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16歳年下のシングルマザーと結婚。突然、発達障害の娘の父親に。55歳で初めて「自分以外のだれかのために生きた」【漫画家・渡辺電機(株)インタビュー】

更新

『父娘ぐらし それから 55歳まで独身だったマンガ家が8歳の娘と過ごした4か月間』(KADOKAWA)より。

55歳でシングルマザーの女性と結婚し、8歳と4歳の2児のパパになった漫画家の渡辺電機(株)さん。突然の育児生活のスタートにとまどいながらも、親子としてしだいに心を通わせていく様子を描いた単行本『父娘ぐらし 55歳独身マンガ家が8歳の娘の父親になる話』(2022年、KADOKAWA)は、大きな話題になりました。

2025年1月、約2年半ぶりの続編『父娘ぐらし それから 55歳まで独身だったマンガ家が8歳の娘と過ごした4か月間』(同)が発売されました。全2回のインタビューの前編では、長女・アユちゃんとの7年間について渡辺さんに聞きました。

55歳で初めて「自分以外のだれかのため」に生きた

『父娘ぐらし 55歳独身マンガ家が8歳の娘の父親になる話』第1話より。

――2018年に16歳年下のシングルマザーの女性と結婚して、渡辺さんが2児の父になってから7年が経過しました。怒涛の日々だったと思いますが、結婚した当時を振り返っていかがですか。

渡辺電機(株)さん(以下敬称略) 結婚する前は、妻と子どもたちは大阪、僕は東京で離れて暮らしていました。妻が仕事の都合でなかなか大阪を離れられなかったので、小学校低学年だった長女のアユが早く東京の学校になじめるようにと、新学期の4月からしばらく父娘2人暮らしを始めることになりました。

それまで僕は、自分以外のだれかのために1日を過ごすという経験が1度もなかったんです。ペットを飼ったこともないし、本格的に人のお世話をしたこともない。それなのに血のつながりのない子どもと2人で生活するというのは未知の連続で、最初は自分の体重が激減するほど、かなり気をつかいながら暮らしていました。

――『父娘ぐらし』の連載では、アユちゃんとだんだん仲よくなっていく様子が描かれていました。

渡辺 「今日から父親だと思え」なんて言うのもアレだし、かといって他人行儀でつき合うのもやりにくい。なるべく気をつかわせないように、同じ目線で冗談を言い合いながら接するようにしていたら、友だちのような感じになれましたね。思春期真っ最中の今でも、仲よく過ごしてくれています。

「パパ」になってすぐに、小学校でのトラブルが発生!

『父娘ぐらし それから』より。

――2人暮らしの期間、とくに印象深かった出来事は。

渡辺 小学校でのイザコザには、いちばん頭を悩ませました。本(新刊『父娘ぐらし それから』)にも描きましたが、アユにだけいじわるを言ったり、わざと体当たりしてくる男の子がいたんです。だから僕が学校に行ったときには積極的に、2人の様子を見るようにしました。まわりのお母さんたちはわが家の複雑な事情をなぜかご存じだったので、いろいろ気づかってアドバイスをしてくれたりして、ありがたかったですね。

アユは文章を読んだり書いたりすることができなくて、ほかの子よりもかなりマイペースだったんです。そういう子につっかかってくるタイプって、必ずいますよね。でも、もう少し成長すれば解決するんだろうなという感じだったので、アユの立場に立ちつつ、相手の子に対してもまわりから孤立しないように気を配ったりして…。

その子は高学年になったら、成長してみるみる普通の、たくましい子になっていきました。自分でもコントロールできない何かがあったんだと思います。最終的には、その子とはすごく仲よくなれました。

長女の発達障害とうまくつき合うために、取り組んだこと

渡辺電機(株)さんのX(旧Twitter)より。中学3年生になり、成長したアユちゃん。

――4カ月間の2人暮らしを終えて、家族みんなで暮らすようになり、今アユちゃんは中学3年生ですね。アユちゃんが渡辺さんのまんがを読んだことって、ありますか?

渡辺 (2022年に発売された『父娘ぐらし』の単行本を)読んでました。「あったな~、こんなこと」「ばかだったからなあ」って言っていましたね。

――昔の自分を客観的に見ているんですね。

渡辺 中学校の職業体験で、近所の本屋さんで働かせてもらったとき、書店員さんに「本のポップを書いていいですよ」と言われたそうです。その本屋さんには『父娘ぐらし』の本と僕の色紙が置いてあるんですが、アユはポップに「娘」だと書いて、僕の色紙の上に貼ってました。いろいろやりづらくなるから(書店員さんには、自分が娘だと)言わないほうがいいよとは伝えていたんですが、全乗っかりでカミングアウトしていましたね。

――(笑)。自分の昔話が面白く描かれていて、アユちゃんにとってはほこらしいのでしょうか。

渡辺 どうなんでしょうね(笑)。嫌ではないらしいんですが…。

――今は高校受験の勉強中ですか?

渡辺 はい。小学5年生くらいから絵を描くようになって、今では「美大に行きたい」って夢を持って自分からすごく勉強するようになりましたね。先日は、美術の課題で出した絵が優秀作品に選ばれて展示されました。アユの部活の保護者会に出たら、「後輩から慕われています」「すごく面倒見がいい」と言われてびっくりして。

東京に来たばかりのころのアユは、言葉をうまく話せないし、本当に読み書きもできない状態だったので、どうなることかと思っていました。中学校に上がるときも、「支援学級に行きますか」という話もあったんです。でも頭の回転は速いので、大きくなればなんとかなるかなと思っていました。家ではずっとアユの国語の音読や、書き取りにつき合ってきたんですけど、その努力がだいぶ報われたかなと思います。

――幼少期にアユちゃんが発達障害と診断されたことにも向き合ってきたそうです。

渡辺 妻と知り合ったころから話は聞いていて、「大変なんだな」とは思っていました。ドアを開けっぱなしで行ってしまうし、小学校では集中するとほかのことが完全に目に入らなくなったり、大勢の人がワッと話しているところでは声が聞き取れなくなる特性がありましたね。授業中に先生の話が聞こえなくなるのは困るんで、専用の耳せんを買ったりもしたんですが、うまくいかなくて。

大人になったときに生活に困らないように、手助けしながら自分でやらせるようにしてきました。中学3年生の今も支援教室には週1回通っているんですけど、まわりのつき合い方や生活のしかたについて学んでいて、本人も「すごい、ためになる」と言っています。今では学習のしかたも、自分で工夫できるようになりました。たまに宿題を見せに来るんですけど、数学なんかはもう僕はさっぱりわかんないですね。

かわいがってくれたおばあちゃんの臨終に立ち会って…

渡辺電機(株)さんのnote連載『還暦子育て日記 第9話』より。

――この7年間アユちゃんを見守ってきて、どうでしたか。

渡辺 血のつながった娘だったら、今みたいに冗談を言ってばかりとか、ここまで自由には接していなかったかもしれないですね。でも、そのおかげか僕に心を許してくれたようで、相談事もしてくれていて、結果的にはよかったです。ただ結婚当時は、なんというか「行き場のない子を預かった」という責任感がすごくありました。

妻と結婚する前、二女のマナはまだ小さかったんですが、長女のアユは小学生になっていたので、前のお父さんとの記憶が今もうっすら残っているそうです。お父さんのDVで、毎晩どなり声が聞こえてくるから、自分はただ布団をかぶって泣いていたとか…。妻と知り合ったとき、このままだと親子で立ちゆかない感じがすごくありました。結婚が決まり、妻やアユたちへの責任感から東京に来てもらって、なんとかここまでやってきたという思いはあります。

――今ではにぎやかに家族みんなで過ごして、将来の夢も見つかって。本当によかったです。

渡辺 2023年の夏、僕の母が90歳で亡くなりました。妻と結婚することになって母がアユに初めて会ったとき、難しい子なんだなとすぐにわかったようで、すごくかわいがってくれていたんです。アユが絵を描くようになったことも母は応援してくれていたので、亡くなったことがアユにはとてもショックだったみたいで。

臨終の間際に、妻がアユに「おばあちゃん、亡くなりそうだけど、どうする」と聞いたら、アユは「行く!」と、僕と母のいる病院にすっ飛んで来ました。初めて人が亡くなるのを目の当たりにしたので、みとるときも、葬式でもずっと泣いていました。いろいろと思うところがあったようで、そのときのことを自分の言葉で学校の作文に書いていたんですけど、大変よい作文でした。

出会ったときのアユはあんなに小さかったのに、今では僕と同じくらいの背の高さになりました。これからもっといろんな経験をして、どんどん外の世界ができていくんでしょうが、こうなってほしい、ああしてほしいというのはまったくないです。ただひとつ、いつか自立して、幸せになってもらえればと思ってます。

お話/渡辺電機(株)さん 取材・文/武田純子、たまひよONLINE編集部

▼続きを読む<関連記事>後編

渡辺電機(株)さんに取材をするのは2年ぶりでした。まんがの中では小さかったアユちゃんが今では中学校生活を楽しみ、夢を見つけて頑張っている様子と、渡辺さんの父親としての温かい目線に、胸が熱くなりました。インタビュー後編では、今の家族への思いを聞きました。

渡辺電機(株)さん

PROFILE
東京都出身。明治大学在学中の1980年代半ばより、複数のペンネームでマイナー誌の仕事をする傍ら、石ノ森章太郎の仕上げスタッフに参加。1991年『クソゲー戦記』月刊コミックコンプにて初連載。主な作品に『ダンジョン退屈男』『土星のプリンセス』『はたらくねこ』『クソゲー星人』『(株)~かっこかぶ』『ゾンビな毎日』など。2022年4月、エッセイ漫画『父娘ぐらし』(KADOKAWA)発売。

渡辺電機(株)さんnote

●記事の内容は2024年12月の情報であり、現在と異なる場合があります。

『父娘ぐらし それから 55歳まで独身だったマンガ家が8歳の娘と過ごした4か月間』

55年間独身だったまんが家・渡辺電機(株)さんにある日、8歳の娘ができた! いじめ、不登校、夏休み、大阪への帰省…。初めて経験する子育てに悪戦苦闘する様子を正面から描いた、コミカルで心温まるコミックエッセイの完結編。渡辺電機(株)著/1320円(KADOKAWA)

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