1~2万人に1人の難病「ソトス症候群」の長男。知的な遅れ、視覚支援学校に通う。18歳の壁を乗り越えるために思案する母【医師監修】
「ソトス症候群」とは、1~2万人に1人といわれる指定難病です。遺伝子疾患で、8割に知的障害があり、さまざまな合併症を抱えているといいます。ソトス症候群と診断されている河本翼さん(42歳)の長男の翔馬くん(11歳)には、知的障害、運動発達の遅れ、合併症として背骨の曲がり、偏平足、水腎症などがあります。河本さんは、同じ悩みを抱える親が集まる「関西ソトス会」を定期的に開催しています。全2回のインタビューの後編です。
第2子はスムーズに妊娠・出産
――河本さんの長男で、2014年に生まれた翔馬くんは、1万人に1~2人というソトス症候群と診断を受けているそうです。翔馬くんは2人兄弟で2017年生まれの弟がいるとのことですが、第2子を産もうと思った経緯を教えてください。
河本さん(以下敬称略) 私自身が3姉妹で育ったため、子どもは2人は欲しいと思っていました。でも翔馬に障害があるため2人目はとても悩みました。やっぱり下の子に負担になるようなことがあってはいけないと思ったんです。それに、もし2人目も障害があったら・・・と、ためらいました。ソトス症候群は遺伝子異常によって起こる疾患です。だから2人目もソトス症候群である可能性はどれくらいなのか、大阪母子医療センターの遺伝科の医師に相談したこともあります。「親がソトス症候群でないのであれば、翔馬が生まれたときと同じ確率だ」と言われました。遺伝子が変異するのは本当にまれな例だとのことでした。
――2人目の妊娠・出産の様子を教えてください。
河本 びっくりするくらいスムーズでした。翔馬を妊娠しているときは妊娠高血圧症候群になってしまいました。だから2人目の妊娠も心配していたのですが、とくに問題ない妊娠期間でした。翔馬を帝王切開で出産していたので、二男も同様に帝王切開で産みました。翔馬は産声(うぶごえ)を上げるまでに少し時間がかかりましたが、二男は生まれた瞬間から産声をあげ、泣き声もしっかりしていました。「遙馬(とうま)」と名づけました。
けんかはしても仲がいい兄弟
――遙馬くんには翔馬くんがソトス症候群であることを伝えていますか?
河本 遙馬が生まれる前から、障害のある子のきょうだい、いわゆる「きょうだい児」については頭にありました。翔馬の存在を下の子の負担にさせてはいけないと考えていました。そのためにはまず、遙馬本人に翔馬の障害について、早めに理解してもらったほうがいいと考えていたんです。
だから遙馬が3~4歳のときにはさらっと「翔馬には障害があるから、人よりできないことが多いんだよ」とは伝えていました。最初はよくわかっていない様子でしたが、実際に翔馬にできないことがあったとき「翔馬は今練習中なんだよ」と伝えていきました。だんだんと理解したようです。
遙馬は現在7歳です。翔馬の発達段階は5歳くらいなので、すでに知的面でも運動発達の面でも翔馬を抜かしています。遙馬が2~3歳のときには翔馬と同じくらいの発達段階で、3歳過ぎにはお兄ちゃんよりできることが増えた気がします。遙馬は、翔馬には障害でできないことがあるとわかっているようです。
遙馬には少しずつ「お兄ちゃんができないことを僕が手伝ってあげよう」という気持ちもめばえてきていると感じます。私としては、遙馬に何かをしてほしいと思っているわけではありません。だから、「お手伝いをするのはできるときでいいよ」と伝えています。
――ふだん、兄弟でどのように過ごしていますか?
河本 基本的には仲がいい兄弟だと思います。最近は「ユーチューバーごっこ」が楽しいようです。ユーチューバーになりきってゲームやお菓子の紹介などをする様子をインカメラで撮影し、2人で同時に写るという遊びをしています。2人で「ごっこ遊び」をするのも好きみたいです。2人でいると、競争をしたがって「どっちが早く家に着くか」とか「先に2階に上がれるのはどっち?」などかけっこなどで勝負したがります。翔馬は遅いからやっぱり遙馬が勝つんです。競争をしていなくても、遙馬が先になると「僕が先に行きたかったのに」と、翔馬はすごくくやしがります。
とはいえ、けんかすることもあります。翔馬は弟と遊びたい、かまってもらいたいときに、わざと遙馬の言葉をマネして関心を引きたがるんです。それで遙馬が怒ってしまい、仲裁が大変です。
悩みを話せる場所を作りたくて「関西ソトス会」を主宰
――ソトス症候群の子どもとその親が集まる「関西ソトス会」を開催されているそうですが、ソトス会を始めたきっかけを教えてください。
河本 翔馬がソトス症候群と診断されてから、いろいろ調べたものの、まったくといっていいほど知りたい情報がありませんでした。親の会なども調べたのですが、やっぱりなくて。病気の解説ではなくて、ソトス症候群の子がどんなふうに成長していくか、とか、日常はどんな感じなのか、ということを知りたかったんです。
たまたま「希少染色体異常の会」という会を見つけ、その集まりに参加させてもらったことがあります。すると、本当に聞いたことがない疾患や、遺伝子疾患の人たちがいました。その集まりで参考になることは多かったのですが、ソトス症候群の人は1人もいませんでした。やっぱり、遺伝子異常や染色体異常が原因の疾患でも、それぞれ特徴が異なるんです。同じ疾患を抱え、似たような悩みを共有できる場があればいいなと感じるようになりました。
ちょうどそのころ、翔馬が通っていた療育園に、ソトス症候群の子が入園してきたんです。ソトス症候群は1~2万人に1人といわれています。すぐ近くに同じ疾患の子が存在すること自体が奇跡的でした。しかも、翔馬と誕生日が2カ月しか違いませんでした。その出会いがきっかけでブログも始めてみたところ、もう1人、翔馬と同い年のソトス症候群の子がいるママと知り合ったんです。そこで、3人で会うことに・・・。
これまでだれとも共有できなかった悩みをわかち合い、共感できることが多くてとてもうれしかったです。1人でいろいろと考えていると、どうしても「これからどうなるんだろう」と不安になってしまいます。でも、初めて仲間ができたようで心強く、前向きになれました。
もっとソトス症候群の人とつながりたいと思っていたところ、ブログで知り合ったソトス症候群のお子さんのママからFacebookにグループがあることを見つけ、参加しました。少しずつ人の輪が広がるなかで、翔馬とおなじ疾患がある子やその親が直接会おうとSNSで呼びかけました。
――「関西ソトス会」にはどれくらいの人が集まりますか?
河本 だいたい12~13家族くらい集まります。私が関西に住んでいるので、最初は関西の人が中心でしたが、最近は九州や岡山、広島の人たちも来てくれるようになりました。年に2回は集まりたいと思い、私が企画しています。
以前は、ソトス症候群と診断されるのはもう少し年齢が上がってからのほうが多かったようです。それが、最近はかなり早く、0歳から2歳くらいで診断される子が少なくないような気がします。
親からすると、初めて聞く疾患で、ほとんど情報もありません。「この子の将来はどうなるんだろう」と、とても不安なんです。だから最近はSNSのメッセージで相談されることもよくあります。
私自身の経験からも、1人で悩んでいると本当に落ち込んでしまいます。だから、情報を共有し、悩みを吐きだせる場を作りたいと考えています。子どもが成長するにつれ、新たな悩みや問題も出てきます。ほかの人たちはどんな決断をしたのかなど、話を聞くだけでも参考になるのではないかと思います。
――翔馬くんが成長するにつれ、河本さんが悩んだことはありますか?
河本 つねにいろんなことで悩んできましたが、とくに就学について悩みました。特別支援学校にしようかと考えたのですが、生徒数が多くて翔馬とはあまり合わない気がしました。翔馬は片目が見えず、もう片方の視力も弱いため、視覚支援学校に行く選択肢もありました。見学に行ったところ、生徒数が少なく、手厚くてここに決めようと思いました。ソトス症候群の子はとても少ないから、こうした経験話もなかなか得る機会がありません。
「関西ソトス会」で共有できたらいいし、続けていきたいと考えています。
18歳からの進路が心配ではあるが、笑顔を見るのが幸せ
――今、いちばん心配していることはどんなことでしょうか?
河本 何より翔馬の将来が心配です。現在は小学生で視覚支援学校に通っています。中学、高校まではそのまま通うと思いますが、18歳以降どんな進路を選んだらいいのか、ずっと考えています。障害者枠の就職は難しい気がしていますが、就労継続支援B型で働けたらいいなと思っています。翔馬ももう11歳になりました。18歳まであと数年です。そのときにどんな選択をするべきか、少しあせっているところです。
――今、いちばん幸せを感じるのはどんなときですか?
河本 子どもたちが楽しそうに笑っているときです。私もうれしくなります。あとは、充実した1人時間を過ごせたときも幸せです。やっぱり自分のメンタルを保たないと、子どもに優しくできないので。自宅に友だちを呼んでおしゃべりをしたり、親に子どもを預けて食事に行ったりすることもあります。
不安なことはたくさんありますが、翔馬も遙馬も、それぞれが自立できたらいいなと思います。
【水本先生から】当事者家族が情報交換する場も応援したい
私たち医療スタッフは、健康管理や合併症について医学的な知識を提供することはできますが、社会的な悩みにお答えするのは難しいことがあります。まれな診断の場合、得られる情報が少なく、未来を予測することの難しさがご家族の不安を大きくすることでしょう。最近ではSNSを通じて情報共有できる機会が増えていますが、ご家族が直接集まって時間を過ごす場は、とても貴重なものだと感じます。翔馬くんとご家族が過ごす「今」を、これからも応援していきたいと思います。
お話・写真提供/河本翼さん 監修/水本洋先生 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部
仕事に子育てに取り組みながら、同じ悩みを抱えるママ・パパが集まれる場所を作っている河本さん。SNSでも積極的に発信し、ソトス症候群への理解を深める一助となっているようです。今後も河本さん一家が笑顔で過ごせるよう願っています。
「たまひよ 家族を考える」では、すべての赤ちゃんや家族にとって、よりよい社会・環境となることを目指してさまざまな課題を取材し、発信していきます。
河本翼さん(かわもとつばさ)
PROFILE
生後4カ月で長男がソトス症候群と診断される。関西を中心にソトス症候群の子どもと親が集まる「ソトスの会」を定期的に開催している。
水本洋先生(みずもとひろし)
PROFILE
北野病院 小児科副部長。北野病院 小児科新生児部門主任部長。日本小児科学会認定専門医。日本小児科学会認定指導医。専門領域は、新生児蘇生、蘇生教育。
●記事の内容は2025年1月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。