発達外来の専門医でありながら、自身の長男の発達特性にとまどいが。イメージと違う育児に、涙が止まらない【ママ友ドクター・西村佑美】
12歳の長男、8歳の長女、4歳の二男を育てるママであり、発達専門の小児科医でもある西村佑美先生。コロナ禍をきっかけに起業し“ママ友ドクター”としてSNSやオンラインスクール、コミュニティで、子どもの発達に悩む親をサポートしています。西村先生は、長男が1歳半のころ言葉の遅れや多動などの発達特性があることに気づいたそうです。西村先生に自身の子育てのことについて聞きました。全2回のインタビューの前編です。
夫婦とも小児科医。仕事と育児の忙しさにヘロヘロ・・・
――西村先生は3人の子の母親ですが、出産・育児と医師としての仕事の両立は忙しかったのでは?
西村先生(以下敬称略) 医師になって4年目の2012年に長男を出産しました。
長男を妊娠して産休に入るまでは、都内の大学病院の小児科に勤務し、育休復帰後は地方病院に新設する小児科病棟の立ち上げに携わり発達外来を作りましたが、今振り返ると、すごく忙しかったですね。
長男の産休明けに勤務していた病院には24時間の保育園がついていたのでとても助かりました。でも長男を院内の保育園に預けて遅くまで勤務し、仕事を終えて長男を連れて自宅に帰ると、もう疲れ果ててヘロヘロで・・・。なんとか食事を作って、おふろに入れて寝る、というバタバタな日々で、家事も洗濯と食器洗いなどの最低限のことしかしていませんでした。
――先生の夫も小児科医だそうです。2人の出会いや家族について教えてください。
西村 大学の同級生だった夫との出会いは大学1年生の夏でした。夫はおだやかな雰囲気がありながらも物事を冷静にとらえ、石橋をたたいても渡らないようなタイプ。情熱に任せて突っ走って石橋をたたかずに走り抜けるタイプの当時の私とは対照的で、自分にとって必要な人だと思いました。7年交際して、お互い研修医のころに結婚しました。長男を出産後は、2016年に長女を出産、2020年に二男を出産し、今も3人の子育てに奮闘中です。
長男の子育ては、あこがれていたイメージとかけ離れていた
――長男の発達に特性があると感じたのは、いつごろどのような様子からでしたか?
西村 長男が0歳のころは、発達は順調で、活発で元気もある子でした。そのころよく『ひよこクラブ』を読んで発達の参考にしていました。私は小児科医なので医学的な判断はできるのですが、子育てをする中での親子のかかわりや、こまかな生活面でのお世話の様子や発達のうながし方についてはわからないことばかり。だから『ひよこクラブ』やたまひよアプリで、いろんな人の経験やアドバイスを見て情報を集めていました。
そんなふうに子育てしながら、長男がほかの子と違うと気づいたのは1歳6カ月健診のときです。ほかの子が落ち着いて大人とやりとりしているのに、長男はひたすら走り回り、指示を聞かない様子が見られました。2歳になると言葉の遅れも気になり始めました。
――長男の特性に気づいて、どう感じましたか?
西村 「たまひよ」などの育児情報を見ていたから、子どもが1歳になったら公園でこんな遊びをしよう、とか、親子でこんなカフェに行ってみたい、とか、こんな習いごとをさせたいな、と子育てのイメージをもっていたのです。だけど長男の子育ての現実は、そんなあこがれとはかけ離れていました。
走り回るからカフェどころか外食もできないし、落ち着いておもちゃで遊ぶこともできないから習い事もできない。自分の思い描いていた育児のイメージとのギャップに落ち込んでいました。発達外来をもつ医師でありながらも、母親の立場になると「この子はこの先どうなるんだろう」「どうしてしゃべれないんだろう」と、毎日不安を感じていました。私は覚えていませんが、夫によると当時の私はしょっちゅう泣いていたそうです。このまま何もしなければまずいとわかりつつ、現実を受け入れるのに時間がかかりました。
友人の公認心理師いわく「この子は理解した上で泣いている」
――どんなきっかけで、長男の特性を受け入れたのでしょうか。
西村 決定的だったのは、2歳のころに通っていた保育園のおゆうぎ会でした。長男はずっと大泣きしてほかの子と同じようにおゆうぎに参加することができなかったのです。私は発表会の途中で長男を連れて退場しました。そして帰宅しようと自転車に乗せたら、長男がにっこり笑ったんです。その笑顔を見て、この子はまわりと同じことをしたくない子なんだな、と気づきました。
そこで長男が2歳半ごろに、アメリカで最新の発達支援を学びすでに日本でも教室を開いていた公認心理師の友人に息子のことを相談しました。
――どんなアドバイスをもらったのでしょうか?
西村 彼女は私と長男とのやりとりを見て「今の声のかけ方だとうまく伝わらないよ」とアドバイスをくれ、どんな声かけに変えればいいのかを教えてくれました。長男はとくにかんしゃくが強かったのですが、長男がかんしゃくを起こしたときの対応を彼女が目の前で実践してくれたこともあり、そのときの長男の変化に驚きました。夫も一緒に行ったのですが、少し声かけを変えるだけで子どもがすごく変わることを実感しました。
私たちは、長男はできないことが多いだろうと思い込んでいたことや、泣かれるとついかわいそうになって甘やかしていた部分があったことに気づきました。友人によると「この子は頭ではなんでも理解していて、わかった上で泣いている」のだと。そこからは、子どもの気持ちを尊重しながらも、アイコンタクトを重視しつつ親が振り回されないような声かけを心がけるように。すると、長男はどんどん変わっていきました。
目を合わせるかかわりで、長男に驚きの変化が
――長男にどのようなかかわりをして、どんな変化があったか教えてください。
西村 目を合わせて声をかけることを徹底しました。何をするにも、本人が私の目を見てから反応することを意識しました。それまで長男は、私が数回声をかけても無反応だったり、私に「何か取って」というときも私のほうを見なかったり、食事を用意しても私のほうを見ないで食べ始めたりしていました。そういった生活の中で、毎回長男に私に注目をさせてから行動をするように意識しました。
長男に声をかけるときには、近くに行って長男の視界に入ってから名前を呼びます。長男が「何か取って」と欲しがったときには、私と目が合ってから、その物を渡しました。長男が私に意識を向けた状態になって、初めて私が行動をするというふうに。そのような声かけを意識した結果、1週間ほどで、長男の名前を呼ぶとぱっとこちらを見るようになりました。
――短期間で大きな変化があったんですね。
西村 しっかり目を合わせるようにすると、子どものリアクションがよくなるんです。一語文のやりとりは変わらないんですが、これまでと違って笑顔でやりとりできるようになったのが大きな変化でした。そんなふうにやりとりできるようになって、より一層息子のことをかわいいと感じるようになりました。大変なことも多いけど、やっぱりかわいい、と思えると、子育てに前向きになれた気がします。
この子は普通と少し違うけど、いろんなものを見ているんだな、感情表現が豊かなんだな、と、子どもの個性をポジティブに見られるようになったし、子どもの考えていることや気持ちを想像できるようになったと思います。
インターナショナル幼稚園で過ごし、集団生活に適応できるまでに
――集団生活はどうしていましたか?
西村 長女の育休と重なったころに、職場の保育園から普通の私立幼稚園に入園したものの、長男の特性を伸ばすにはどうしたらいいかいろいろと考え悩みました。ちょうど私が地方病院から都内の大学病院に異動になるタイミングでもあったので、都内でインターナショナルの幼稚園を探して年中になる前に転園することにしました。
長男の発達支援を受けるのと同時に、園では長男のできることを伸ばすかかわりをしてくれたおかげで、しだいに集団生活でも適応できるようになっていきました。日本語と同時に英語も理解するようになって、活発でやんちゃでありながらもずいぶん成長してくれました。
半年たつころにはクラスのお友だちと同じように過ごせるようになっていただけではなく、発表会の劇で中心的人物を演じたりもできるまで成長し、親としてはとても感激しました。進学就学前健診も問題なく受けられ、小学校は通常級に進学しました。小学校では勉強面でいろいろと工夫はしましたが、3年生くらいのときに、息子の個性を伸ばしてくれる塾の先生と出会えました。勉強面ではその先生にすごくお世話になっていて、親が支えきれない精神的な部分も伸ばしてくれたと思います。
――今、長男はどんなお子さんですか?
西村 12歳になった長男は古今東西のサブカルチャー的なものが大好きです。名作アニメや昭和レトロも大好きですし、ロボットやフィギュアを組み立てて遊ぶことも好きです。
長男は小さいころからフィギュアで人形遊びをしながら、何かぶつぶつ口にしていました。言葉を話せるようになってからよくよく聞いてみると、彼なりにちゃんと物語が展開されているとわかりました。きっと彼の頭の中では映画を撮影しているような感じなんだと思います。長男が小さいときは「どうして人形遊びばかりするんだろう」と思っていたのですが、もう10年以上も続けているのを見ると、彼の面白さの1つだな、と感じられるようになりました。4歳の弟とも一緒に遊んでくれます。自分が大事にしてきたおもちゃを、弟が使っているのもうれしいみたいです。
小さなころは彼の特性に戸惑ったこともありましたが、今は彼の個性が花開き始めていると感じ、これからの成長がとっても楽しみです。
お話・写真提供/西村佑美先生 取材・文/早川奈緒子、たまひよONLINE編集部
発達専門の小児科医でありながら、自身の子育てに葛藤があったという西村先生。とくに、アイコンタクトと笑顔を意識したことで、長男とのかかわりが大きく変わったそうです。
後編では、西村先生の重度自閉症のお姉さんのことや、発達専門の小児科医をめざしたきっかけなどについて聞きます。
西村佑美先生(にしむらゆみ)
PROFILE
小児科専門医・子どものこころ専門医。
最重度自閉症のきょうだい児として育ち、発達専門の小児科医へ。2020年からママ友ドクタープロジェクトを開始し、オンライン相談等を行う。一般社団法人日本小児発達子育て支援協会設立。3児のママで長男を実際に発達支援(療育)に通わせた経験を持つ。
●記事の内容は2024年12月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。
『最新の医学・心理学・発達支援にもとづいた子育て法 発達特性に悩んだらはじめに読む本』
一般の小児科での診察や発達専門外来で、のべ1万組以上の親子を診た臨床経験と、特性のある子の子育ての実体験をもとにした、西村佑美医師初の著書。医師&ママ目線での、子どもを伸ばすための発達段階に合わせた子育て方法を紹介する。西村佑美著/1760円(Gakken)