「どうして駅にベビーカーの貸し出しはないの?」妻のひと言で新規事業に手を挙げた。子どもとのお出かけをもっと自由にできる社会をつくりたい
子どもとのお出かけは楽しみな反面、小さなうちはとくに荷物が多くなりがちで親の体力次第なところも。「子どもとのお出かけをもっと気軽に自由に」を掲げる、ベビーカーレンタルサービス「ベビカル」を運営している森祐介さんに現状の子育ての課題や事業を立ち上げた経緯について聞きました。
「あって助かった!」と思わせるベビーカーレンタルサービス
――「ベビカル」のサービス内容を教えてください。
森さん(以下敬称略) 予約ができる、外出先でのベビーカーレンタルサービスで、2024年9月時点で北海道から沖縄まで全国231カ所の駅や商業施設などでサービスを提供しています。最短1時間から最長7日間までレンタルでき、利用場所の制限もないので、帰省や旅行などいろいろな用途でご利用いただけます。
――2021年のサービスインのときは何カ所の取り扱いからスタートしましたか?
森 最初の貸出箇所数は18か所でした。JR東日本管内の駅からスタートしましたが、現在はJR東日本の駅だけでなくほかの鉄道事業者の方にも導入いただいており、駅以外にも商業施設・百貨店やレンタカー、ホテル、コンビニエンスストア、カフェ、ガソリンスタンド、観光案内所など様々な業種の方々に導入いただいています。まだまだ導入できていないエリアも多く、もっと増やしていきたいですね。認知も足りていないので、メンバーがホームページの問い合わせからメールしたり電話したり、ひたすら地道な営業活動をしています(笑)。
――利用者からはどんな声が届いていますか?
森 「ベビカル」は、はじめの1時間250円を基本料金とした有料サービスです。有料だと利用されづらいのではないか、という意見もありましたが、お客さまからは値段に対してのご意見はなく「外出先でベビーカーがなくて困っていました。助かりました。」という声が圧倒的に多いです。
「ベビカル」を立ち上げたきっかけは妻のひと言
――「ベビカル」を始めたきっかけを教えてください。
森さん 私は広告とコンテンツビジネスに興味があって、ジェイアール東日本企画に入社しました。「ベビカル」を立ち上げる前は、エリアマネジメントや商業施設の販促企画、暫定利用地の有効活用、集客施設の企画などが主な仕事でした。そんななか、2018年にJR東日本グループの社員から新規事業の募集がありました。そのときは、プロダクトアウトの発想で世代問わず楽しめる施設の企画で応募しようと考えていました。
――それが「ベビカル」の原型となる企画で応募することになった理由はなぜですか?
森 応募締め切りの前夜に妻から「なんで駅にベビーカーの貸し出しがないの?」って言われたんですね。当時は長男8才、二男が4才で、息子二人の育児に奮闘していた時期。僕も子どもとのおでかけは、腰が重い部分がありました。荷物は多いし、急に泣き出されるなど想定外のことも起こるし、身軽とはいかなかったので。
その時、ある苦い経験を思い出したんです。自宅は駅から遠く、最寄り駅に行くまでのバスはベビーカーがのせにくく、息子は抱っこひもに入れて移動していました。夏の暑い日に抱っこひもに入れていたら、息子があせもになってしまい、しばらく皮膚科に通うことに……。
それまで生活の一部からビジネスを生む発想はなかったけれど、必要性から生まれるサービスこそ大切なんじゃないか、育児を応援するサービスを始めることで世間の育児世代に対する見方も変わるんじゃないか、という思いが湧いてきました。
――「ベビカル」を利用された奥さまの反応を知はどうでしたか?
森 2022年に生まれた三男のときにはじめて利用し、「声に出したことが形になるとすごいね」と言われました。現在は「ベビカル」を利用するので、わが家はベビーカーを所有していません。
子育て世代にやさしい社会になるあと押しをしたい
――森さんは14才の長男から2才の三男と10年以上育児を経験するなかで、これからどういう社会になってほしいですか?
森 男性トイレのおむつ替えシートは現在14才の長男と8才の二男 のときはないのが当たり前でしたが、今は増えてきて三男のお世話の時に助かっています。長男・二男 の時代と、現在2才の三男の状況を比べると世間が子育て世代にやさしくなったと感じています。一方で、家事をするのは女性というような価値観がまだ残っていたり、子連れで公共交通機関にのると冷たい対応をされたり、ということも。「子育てしている人にやさしくしてください」と声高に叫ぶのではなくて、自然とそうなるような風潮がつくれればいいなと思い、ベビカルのサービスもそのあと押しになればと思っています。
育児世代だけでなく、お出かけする人や街も元気にしていきたい
――東北新幹線のはやぶさや、北陸新幹線のかがやきなど、JRならではの特別なベビーカーも貸し出しています。今後はどのような取り組みで独自性を打ち出そうとお考えですか?
森 施設内の店舗で買える商品で、試乗も兼ねて貸し出しを実施している商業施設もあります。お出かけを楽しくする、はやぶさやE7系のかがやきといったオリジナルのベビーカーは、今後販売する予定です。お客さまの声も多かったので、チャイルドシートの貸し出しも始めましたし、二人乗りベビーカーや車椅子のレンタルなども行っています。
都営地下鉄とは、紙おむつや液体ミルクといった育児用品を購入できる自動販売機とセットになった「こどもスマイルスポット」としてスポット展開しています。「子どもとのお出かけをもっと気軽に自由に」を元に、あくまでもシェアリングをベースに、そこからの広がりを考えています。
また、大阪府堺市の泉北ニュータウンでは、エリアマネジメントと連携し、子育てしやすい街としての堺市のPRをご一緒しています。来街促進だけでなく関係人口の増加やおもてなしの一環としてなど自治体との取組みも今後増やしていく予定です。志を同じくする地域や企業と協業した取り組みも積極的に取り組みたいですね。
取材・文/津島千佳、たまひよONLINE編集部
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現在たまひよでは、生み育てやすい社会の実現に向けて活動している3つの団体にフォーカスをあてた「子育てのミライ応援プロジェクト」を実施中。応援したいと思う団体を1つ選んで投票してください! 「ベビカル」もエントリーしているので、チェックしてみてください。
<プロフィール>
「株式会社ジェイアール東日本企画」jeki-X部長 森 祐介さん
2002年株式会社ジェイアール東日本企画入社。イベント・キャンペーンを担当する部署でスポーツイベントやキャラクター関連業務を担当した後に、不動産デベロッパーの担当営業として商業施設の販促に従事。現在は、新規事業開発部門で新規事業の企画推進を担当。プライベートでは、反抗期の中2とゲームにしか興味のない小4、イヤイヤ期の2歳の3人の男児を子育て中。