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重度自閉症の姉をもつ小児科医。自身の経験から、発達特性のある子どもと親に寄り添う医師をめざした【ママ友ドクター・西村佑美】

更新

2023年、3人の子どもたちと西村先生

12歳、8歳、4歳の3児のママであり、発達専門の小児科医でもある西村佑美先生。医師をめざしたきっかけは姉が重度自閉症だったことだそうです。現在、“ママ友ドクター”としてSNSやオンラインスクール、コミュニティで、子どもの発達に悩む親をサポートするサービスを提供している西村先生に、小児科医になった経緯や“ママ友ドクター”の活動を始めた理由、活動に寄せられる声などについて聞きました。

自閉症の姉と母の姿を見て、医師を志した

2016年に長女を出産し、産後退院した日の西村先生。

――医師をめざしたきっかけについて教えてください。

西村先生(以下敬称略) 私の3歳年上の姉は約40年前に最重度の知的障害を合併した自閉症と診断されました。姉は一語文を話しますが、会話での長いやりとりはできませんし常に多動で走り回っていました。でも私にとっては、生まれた瞬間からそういう姉がいることが当たり前でしたし、物おじせず感情豊かなあこがれのお姉ちゃんでした。しかし当時は、自閉症は症状が重いほど、親の育て方のせいだとか、愛情不足などと言われていたような時代です。母もまわりに理解されず責められたことがあったそうです。当時の私から見ても母は大変そうでした。

姉が思春期に入ってからは多動やかんしゃくなどの問題行動を抑えるために、医師から抗精神病薬や鎮静剤などたくさんの薬を処方されていました。母は、薬の作用で姉の眠けが強いとさらに問題行動につながってよくないと気づき、薬を減らしてほしいと医師や支援者に訴えていましたが、全然聞き入れてもらえず、落ち込んで悔しそうにしていました。そんな姉や母の姿を見て、障害のある子どもと家族に寄り添う医師になりたい、と思うように。医師をめざそうと思ったのは高校2年生のころでした。

障害のある子やその家族に寄り添う医師に

2020年には二男を出産。

――その後、発達専門の小児科医になるまでの道のりを教えてください。

西村 大学の医学部を卒業し2年の初期研修医期間を経て、4月から小児科医として大学病院に勤務するという時期に、若手のドクターを集めた懇親会がありました。私は上司に「自閉症や心のケアが必要な子どもや親に寄り添う医師になりたいです!」と伝えたのですが、上司からは「それは、医師の仕事じゃない」と言われてしまいました。重度自閉症の姉を持つ私は、その言葉に大きなショックを受けました。

医療現場では、医師は客観的に診断をしたり、必要な検査など指示を出す役割であって、子どもや家族の直接のケアは心理士などチームでやるべきだという考え方があるのはわかります。だけど私は、当事者家族である自分の経験をいかして、患者さんや家族のためにできることがあるはずだと、その思いをあきらめたくありませんでした。

そこで、自分で発達特性についての勉強をするため、休日に学会や勉強会に参加するように。そのころ発達障害診療の名医である恩師に出会い、長男の育休中にはその先生の元に通って学びました。育休復帰後には地方に出張して新しい小児科病棟の立ち上げに携わり、そこで発達専門外来をスタートさせました。2016年に長女を出産したあとには都内の大学病院に戻って2カ所目の発達専門外来を立ち上げました。

発達専門外来に通う親たちに笑顔が増えた

3人の子ども、それぞれの違いを楽しみながら、周囲の人にも頼りながら育てているという西村先生。

――発達専門外来ではどんなアドバイスをしていましたか?

西村 初診での問診票には親御さんの今の悩みや改善したいことを書いてもらい、それに対して私が赤ペンで「こんなふうに接してみましょう」とアドバイスを書いて渡します。交換日記みたいな感じで、2カ月後の外来までに自宅でアドバイスを試してもらいます。

子どもとアイコンタクトを取ること、よい行動ができた場合のほめ方や、困った行動のしかり方などをアドバイスするほか、親自身が前向きに子育てできるようなマインドの作り方なども伝えていました。医師は原則的に公私混同すべきではないため、私自身が長男の子育ての経験談を話すことはしませんでしたが、普通じゃないことにも価値があることや、子どものおもしろさを見つけると子育てが楽しくなることなども伝えました。

――発達外来に通う親たちにはどんな変化が見られましたか?

西村 外来に通う回数を重ねるごとにママたちの笑顔が増えて、「子どもがかわいく感じられます」と話してくれてうれしかったです。

あるとき初めて受診した5歳の男の子のママは、問診票にある「お子さんのほめたいところ」という欄に「ほめることはありません」と書いていました。そのママにいくつかアドバイスをして、2回、3回と外来に通ってもらったところ、「お子さんのほめたいところ」の欄の書き込みがどんどん増えていったんです。そのママに「始めのころ“ほめるところはありません”って書いていたのがうそみたいですね」と話をしたら「私、そんなこと書いていたんですか」って驚いていました。

ママのメンタルも変化して、以前の子育てがつらかったときのことを忘れてしまうくらい、子どもをかわいいと思えるようになったようです。

「もっと親たちに寄り添う医師に」“ママ友ドクター”のきっかけになった出会い

2020年6月、二男をモデルにした乳幼児健診の解説動画でYouTube配信を始めた西村先生。

――発達専門の小児科医として勤務する中で、現在の“ママ友ドクター”の活動につながるきっかけがあったとか・・・。

西村 2019年の夏ごろ、数カ月に1度発達専門外来に通ってくれていた5歳と9歳の男の子のママから「乳がんが再発して余命宣告を受けました。今やるべきことを教えてください」と相談されました。

同じ母親として彼女の心情を想像するととてもつらかったです。本当なら一緒に泣いて「大変だね、つらいね」と寄り添う言葉をかけたかった。でも医師という立場は、診療の客観性を保つために「患者とは私情を挟んだり、個人的なつき合いをしない」という暗黙のルールがあります。私は医師として淡々とアドバイスをするほかに、彼女になんの声かけをすることもできませんでした。

ちょうどそのころ、私は3人目の産休に入るところで、外来を休診することが決まっていたので「出産が終わったら戻ってきます」と約束して診察を終えました。その日のやるせない経験から、産休中は診察室の外で親たちに寄り添えるような活動をしたい、“ママ友”のような立場で親たちの役に立ちたい、と思うようになりました。

――“ママ友ドクター”の活動を始めたのはコロナ禍のころだったそうです。

西村 2020年2月に第3子を出産したあと、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言など世の中がパンデミックで混乱し、簡単には病院に戻れなくなったことが転機となりました。コロナ禍では乳幼児健診が一時休止になり、赤ちゃんの相談をできなくなったママたちが増えていました。そこで「ママたちを1人にさせてはいけない」という思いから、自分の息子をモデルにしてYouTubeで乳幼児健診の解説動画を配信。反響があったため、そのころから、“ママ友ドクター”の活動を本格化することを決意しました。

その後、『子ども発達相談アカデミーVARY(バリィ)』というオンラインスクールを立ち上げ、オンラインや対面での発達相談会を行うようになりました。4年ほど活動を続け、2024年9月に初の著書である『最新の医学・心理学・発達支援にもとづいた子育て法 発達特性に悩んだらはじめに読む本』を出版。それがきっかけでいくつかのメディアのインタビュー記事が配信されました。

すると驚いたことに、先にお話をした私が“ママ友ドクター”を始めるきっかけになったママが「記事を見ました」と連絡をくれたのです。「どうにかこうにか頑張って生きています」とのメッセージに、とても感動しました。そして、6年ぶりに再会する約束を果たすことができました。

特性のある子と家族をサポートするために発信を続けたい

――近年、重度自閉症で知的障害があると診断された人のなかにも、文字盤やタイピングを利用してコミュニケーションをとれる人がいることが知られ始めています。今後自閉症の診断基準は変わるでしょうか。

西村 今、医学的に行われる発達検査などで知的障害があると診断される人たちの中に、実は言葉がうまく出せないだけで、しっかり物事を理解をしている人がいるという認識が広まりつつあります。世界的ベストセラーになった『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』の著者の東田直樹さんは、文字盤やタイピングを駆使して自分の意見を述べています。医学的に重度の知的障害があるとされる自閉症の方たちが、自分の考えを表現し、コミュニケーションを取って、年齢相応の学習に取り組んでいるような動画も公開されています。こういった事実が広がれば、いつか診断基準も変わるのかもしれません。

ですが、そういった医学的な研究が進むのを待つよりも、今、目の前にいる子どものために何ができるかを考えることのほうが大事なように思います。しゃべれないからわからないだろうと決めてしまって何も教えられなければ、子どもも何も学べません。私自身も思春期以降の姉とのかかわりで、「姉はきっとわからないだろう」と失礼な態度を取ってしまっていたかもしれないと、今ではとても反省しています。

親自身が、自分の子どもはしゃべれないだけできっとわかっていると信じ、どうやって教えてあげようかな、と工夫したほうが親も楽しいですし、子どもにとってもプラスになるはずです。私は子ども発達相談アカデミーVARYにおいて、個性が強すぎて集団適応がうまくいかなかったり、グレーゾーンと呼ばれ苦手なことと得意な事の差が目立つような子から、重度自閉症と診断を受けるようなお子さんたちまでさまざまな子どもたちと家族をサポートするためにこれからも頑張っていきたいと思っています。

お話・写真提供/西村佑美先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部

たくさんの親子を診察しながら、「発達特性のある子と親に寄り添う」ことをめざして道を模索してきた西村先生。「これからも多くの親子の笑顔のためにサポートを続けたい」と話してくれました。

西村佑美先生(にしむらゆみ)

PROFILE
小児科専門医・子どものこころ専門医。最重度自閉症のきょうだい児として育ち、発達専門の小児科医へ。2020年からママ友ドクタープロジェクトを開始し、オンライン相談等を行う。一般社団法人日本小児発達子育て支援協会設立。3児のママで長男を実際に発達支援(療育)に通わせた経験を持つ。

●記事の内容は2024年12月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

『最新の医学・心理学・発達支援にもとづいた子育て法 発達特性に悩んだらはじめに読む本』

一般の小児科での診察や発達専門外来で、のべ1万組以上の親子を診た臨床経験と、特性のある子の子育ての実体験をもとにした、西村佑美医師初の著書。医師&ママ目線での、子どもを伸ばすための発達段階に合わせた子育て方法を紹介する。西村佑美著/1760円(Gakken)

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