6月10日は「こどもの目の日」。6歳で1.0の視力をめざそう!近年では幼児からできる治療法も【眼科医監修】
子どもの近視が増えています。日本眼科啓発会議は、毎年6月10日を「こどもの目の日」に制定し、「はぐくもう 6歳で視力1.0」をスローガンに掲げ、子どもたちの視力の成長を見守り、目の健康を推進するための活動をしています。
増加傾向にある子どもの近視と近視抑制の治療法などを、小児の近視に詳しい、都立広尾病院 眼科医長、東京医科歯科大学眼科学教室 非常勤講師 五十嵐多恵先生に聞きました。
幼稚園児の約4人に1人は、裸眼視力1.0未満
近年、子どもの目の健康で問題となっているのが近視です。低年齢化が進んでいます。
――子どもたちの近視の状況を教えてください。
五十嵐先生(以下敬称略) 2023年11月、文部科学省が発表した「令和4年度学校保健統計」によると、裸眼視力1.0未満の幼稚園児は、2022年は24.95%でした。約4人に1人は裸眼視力1.0未満ということです。この数字は、数年間、微増、微減を繰り返しているものの大きな変化はありません。統計で最も少ないのは約40年前の1981年です。そのときは14.93%でした。2022年と比較すると、約1.7倍に増えていることになります。
小学生の裸眼視力1.0未満は、2022年は37.88%です。幼稚園児と比較すると、約1.5倍増です。
近視の原因は眼軸長の伸び
近視の原因は、環境の悪化などによって眼軸長が伸びることです。俵のように伸びた眼軸長(右)は、正視眼(左)のように縮むことはありません。
――子どもの近視のしくみを教えてください。
五十嵐 近視は、眼軸長(眼球の前後方向の長さ)と角膜や水晶体の屈折力(光を集める力)のバランスがよくないために発症します。正視の場合は、遠方からきた光線が網膜上で焦点を結びますが、近視だと網膜の手前で焦点を結んでしまいます。そのため近くの物を見るときにはピントが合いますが、遠くの物を見るときはピントが合わずぼやけて見えるのです。
近視の原因となる眼軸の伸びは、注意しなければ15歳ごろまで顕著に見られます。低年齢から発症するほど、眼軸が伸びて近視は進行しやすいです。近視の発症を予防する生活スタイルを身につけて、低年齢で近視を発症させないように配慮してもらいたいです。
――子どもたちの近視が増えている理由を教えてください。
五十嵐 ゲームやスマホ、タブレットなどを近くで見るということが一因です。近視の進行を抑制するには、目と画面の距離は30cm以上離すことが推奨されています。
シンガポールの調査では、視距離が30cm以下で読書をする子どもは、1.8倍も近視の発症リスクが高いことがわかっています。
――ゲームやスマホ、タブレットなどの使用時間も関係があるのでしょうか。
五十嵐 ICT機器の使用の規制は、たとえばカナダやニュージーランドでは乳児は0分、幼児は1時間以内です。
アメリカは、幼児は質の高いプログラムならば共同視聴で1時間以内と規制を設けています。日本は規制がないため、ママ・パパがしっかり使用時間などを管理したほうがいいでしょう。
ヨーロッパの調査では、近視でない子どもたちの1日のデータ使用量は約600MB。近視の子どもたちは約1131MBと約1.9倍という結果もあります。近視が進行している子はICT機器の使用時間が多い傾向があることがわかります。
近視の進行を抑えるには、外遊びが有効。日陰のベンチに座っているだけでもOK
近視の進行を抑制するために、有効なのが外遊びです。五十嵐先生は、幼児はもちろん小学生も外遊びを積極的にしてほしいと言います。
――子どもの近視の進行を抑えるために効果的なことを教えてください。
五十嵐 幼児でとくにすすめたいのは、外遊びです。太陽の光が網膜を刺激して、ドーパミンを分泌すると近視進行の抑制になることがわかっています。エビデンスがあるので、台湾では15年前から1日2時間の学校での屋外活動を取り入れていて、裸眼視力0.8以下の子どもが確実に減少しています。
またオーストラリアの調査では、6歳から6年間、外遊び時間が多い子どものグループと少ない子どものグループを追跡調査した結果、近視の発症には最大16倍の差があるという結果も出ています。
近視の発症を抑制するには、外遊びは長いほどいいとされています。ただし直射日光に当たる必要はありません。木陰で遊んでいてもいいですし、日陰のベンチに座っていてもいいです。屋外で過ごすことが大切です。
点眼薬など、幼児でもできる近視抑制治療も
日本は近視抑制治療では残念ながら遅れているそう。しかし海外で効果が認められている治療が、自由診療ではありますが日本でも受けられるそうです。
――子どもの近視抑制治療について教えてください。
五十嵐 海外では近視抑制治療は進んでいます。しかし日本では、海外では有効性が認められている治療も厚生労働省の承認が得られていません。日本で近視の抑制治療を受ける場合は自由診療(保険適用外)となります。
たとえば4歳からの幼児でもできるのは、「低濃度アトロピン点眼」による治療です。1日1回~2回、寝る前などに点眼します。0.01%、0.025%、0.05%などの濃度があります。0.05%が最も効果が高く、近視による眼軸長の伸びを約50%抑える効果があると報告されています。濃度が高くなるほど手元がまぶしくて見えにくくなるなどの副作用が報告されています。しかし幼児期、学童期は近視がとくに進行しやすいので、高い濃度をすすめられることもあるでしょう。
低濃度アトロピン点眼薬は、医療機関によって異なりますが、1本2000~3000円ぐらい(約1カ月分)が目安です。
ほかに4歳からの幼児でもできる近視抑制治療には、「レッドライト治療法」があります。専用の機器を使って、家庭で1日2回各3分、赤い光線を目に当てることで、近視の原因となる眼軸長の伸びを緩やかにします。近視進行の抑制効果は約90%という報告もありますが、診療費や機器のレンタル代など初年度は年間20万円近くかかります。
弱視の子どもは約50人に1人。3歳児健診を必ず受けて早期発見・早期治療を
子どもの目の病気で比較的多いのが弱視です。弱視は、片目が見えていると家庭では気づきにくいことも。そのため3歳児健診で視覚検査を正しく受けることが大切です。
――3歳児健診で行う、目の検査について教えてください。
五十嵐 3歳児健診は、まずは家庭で視力検査を行います。子どもの片目をしっかり隠して、2.5m離れてCの視標が正しく見えているか確認します。
検査を正しく行うには、近くで両目でCの視標を見て、指さしの練習をするなどしてから検査しましょう。突然、本番の検査をしてもうまくいかない子が多いと思います。
片目を隠すと嫌がる場合は、目の病気のサインかもしれません。3歳児健診の際、その旨、必ず伝えてください。
なかには「家庭での視力検査がうまくできなかったから」といって3歳児健診に行かなかったり、「普段、見えているから大丈夫」と自己判断するママ・パパもいるようですが、こうしたことが目の病気の見逃しにつながることもあります。
たとえば乳幼児期に何らかの原因で視力の発達が妨げられる弱視の子どもは、約50人に1人と言われています。弱視は近視や遠視とは異なります。視力の発達を促すには、早期発見・早期治療が大切なので、見逃しがないように3歳児健診を正しく受けてください。
――弱視は、どのようにしてわかるのでしょうか。
五十嵐 3歳児健診で屈折検査機を用いて検査を行います。従来の検査機は、大きくて場所を取るものが多かったのですが、最近は小型で操作が簡単な屈折検査機(フォトスクリーナーなど)が主流になっています。しかし高価なため、その機器を用いて屈折検査を実施している市区町村は、全国の7~8割程度といわれています。
フォトスクリーナーなどは操作が簡単なため、小児科クリニックで屈折検査を行い、気になることがあると眼科を受診するようにすすめられることもあります。
――ママ・パパが子どもの目の異常に気づくことはできますか。
五十嵐 ①目を細めて見る、②テレビやタブレットなどを見るとき画面に近づく、③横目で見る、④ぶつかったり、転びやすい、⑤片目を隠すと嫌がる、⑥視線が合わない、⑦黒目がずれるときがある(ずれるような気がする)、⑧黒目が白っぽく光って見える――など気になる様子があるときは、早めに小児眼科または眼科を受診しましょう。
取材・文/麻生珠恵 たまひよONLINE編集部
子どもの近視や目の病気は、早期発見・早期治療が第一です。五十嵐先生は「子どもの視力は3歳ごろまでに急速に発達して、6〜8歳ごろにほぼ完成します。しかし視力が完成する前に裸眼視力が1.0未満だと、将来、強度の近視になったり、目の病気になるリスクが高まります。そのため6歳で視力1.0をめざしてほしい」と言います。