子どもが全員成人するときは75歳に。子連れ結婚と実母の死をへて62歳漫画家が考えた、ステップファミリーの幸せ。漫画家・渡辺電機(株)インタビュー
55年間独身だった漫画家・渡辺電機(株)さん。2018年に16歳年下のシングルマザーと結婚したことを機に、2児の父親になりました。初めての育児にとまどいながらも、5年前には長男が生まれ、家族5人でにぎやかな毎日を過ごしています。
2025年1月に発売されたコミックエッセイ『父娘ぐらし それから 55歳まで独身だったマンガ家が8歳の娘と過ごした4か月間』(KADOKAWA)が話題の渡辺さん。インタビュー全2回の後編は、62歳で保育園児と小学生、中学生の3児のパパとして奮闘する今の生活と、家族への思いを聞きました。
毎日がお祭りの、ドタバタ家族生活
――7年前の結婚を機に女の子2人の父になり、5年前には息子さんが生まれました。現在62歳、ステップファミリーのパパとして園児・小学生・中学生の3人の子を育てる今の生活はどうですか。
渡辺電機(株)さん(以下敬称略) 毎日がお祭りみたいな暮らしです。僕の生まれ育った家庭はごく普通の4人家族だったので、あまりにも違うなあ、と。55歳までずっと1人だったこともあって、毎朝妻と子ども3人をあわただしく送ってからポツンと家にいると「今の、何だったんだろう…」って思うんですよ(笑)。とくに今は実家の古い日本家屋に住んでいるので、家の中がシーンと静かになりますね。
――本来の自分に戻るような感じですか?
渡辺 そうですね。親って圧倒的に家庭内の立場が強いので、どんなにイライラしても子どもたちに感情的にならないようにして、家が明るくなるようにとずっと冗談を言い続けています。子どもたちの前では絶対見せない表情とか態度があるので、1人になると完全にスイッチオフになります。
――子どもたち同士の仲はいかがですか。
渡辺 きょうだい3人、年齢差も男女の違いもあるんですが、一緒にお菓子を食べたりゲームしたりとかはしてますね。あとは息子のサトルのおねだりで最近モルモットを飼い始めたので、サトルが「か~わい~い~!!!」って興奮して走り回ったりしてるのを、姉2人が止めてます。以前はきょうだい3人で母親の愛情を奪い合う感じがあったんですけど、今は妻がいちばんモルモットにデレデレなので、「モルモット対、子ども3人」になってますね。
三者三様、子ども1人1人のゆっくりな発達を見守る
――インタビューの前編では、長女のアユちゃんが高校受験に向けて頑張っている近況を聞きました。二女のマナちゃん、長男のサトルくんはいかがですか。
渡辺 マナは小学5年生で、長女のアユと同じくらいのゆっくりな成長曲線を歩んでいます。毎朝の登校は、もう1人で大丈夫だと思うんですけど、これまでずっと一緒に行ってあげています。もともとはきちんとしたいタイプの子なんですけど、親の注意が小さい弟に向かっていてすねていた部分があって、それが落ち着きつつあるところですね。今年の夏くらいから、これまでいっさいしてなかった家での学習をしてくれるようになりました。一度覚え始めたら、だんだんちゃんと学習できるようになってきています。
サトルは今5歳です。まだほとんどしゃべらないので、3歳児健診で妻が相談したことがきっかけで月に2回、言語指導に通っています。以前は僕が連れていく担当だったんですけど、妻が転職して時間に余裕ができたので、妻の担当になりました。言葉は相変わらず出てこないものの、必要に迫られるとしぼり出すように「パパ、取って」とか言うんです。言わないだけなんだな、ほんとはわかってるんだよな、みたいな雰囲気は感じます。
マナもサトルも、おゆうぎの時間や体育の授業、運動会にはこれまでいっさい参加していなかったんですが、最近ではちゃんと参加できるようになってきました。だんだんよくなってきていると思います。ただ、中学に上がるときのアユと同じで、2人とも「支援学級に行くかどうか」という話が出ています。アユは結局行かずに中学校で元気に過ごせているんですが、2人のことは、よく調べてから決めたいですね。
育児の最中にふと、亡き母親の面影がよぎる毎日
――毎日の育児で大忙しな中で、2023年の夏、渡辺さんの両親が相次いで病に倒れました。
渡辺 2人とも90歳前後と高齢で、何が起きてもおかしくなかったんですが、短期間で救急車に何度も乗ることになるとは思いませんでした。最初は父が認知症の診断を下されたんですが、それでもう嫌になっちゃったみたいで、布団から出てこなくなってしまったんです。その父の看病と心労で、母が倒れました。
母は前年から間質性肺炎を患っていて、酸素を吸入している状態だったんです。無理をしすぎたせいか、1カ月入院したのちに亡くなりました。そんなときも父は布団から出てこなくて、のちに熱中症で強制入院になって…。大変でしたね。
父は母の葬式には来ませんでした。でも、血がつながってはいないけれど、かわいがっていた孫のアユが泣いてくれたから、まあいいかな、と。マナとサトルは、まだ葬式という状況がよくわかっていなかったですね。母が亡くなって1年以上たちますが、気持ちはまだ落ち着かないです。母の遺品整理をしているんですけど、古い昔の写真がごっそり出てきたりして、今見るのはきついなと思ってしまいます。
――先日、サトルくんがひざの上に乗ってきたことについてX(旧Twitter)の日記に「子どもと戯(たわむ)れていると、子どもを通して自分の親の気持ちを追体験しているようで、せつなくなる」と書かれていましたね。
渡辺 なにかにつけて思い出しますね。普通の人は育児がひと段落したころに介護が来ると思うんですけど、僕の場合はだいぶ(結婚が)遅かったので。今子どもたちと接するたびに、自分が子どもだったころの親の気持ちに再会するというか、「ああ、こういうことだったのか…」って時間差で気づくことがあります。とくに母が亡くなった直後は、それがつらかったですね。
父は、今は施設に入居しているので、たまにサトルを連れて面会に行きます。母が倒れるまでの経緯でいろいろ思うところがあり、父にはとても複雑な感情を持っていますが、僕にも引け目がいっぱいあって。父は法律家だったんで、息子の僕がその道に進むことを望んでいたし、自分が勉強に使った本とかを受け継ぎたいと思っていたんでしょうけど、僕は父が希望する道はたどらず、これまで好きに生きてきました。
だから自分の子どもたちに対しては、後を継いでほしいとか、こうなってくれと思う気持ちはいっさいないんです。うちの子どもたちはみんなが普通に高校、大学と行ってサラリーマンになって…というルートはもしかしたら難しいかもしれませんし、学歴にこだわらず、やりたいことで楽しく生きていってくれるといい。
できれば本当に、子どもたちが歳をとって大往生するまでの様子を見届けてから死にたいと思っています。でも、それは親であるかぎり不可能なので(笑)。それどころか、全員が成人するころには僕はもう75歳。いつまで年齢的にサポートしてあげられるかわかりませんが、自立するまではずっとそばで見守っていたいですね。
お話/渡辺電機(株)さん 取材・文/武田純子、たまひよONLINE編集部
親になってからの7年間について「子どもを育てることを通じて自分が成長できた。とりあえず半分やりきった感じはあります」と、密度の濃い思い出を語った渡辺さん。子どもたちの成長と自立を願いつつも、「いずれは夫婦2人で好きなことをやれたらいいですね」と、奥様への思いも語っていました。
渡辺電機(株)さん
PROFILE
東京都出身。明治大学在学中の1980年代半ばより、複数のペンネームでマイナー誌の仕事をする傍ら、石ノ森章太郎の仕上げスタッフに参加。1991年『クソゲー戦記』月刊コミックコンプにて初連載。主な作品に『ダンジョン退屈男』『土星のプリンセス』『はたらくねこ』『クソゲー星人』『(株)~かっこかぶ』『ゾンビな毎日』など。2022年4月、エッセイ漫画『父娘ぐらし』(KADOKAWA)発売。
●記事の内容は2024年11月の情報であり、現在と異なる場合があります。
『父娘ぐらし それから 55歳まで独身だったマンガ家が8歳の娘と過ごした4か月間』
55年間独身だったまんが家・渡辺電機(株)さんにある日、8歳の娘ができた! いじめ、不登校、夏休み、大阪への帰省…。初めて経験する子育てに悪戦苦闘する様子を正面から描いた、コミカルで心温まるコミックエッセイの完結編。渡辺電機(株)著/1320円(KADOKAWA)