「看護師だけど、わが子には適切な判断ができなかったことも」。だからこそ、今ママ・パパに伝えたい【小児救急看護認定ナース】
24年の小児看護歴があり、小児救急看護認定看護師の野村さちいさん。小児科の現場で働きながら、SNSで保護者向けの情報発信や啓発活動もし、「子どもの笑顔のために、親も笑顔になろう」と言います。野村さんがさまざまな発信をしているのには、自身の2人の子育て体験もあったとか。「小児科の看護師をしていても、育児は未知のことばかりだった」と話す野村さんに歩んできた道について聞きました。
全2回インタビューの前編です。
看護師歴24年。子どもが生まれて、気づかされたことがいっぱいあった
野村さちいさんは、小児看護歴24年。長女を授かって1度は休職したものの、子育てをしているうちに「また、小児科で看護師の仕事がしたい」と思ったそうです。
――小児科で働く看護師になった理由を教えてください。
野村さん(以下敬称略) 看護師になろうと思ったのは、中学生のときに父が入院したのがきっかけです。お見舞いに行ったときに看護師の仕事を目の当たりにして、やりがいがある仕事だなと思ったためです。子どもが好きだったので小児科の看護師をめざしました。
――小児看護歴24年とのことですが、ずっと小児科の看護師を続けているのでしょうか。
野村 私は大学生の2人の娘がいますが、長女を授かって、一度休職しています。上の子が2歳、下の子が10カ月になって復職しました。
まだまだ授乳間隔も短かったころ、夜中、娘に授乳をしていたときに、ふと「これまでの自分は、子どもの具合が悪くて不安を抱えているママ・パパたちに、本当の意味で寄り添うことができていたのかな?」「今の自分なら、もっと違うカタチでママ・パパの不安に寄り添うことができるかもしれない」と思ったんです。
振り返れば、以前の私は小児科に来るママ・パパたちにうわべの言葉しかかけていなかったように感じました。「内容が浅かったな」「配慮が少したりなかったかも」「もっと話を聞くべきだったな」と反省したんです。もう一度しっかりと、小児科に来るママやパパ、子どもと向き合いたいと思い、復職しました。
小児科で働く看護師なのに、わが子には適切な判断ができなかったことも
野村さちいさんの著書『子どもの病気・救急 ぜったいこれ知ってて!』には、小児科の看護師なのに、わが子のことではダメダメなことが多かったとあります。
――自身の子どもが病気になったとき、小児科の看護師の経験があってもとまどうことがあったのでしょうか。
野村 私は結婚、出産する前には総合病院の小児病棟で働いていました。もちろん小児の病気や治療の知識はあります。そのため「子どもが生まれて、もしわが子が病気になっても大丈夫」と思っていたんです。
しかし考えてみたら、小児病棟では病気と診断された子を看護していました。病気かどうかわからない子を見て、受診が必要かなど判断したことはありませんでした。
そのため実生活では、ダメダメなことが多かったです(笑)
たとえば長女は、寝返りが早くて2カ月のときに寝返りをしたんです。夫は「すごい」と笑って喜んでいましたが、私は病気の子どもばかり見ていたので、「反り返りが強すぎる? 体の筋緊張のバランスが悪い? 何かの病気かも」と心配したりしました。結局、病気が原因ではありませんでした。
また8カ月ごろに長女が繰り返し嘔吐(おうと)したとき、夫は「すぐに受診したほうがいい」と言うのに、私は「ただの風邪だと思うし、もう診察が終わる時間だ・・・。こんな時間に小児科に飛び込んで行ったら迷惑かもしれない」と思い、受診をためらったことがありました。でも今、思えば遠慮することなんてないのに・・・と思います。小児科で働く看護師としての知識や経験が、裏目に出てしまった感じです。
子育てを経験して、ママ・パパたちがどんな思いで小児科を受診しているか、やっとわかった感じでした。
小児救急看護認定看護師の資格を取得するため、1年間学校に入学。単身で東京へ
復職した野村さんは、その後小児看護をさらに極めたいと、2013年に小児救急看護認定看護師の資格を取得しました。
――小児救急看護認定看護師とは、どのようなことをするのでしょうか。
野村 小児救急看護認定看護師は、救急医療の現場で、子どもの状況を見て緊急度を判断するほか、「子どもの権利と尊厳を保障する」ことを基盤に、虐待への対応、ママ・パパの育児不安への対応、子どもの事故予防の指導、ホームケアの指導などの役割があります。
――小児救急看護認定看護師の資格を取得しようと思ったのは、なぜでしょうか。
野村 小児救急看護認定看護師の資格を取ろうと思ったのは、さらに専門的な知識を学びたいと思ったためです。
しかし資格を取るには、1年間の認定看護師教育課程を受講して卒業しなくてはいけません。その学校が当時は東京しかなかったんです。
しかし娘はまだ小学生。愛知に住んでいたため「どうしよう・・・」と悩んだのですが、もし単身で東京に行くならば、子どもが小学1年生と思春期の時期は避けたいと思いました。
いろいろ悩んだのですが、そもそも入学試験に受からないことには始まらないので、2年は挑戦してみようと考えて、勉強を始めました。その時点で家族には内緒でした。
――入学試験の結果はどうでしたか。
野村 奇跡的にも1年目で試験に合格しました。事後報告になってしまい申し訳ないな・・・と思いながらも夫に相談しました。夫はとても驚いていて何度も話し合いをしました。でも最終的には「どうしてもやりたいんだよね、反対しても・・・」と言われ、私が東京に行って勉強している間、娘たち2人をみてくれることになりました。今でも感謝しかありません。
――子どもたちは寂しがったりしませんでしたか。
野村 娘たちともしっかり話し合いましたが、寂しかったと思います。週2回手紙を書こうと約束して文通を続けました。
私の両親からは、「まだ小さい子どもがいる母親なのに」と言われましたが、夫と子どもが理解して、応援してくれているので心は揺らぎませんでした。夫の両親にも、とても支えてもらいました。
心が揺らがなかったのは、子どもたちを保育園に通わせていたときの経験が大きいです。うちは上の子が2歳、下の子が10カ月で保育園に通い始めましたが、仕事との両立に悩んだこともありました。とくに子どもが病気になると「看護師の仕事を辞めたほうがいいのかも・・・」と葛とうした時期もありました。しかし、私は子どもたちがいるから頑張れるんです。だから子どもたちが保育園にいる間は100%全力で仕事に向き合えばいい! と考えるようになったんです。それから気持ちが前向きになりました。
それまでは園の送迎時に、子どもたちに「ごめんね」と謝っていたのに、気がつけば「(仕事ができたよ)ありがとう」と言えるようになっていました。
子どもたちは、今、大学生ですが2人とも看護大学に通って看護師をめざしています。
また私が、単身で東京に行っていた時期を、子どもたちは「あの1年間で鍛えられた」と今では笑って話してくれます。
――小児救急看護認定看護師の資格を取得してからのことを教えてください。
野村 資格を取得した3年後に一般社団法人「つながる ひろがる 子どもの救急」を設立しました。年齢や職種など関係なく、あらゆる人とつながって、みんなで一緒に「子どもにとって最善の医療とは」を考え、学ぶ場を作る地域活動をしています。
小児科での看護師を続けながらの地域活動です。ママ・パパたちに知っておいてほしい情報を届けるために必要な活動と考えています。
先ほど「診察が終わる時間だ・・・」と診察をためらった私の経験を話ましたが、子どもがいると受診1つとっても「今すぐ受診したほうがいい?」「診察時間外だから、明日受診しても大丈夫かしら?」「救急外来を受診したほうがいい?」と悩むことの連続です。とくに今はSNSの情報も加わり、余計に混乱するケースもあるようです。そうしたママ・パパたちの不安を軽減できるように、正しい小児医療の情報を発信し続けていきたいと考えています。
お話・写真提供/野村さちいさん 取材・文/麻生珠恵、たまひよONLINE編集部
仕事と子育ての両立に悩み「仕事を辞めたほうがいいのかも・・・」と考えているママ・パパもいるかもしれません。野村さんは「悩んだときは“子どものため”というフィルターをはずして、“自分のため”と考えてみると、前に進めるかもしれない。一生懸命働くママ・パパの姿を、子どもはきっと見ています」と言います。
インタビュー後編は、小児科の上手なかかり方などを紹介します。
野村さちいさん(のむらさちい)
PROFILE
1998年に看護師取得。2013年に小児救急看護認定看護師を取得する。2016年、一般社団法人「つながる ひろがる 子どもの救急」を設立し、小児救急医療の現場からママ・パパに知っておいてほしい医療情報を発信。
●記事の内容は2024年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『子どもの病気・救急 ぜったいこれ知ってて!』
小児救急看護認定看護師が、0~6歳の子どもをもつママ・パパに知っておいてほしい「モヤモヤを残さない受診方法」「緊急事の対処とおうちでの事故予防策」「子どもがかかりやすい病気の最新情報」などを紹介。野村さちい著/1540円(日東書院)