が、難病を抱えながらも人生を前向きに生き抜く子どもたちとの思い出をつづったエッセイ集。
松田幸久著/幻冬舎メディアコンサルティング(1650円)

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