「まさか・・・トイレに行っている間に子どもが大やけど」。電気ケトルによる乳幼児のやけどが増加。専門家も注意を呼びかけ
電気ケトルを使う家庭が増えるのに伴い、電気ケトルによる乳幼児のやけどが増えているようです。電気ケトルは一度にたくさんのお湯が出るしくみのものも多く、ひどいやけどになるリスクも高いのです。子どもの事故に詳しい小児科医の山中龍宏先生に、電気ケトルによるやけどの予防策と、万一のときの応急処置について聞きました。
電気ケトルは注ぎ口が大きいため、広い範囲の深いやけどにつながりやすい
――電気ケトルは湯を沸かすスピードが速く、調乳だけでなく、温かい飲み物を飲みたい季節には、とくに使う頻度が増えそうです。
山中先生(以下敬称略) たしかに電気ケトルは使い勝手がいいので、使う家庭が増えているようです。でもその一方で、電気ケトルの熱湯がこぼれて、乳幼児がやけどをする事故が増えているんです。
――お湯を沸かす家電製品には電気ポットもあります。電気ポットと電気ケトルにはどのような違いがありますか。
山中 電気ケトルの特徴はお湯がすぐに沸くこと、そして、どこにでも持ち運べること。便利である一方、ちょっと目を離したすきに、子どもが熱湯に触れてしまう可能性があるということです。また、電気ケトルはふたが簡単に開き、注ぎ口が大きく、一度にたくさんのお湯が出るようになっているので、子どもが電気ケトルを倒したとき、大量のお湯を浴びてしまう危険があります。
一方、電気ポットは電気用品安全法で、転倒したときに流れ出るお湯の量が50mL以下であることが義務づけられています。そのため、万一、子どもが電気ポットを倒しても、大量のお湯がかかるリスクは低いといえます。
しかも電気ポットは大きいので、たいていの家庭ではキッチンの定位置に置いていると思います。ところが、電気ケトルはコンパクトで、電源がある場所ならどこにでも置けるため、ついうっかり子どもの手が届く場所に置いてしまうこともあるようです。その上、入っている湯の量が少ないと軽いので、赤ちゃんでも簡単にひっくり返せてしまうんです。
日本小児科学会のInjury Alert(傷害速報)に報告されている、電気ケトルによるやけどの事例を紹介します。
【事例1 8カ月女の子】
台所の食器棚の2段目(高さ約80cm)、底面が引き出せる扉のない棚に電気ケトルと炊飯器が置いてあった。自宅には母親と女の子の2人のみで、女の子は台所にいた。母親は洗面所にいて、台所の様子を確認できない状況。台所から泣き声がしたため向かうと、電気ケトルが倒れて、床に湯があふれていた。右前腕(ひじから手首までの部分)にお湯がかかったと思われるため、冷水で数分冷却したのち、ぬれタオルで包み救急車を要請。
受診時には右手関節から前腕にかけて水疱・びらんが見られ、浅達性Ⅱ度熱傷約5%相当と判断された。
(傷害速報より引用、一部改変)
【事例2 8カ月女の子】
ミルク用に毎日電気ケトルを使用。こたつテーブルの上の中央に電気ケトルを置いていた。ミルクの準備のために母親は電気ケトルの電源を入れ、トイレに行った。子どもの泣き声を聞いて居間に戻ってくると、ケトルが倒れ、テーブルの上に湯が薄くたまっていた。子どもは立った状態で前胸部がテーブルのふちに密着し、両前腕が湯だまりにつかっていた。子どもが電気ケトルを倒したと思われる。両腕を流水で数分冷やしたあと 、医療機関へ救急搬送。
両上肢と胸部を合わせて10~15%のⅡ度熱傷と判断され、入院となった。
(傷害速報より引用、一部改変)
子どもの手の届かない高さは変わることを意識して、置き場所を考えよう
――電気ケトルによるやけどを防ぐには、どのようなことに気をつければいいでしょうか。
山中 「電気ケトルを子どもの手が届く場所に置かない」。これが鉄則です。手の届く距離の目安は、1歳90cm、2歳110cm、3歳120cm、4歳130cm、5歳140cm。これは、高さのことではありません。たとえば、1歳児の90㎝というのは、50㎝の高さのテーブルであれば、テーブルのふちから40㎝奥まで手が届く、70㎝の高さのテーブルなら、テーブルのふちから20㎝奥まで手が届くということです。テーブルの高さによって手の届く距離が異なるのです。
子どもの手が届く位置を確認する簡単な方法があります。ひもを1本用意して、1歳児だったら90㎝のところに印をつけておきます。そしてひもの片方の端を床につけ、テーブルの上にひもを伸ばすと、どれくらい奥まで手が届くかがわかります。
子どもの成長とともに手の届く位置が長くなっていくので、折に触れて、電気ケトルを置いている場所が安全か確認しましょう。
でも、これでもまだ不十分です。コードに足を引っかけ、電気ケトルを転倒させる事故も多発しているからです。子どもが触れない位置にあるコンセントにつなぐようにすることも忘れないでください。
電気ケトルは持ち運びが簡単なのが魅力ではありますが、子どもが小さい間はキッチンの定位置から持ちださないようにしてほしいです。もちろんキッチンには小さい子どもが入れないようにしておくことも必要です。
なお、これから電気ケトルを購入する場合は、倒れたときに湯がこぼれない、湯もれ防止機能つきのものを選びましょう。
――最近は、ホテルの客室にも電気ケトルを置いてあることが多いです。
山中 ホテルの部屋は狭いので、子どもの手が届かない場所で使うのが難しいかもしれません。お湯が沸くまで子どもから目を離さないようにして、沸いたらすぐに電源を切り、電源コードを片づけます。そして、たとえば洗面室に持っていってお湯を注ぐなど、家庭よりも注意して使ってください。実家などでも同様です。
腕1本分くらいの広さのやけどを負ったら、患部を冷やしながら救急車を要請
――万一、電気ケトルの熱湯が子どもにかかってしまったときの応急処置を教えてください。
山中 お湯がかかった部分をすぐに流水で20分冷やします。服の上から熱湯がかかったときは無理に脱がせず、着衣のまま冷やしてください。おなかや胸など広範囲にやけどした場合も、できる限り流水で冷やしましょう。そのほうが皮膚へのダメージを減らすことができます。
――冷やしすぎによって、体温が下がるのも心配です。
山中 水ぶろにつけるなど、体全体を冷やしすぎると低体温になることがあります。低体温症のサインは、意識がもうろうとする、反応が鈍いなど。このような様子が見られたら冷やしすぎです。覚えておきましょう。しかしそう簡単にはならないので、やけどの患部を冷やすことのほうが大切です。
流水を20分程度かけ続けるのが腕や足などの場合、低体温になることはほぼないでしょう。
おなかなどを広くやけどしてしまって、内臓がある広い範囲を長く冷やす場合には、少し注意が必要です。洗面室など水のある場所でも使える小型温風器などをお持ちの場合は、浴室でおなかに流水を当てながら、洗面室から温風を送って浴室内を温め、室温は下げないようにしてもいいと思います。
――熱湯でやけどをしたとき、救急車を呼ぶ目安を教えてください。
山中 子どもの体の10%以上やけどしたときは救急車を呼んでください。10%の目安は乳幼児なら腕1本あるいは脚1 本くらいの広さです。冷やしながら救急車が到着するのを待ちます。
救急車を呼ぶほど広範囲でなくても、やけどはあとから悪化することがあるので、患部を冷やしたあと受診してください。
乳幼児の皮膚は薄く、体表面積が小さいため、「ついうっかり」が大きなやけどにつながってしまいます。子どもにつらい思いをさせないために、自宅はもちろん実家や旅行先でも、安全対策は怠らないでほしいと思います。
取材・文/東裕美、たまひよONLINE編集部
お湯を使いたいときすぐに沸く電気ケトルは、忙しい生活の中で何かと重宝です。でも、子どものやけどにつながるリスクがあることを忘れずに、安全対策を講じて使うようにしましょう。
●記事の内容は2024年1月の情報であり、現在と異なる場合があります。