「もし登下校中に大地震が起きたら…」子どもが自分を守る力は0歳から普段の育児で育てられる、と専門家が提言【年齢別に解説】
大地震などの災害が起きたとき、あなたの子どもは自分の身を守れるでしょうか? 「子どもが自分の身を守る力は、0歳からの普段の育児で育てることができる」と、防災対策に詳しい清永奈穂先生は言います。その力はどうやって育てるといいのでしょうか? 地震の研究を25年以上している清永先生に聞きました。
0歳からスタート! 防災に必要な4つの力を育てよう
――大地震が発生したときに、子どもが自分の身を守るためには、どのような力が必要でしょうか?
清永先生(以下敬称略) ぜひ「安全基礎体力」を身につけてほしいと思います。防災のために必要な力ですが、防犯対策としても役立つ力です。私が提唱している「安全基礎体力」とは、以下の4つの力のことです。
【1】体の力
ゆれを感じたら、さっとしゃがむ、ダッシュで安全な場所にすばやく動くなど、危険を回避するために必要な基礎体力。
【2】危機への知恵・知識力
どこが危ないかを察知したり、体のどこをどう守るかがわかるなど、危険から逃れる力。
【3】コミュニケーション力
「助けて」などのSOSを発信する力。大人に助けを求めたり、お友だちに「危ない」と言ってあげる力も含む。
【4】大人力
【1】~【3】をベースに、危ない場面・場所を自分で判断して行動し、責任をとる力。
この4つの力は、普段の育児や遊びで育てることができるもの。0歳から安全基礎体力を意識してはぐくめるといいでしょう。
0~1歳は、親子の絆(きずな)を深め、コミュニケーション力の基礎を
――「安全基礎体力」を育てるには、親は何をすればいいでしょうか? まずは0~1歳代について教えてください。
清永 0~1歳代は、親子の心の絆を深めて、【3】コミュニケーション力の基礎を作るといいでしょう。
赤ちゃんにとって、「自分には、自分の存在を受け入れてくれて、助けを求めたら、すぐ手を差し伸べてくれる人がいる」という安心感が、コミュニケーション力の基礎になります。子どもは、この安心感をベースに、あいさつをしたり、ありがとうと言えるようになっていきます。まずは、子どもが抱きついてきたときにしっかりと受け止めてあげることから始めましょう。
また、はいはいをたくさんしたり、小さくやわらかなボール転がしなどをすれば、【1】体の力がつきますし、絵本や手遊びを通して集中して見る力を育めば、【2】危機への知恵・知識力を伸ばすことにもつながります。はいはいや、よちよち歩きを始めたら、口に入れたり、さわると危険なものがあることや、登ると危ない場所も教えましょう。
2~4歳代は、「危ない」を教えるチャンス
――2~4歳代は何をするといいのでしょうか?
清永 外で急に走りだしたり、目が離せない年ごろ。親子で出かけたら、子どもに「ママ(パパ)から離れないよ」「前を見ながら歩こう」「暗い場所は危ない」など、危ない行動・場所を教えていきましょう。【2】危機への知恵・知識力を育むチャンスです。
普段の遊びからも、さまざまな安全基礎力を育むことができます。いくつか例を紹介します。
・鬼ごっこ→全力で走る力
・かくれんぼ→自分の体を移動させたり距離感を判断する力
・だるまさんがころんだ→周囲を注意深く見る力
・ケンケンパ→ものをよけて逃げる力
・たか鬼→安全な場所を見つけ、ジャンプする力
5~6歳代には、具体的なリスクを教えて
――5~6歳代になると、小学校入学も控え、理解力も高まってくるころですね。
清永 このころには具体的に何が危ないかを理解できるようになります。おすすめの合言葉は、「わ、たこやきおとうさん」。これは、大地震が発生したときにどんな危険があるかをわかりやすくまとめたものです。
「わ」=割れる→窓ガラスなど
「た」=倒れる→自動販売機など
「こ」=壊れる・転がる→古い家、ごみ箱など
「や」=焼ける→火事
「き」=切れる→電線が切れる
「(お)と」=飛ぶ→瓦や植木鉢など
「う」=動く→車がスケートのように動く
「さ」=裂ける→道が裂けて、すき間から水が噴き出たりする
「ん」=ん?と注意。
具体的なリスクを教え、「そのときにどうしたらいいのか」をイメージして動く練習をするといいでしょう。
新1年生は、今すぐ登下校中の避難をシミュレーション
――小学生になると1人で登下校することがほとんどです。登下校中の地震に備える練習も必要でしょうか?
清永 大地震は、「発生直後の8秒が生死を分ける」といわれています。一緒に通学路を歩き、最初の8秒で身の安全を確保する練習をしましょう。とくに、まだ1人での登下校に慣れていない新1年生は、親子でしっかり練習をしておきたいところです。
登下校中に大地震が起きたと想定し、最初の8秒で塀(へい)や電線など危険なものから離れ、少しでも広い場所に移動する練習をします。ゆれている間は、かめのように体を小さく丸め、両手かランドセルで頸椎(けいつい)をガードする姿勢を。コアラのように木やガードレールにしがみついて体を安定させる練習もしておくといいでしょう。
安全を確保する練習をしたら、家へ帰るか、学校へ戻るかの判断基準を親子で話し合っておきましょう。また、どちらに移動するのも危険な場合に備えて、近くのコンビニなど、一時避難できる場所を教えておきましょう。公衆電話の場所を確認して、親に電話する練習もしておきたいところ。できれば、災害伝言ダイヤル「171」の使い方の練習もできると、なおいいです。学校のルールによりますが、できればランドセルに10円玉やテレホンカードを入れておくといいでしょう(※)。
「わ、たこやきおとうさん」を合言葉に、通学路で危険なものがないか、探しておくことも大切です。
※171、110、119は公衆電話から無料でかけられます
取材協力/岩﨑書店 取材・文/大部陽子、たまひよONLINE編集部
「コミュニケーションが苦手で『助けて』と言えない子には、『助けて』と書いたカードを持たせて、『助けてくれる人は必ずいる』と伝える方法も。子どもを安心させてあげるよう準備することが大切です」と清永先生。わが子の成長や性格に応じて、「自分は大丈夫」という自信をつけさせたいですね。
●記事の内容は2024年8月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『おおじしん、さがして、はしって、まもるんだ: 子どもの身をまもるための本』
子どもが1人のときに大地震が来たら、子どもはどのように自分の身を守ればいいかを、親子で読んで学べる絵本。練習方法や、日ごろから親子でやっておきたいことも。清永奈穂 文・監修 石塚ワカメ 絵/1430円(岩崎書店)