【能登半島地震から約1カ月】自宅・自家用車・避難所 それぞれの避難場所での妊娠中・育児中ファミリーの注意は?
2024年元旦に発生した能登半島地震から約1カ月。被災地では、いまだ日常が戻らない人たちがたくさんいます。また、被災者ではなくても、報道などで地震による被害を目にして、不安な気持ちが大きくなっているママ・パパもいるのではないでしょうか。
25年以上地震の研究をしている防災の専門家で、災害現場に赴いての現場分析被害調査を基にした安全教育を行っている清永奈穂先生に、妊娠中や育児中の避難生活での注意点などを聞きました。
長期化する避難生活。避難所で過ごすときは、積極的に意見交換をすることが大切
――被災後は避難所で過ごすのが基本なのでしょうか?
清永先生(以下敬称略) 自宅の被害がさほど大きくなければ、「在宅避難」を推奨している自治体が多いです。
自宅で過ごせる状況であっても、電気・ガス・水道に不自由することはあるでしょう。理想は地震が起きる前に、水は1人1日3リットルを目安に少なくとも3日分、できれば1週間分備蓄しておくことです。市販の災害用トレイや、その代わりとして使える高吸水性ポリマーや新聞紙、ポリ袋などを用意しておくといいでしょう。ポリ袋は、中身が見えにくい色つきのものがおすすめです。
自宅が倒壊していなくても、鍵がかからない、ドアが閉まらない、家が斜めになって気分が悪くなるなどの場合は、避難所に移動しましょう。また、余震に注意し、怖いと思ったら避難所に移動できるよう、避難所の場所や状況は確認しておくといいです。
倒壊の恐れがあるなど自宅で過ごせない場合、自家用車で避難生活を送る人もいます。移動しやすいことや、ある程度プライバシーを守れること、ペットも一緒に過ごしやすいなどのメリットがある一方で、自治体などの支援物資や情報を得にくいという心配があります。さらにエコノミークラス症候群などの健康リスク、家族全員分の就寝スペースを取りにくいこと、トイレを自ら確保して衛生管理をしなければならないなどのデメリットも多いです。エコノミークラス症候群は長時間同じ姿勢でいることで血流が悪くなる病気です。血栓ができると、命にかかわることもあり、注意が必要です。
避難所で過ごす場合は、授乳する場所、着替える場所、子どもの遊び場など、遠慮せず、どんどん意見を出し合っていいと思います。
どこで避難生活を送る場合も、停電していると夜間には街灯もつかず周囲が真っ暗になります。盗難や性犯罪にも十分注意し、できれば防犯ブザーなどを用意しておくといいでしょう。トイレに行くときなども1人ではなく、2人以上で行動することを原則にしてください。
妊婦さんは体調が悪くなったときに相談・受診できるよう、準備をとくにしっかりと!
――避難生活で妊婦さんはどんなことに注意が必要でしょうか?
清永 知人の医師のアドバイスによれば、妊娠中は菌やウイルスへの抵抗力が低下して感染症にかかりやすくなります。避難生活では衛生面を保つのが難しくなりますが、手洗い・うがいなどを意識して、感染症対策に努めましょう。妊娠中は体が冷えやすく、冷えるとおなかが張りやすくなることがあるので、できるだけ温かくしてください。
――体調が悪くなった場合は、どうすればいいでしょうか?
清永 避難生活では急に体調を崩すことも。とくに妊婦さんは、急な体調変化に注意し、いざというときにすぐに相談や受診ができるよう、情報を集めて準備しておきましょう。
自家用車で避難生活をするときの健康リスクとして、エコノミークラス症候群の話をしましたが、妊娠中は血栓ができやすくなるので、とくに注意してください。トイレを我慢して水分を控えるのではなく、1時間にコップ半分くらいを目安に適度に水分をとり、散歩するなどして時々体を動かして予防しましょう。
妊娠中は貧血になりやすいので鉄分の多い食事をとるなど、栄養バランスに気をつけたいところですが、避難生活では難しいかもしれません。できればサプリメントなどで補えるといいですね。さらに避難所などで提供されるお弁当や避難中に食べがちなインスタント食品・保存食などは、通常の食事よりも塩分が高いことがあります。妊娠中に塩分を取り過ぎると、高血圧や尿たんぱくなどの症状が見られる妊娠高血圧症候群や、妊娠高血圧腎症の原因になる恐れがあります。塩分が多い食事が続き、手足のむくみを感じるようなことがあったら、兆候かもしれないので注意してください。また、目がチカチカする、強い頭痛がする、吐きけ、耳鳴りなどの症状があれば、血圧が高く危険な状態である可能性があります。遠慮せず、すぐに受診・相談をしましょう。
おなかが頻繁に張る、下腹部痛がある、不正出血があるなどの場合は、切迫流産・切迫早産などの可能性も。早めに受診の手配をしましょう。
赤ちゃんのお世話グッズがたりない場合は、代用できるものを工夫して
――赤ちゃんがいる場合の避難生活について教えてください。授乳はどんなことに注意するといいのでしょうか?
清永 母乳を飲んでいる赤ちゃんにとっては、ママが元気を出すことが大切です。避難中は「お弁当や菓子パン、インスタント食品などしかなくて、食欲がわかない」「栄養バランスが心配」ということも少なくないですが、食べて力をつけてください。避難所にはたくさんの人がいるので、授乳時のプライバシーを確保できないとつらいことが。積極的に意見を言って、できるだけ早く落ち着いて授乳できるスペースを作ることが大切です。
ミルクの場合は、液体ミルクを準備しておくといいですが、ない場合は衛生面に気をつけて調乳します。粉ミルクは70度以上の湯で溶かすことが鉄則です。避難所などで調乳するときの手順例は、まず消毒用アルコールなどで手を清潔にします。カセットコンロなどで湯を沸かし、「粉ミルクを溶かす用の湯」は保温ポットに、「湯冷まし用の湯」はマグカップにそれぞれ注ぎます。保温ポットの湯(70度以上)で粉ミルクを溶かし、そこに常温まで冷ましたマグカップの湯を注ぎ、適温になるように調節します。赤ちゃんがミルクを飲み残した場合は、長時間放置せずに処分しましょう。
避難生活では、哺乳びんが消毒できないばかりかきれいに洗えない状況のこともあるでしょう。そんなときには紙コップを利用します。紙コップで授乳するときは、赤ちゃんがしっかり起きている状態で行い、頭を少し持ち上げて抱っこします。ミルクを流し込むのではなく、唇や舌を使って吸いつくように飲むのを待つようにします。口からミルクがこぼれることがあるため、少し多めに用意しておくようにしましょう。
――おむつ替えやおふろはどうしたらいいでしょうか?
清永 紙おむつが不足した場合は、取っ手があるポリ袋を切って広げ、その上にタオルを置いて、布おむつ代わりにする方法があります。
また、おふろですが、一般的なベビーバスは、だいたい10リットルくらいの水が必要です。断水などで、使用できる水の量が限られているときは、体全体ではなく、「おしり」「頭」「首」「顔」を部分的に洗います。洗浄料を泡立てて皮膚をこすらずにやさしく洗う「部分洗浄」が有効です。おしりを部分洗浄するときの手順例を説明します。まず防水シーツやタオルの上に赤ちゃんをあお向けに寝かせます。次にお湯でおしりを軽く流し、たっぷりの泡でやさしく洗います。最後にお湯で泡を流し、おしりふきでふいて新しいおむつをつけるといいでしょう。
今こそ、災害への備えを見直して。報道についても関心を持ちながら留意を
――能登半島地震から約1カ月。被災した人々や、地震の報道を見て不安になっているママ・パパへメッセージをお願いします。
清永 まだまだ避難生活が続いている人もたくさんいるでしょう。被災地の報道を見て「実際に被災地に行って手伝うことはできないけれど、とても心配」と思っている人は、全国にたくさんいると思います。被災した方々には「1人じゃない」と感じてほしいです。避難生活では疲労やストレスがたまりやすくなります。頑張りすぎず、心と体を休める時間を作ってほしいなと思います。
とくに赤ちゃんと一緒に避難所にいると、赤ちゃんの泣き声やおむつ替え時のにおいなどが気になって、周囲に気を使いすぎてしまうママ・パパもいるでしょう。できるだけ快適に過ごせるように子連れのみのスペースを作るなど、意見交換をして環境を改善していけるといいですね。
被災地の報道を見て不安になっているというママ・パパたちは、ぜひ今こそ災害に対する備えを見直してほしいです。ただし、不安な気持ちが強すぎる場合は、報道を見なくていいと思います。「被災地でつらい人たちがたくさんいるのに、何もできない私は無責任じゃないか」「こんなふうに笑っていていいのだろうか」とふさぎ込む必要はありません。日々の生活を大切にしながら、少しずつ災害に対する備えをして、いざというときに自分と家族を守れる準備をしておきましょう。
取材協力/高屋和志先生(高屋こども診療所) 取材・文/たまひよONLINE編集部
災害時に配慮が必要であることがわかりにくい障害のある人も、必要な支援を受けることができるよう、「配慮が必要」な人は「黄色」、「支援ができる」人は「緑色」のものを身につけようという取り組みがあるそうです。妊娠中の人や子育て中の人も支援が必要であれば、そのことをまわりにわかってもらえるように、その場で意見を言うなど意思表示することが大切です。周囲の人とお互いに気持ちよく支え合えるといいでしょう。
●記事の内容は、2024年2月の情報で、現在と異なる場合があります。
『おおじしん、さがして、はしって、まもるんだ: 子どもの身をまもるための本』
子どもが1人のときに大地震が来たら、子どもはどのように自分の身を守ればいいかを、親子で読んで学べる絵本。練習方法や、日ごろから親子でやっておきたいことも。清永奈穂 文・監修 石塚ワカメ 絵/1430円(岩崎書店)