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日本のシングルマザーはもっと声をあげていい!「苦境におちいっても希望があることを忘れないでほしい」【映画プロデューサーに聞く】

更新

日本のシングルマザーは困っていても声を上げられない人もいるそう。(映画「取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境」より)

日本のシングルマザーの苦境を描いたドキュメンタリー映画「取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境」は、海外で高く評価され、多くの賞を受賞しました。
「日本は経済的に恵まれている人ばかりだと思っていた。豊かな日本で、シングルマザーが取り残され、困っているとは知らなかった」というような感想が寄せられているのです。
自身もシングルマザーだった経験をもつプロデューサーの及川あゆ里さんは、困っているシングルマザーが声を上げられず、1人で苦しんでいる状況を訴えたかったと言います。

最初は「困っているシングルマザーは存在しない」とさえ思いこんでいた

母親が困窮すると、子どもにも影響をもたらすといいます。(映画「取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境」より)

――この映画のプロデューサーを務めることになったきっかけを教えてください。

及川さん(以下敬称略) ライオーン・マカヴォイ監督から「日本では経済的に困窮し、孤立しているシングルマザーがいるらしい。このテーマでドキュメンタリー映画を作りたい」と相談されました。

でも、当時の私はまったく興味がありませんでした。私自身が元シングルマザーですが、周囲で困っているシングルマザーを見たこともなかったし、話にも聞いたことがなかったからです。

私は25歳で結婚して2人の子どもを出産し、長男が18歳、長女が11歳のときに離婚して家を出ました。元夫はとてもいい人でしたが、「夫は仕事をして、妻は専業主婦として家を守る」というような家庭にあこがれていたようで・・・。
残念ながら、外で働きたい私とは価値観が合わなかったんです。結婚前にはその価値観の違いに気づけず、長年ぎくしゃくしましたが、ついに私から別れを切り出し、離婚することになりました。

――離婚する際、養育費などの話し合いはしましたか?

及川 養育費の話はしませんでした。「お金の話をする必要はない」と感じていたし、「私から別れを言い出したのに、彼にお金の負担をさせるのはずうずうしいのでは?」とも思ったんです。結局、養育費はもらわず、行政からの支援も受けませんでした。どこに窓口があるか調べるのも大変なうえに、私自身が決めたことについて自身で責任をもたなきゃ、という気持ちが強かったんです。

経済的な不安はありましたが、女手ひとつで2人の子どもたちを育てました。そのことで周囲からはほめられたりして、私も誇りにさえ感じていて・・・。「私だって頑張れたんだから、ほかの人たちだって同じように1人で子育てできるはず」とさえ考えていたんです。

今振り返れば本当に誤った認識でした。私の考えは、ほかのシングルマザーを追いつめる、加害者としての面も持っていたんです。それに気づいたのは、私と監督の共通の友人の身に起こった、ある出来事がきっかけとなりました。

つらくても我慢している人がたくさんいると気づく

子ども食堂など、子どもたちへの支援を行う活動。(映画「取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境」より)

――友人はどんな経験をしたのでしょうか?

及川 友人の夫は浮気をして家に帰らず、生活費を渡さなくなりました。さらに、3人いる子どもの1人ががんを患ってしまって・・・。それでも友人の夫は「お前たちとは縁を切りたい」と言いはなち、病院にお見舞いも来なかったそうです。でも離婚するとなると、友人と子どもたちが住んでいた家に住み続けることが難しいのに家の住宅ローンだけが残り、非常に追い詰められた状況でした。でも彼女は、「人に迷惑をかけたくない」と、じっと耐えていました。

監督は、彼女が我慢しているのが不思議でしかたがなかったようです。「なぜ彼女は戦わないんだ?離婚して養育費を請求したり、行政に助けを求めたりしたらいいのに」と言っていました。

それに対して私は、「外国人のあなたにはわからないだろうけど、日本人は人に迷惑をかけてはいけないと思っているんだよ。自分で何とかしようと頑張っている。離婚したとき、養育費を受け取るのも、施しを受けるみたいで恥ずかしいと感じる人は少なくないはず。
シングルマザーが女手ひとつで子どもを育てるのは、日本人女性の美徳です」と当たり前のことのように話していました。

監督は、私の言い分をまったく理解できなかったようです。「何を言っているの?困っていたら助けを求めるのは当たり前。それに養育費は子どもが受ける当然の権利だよ。行政のサポートはないの?」とけげんな顔をしたんです。

その言葉にハッとしました。彼から指摘を受けて初めて、私の考えは間違っていたのかもしれないと感じました。
それから彼が取り組んでいたシングルマザーの映画の製作に協力し始めるようになりました。だんだん日本におけるシングルマザーの置かれた状況を知り、のめりこんでいきました。

支援を受けたくても、どこに行けばいいのかわからないケースが多い

自身もシングルマザーで子ども食堂を運営する女性。(映画「取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境」より)

――実際に映画製作に協力し、どのように感じましたか?

及川 以前の私は「日本は豊かな国で、困窮している人はいない」と思っていました。でも実際は「多くの人が、ほかの人と同じ行動をするべきと思っている。困ったことが起きても、足なみを乱したくないため、じっと我慢している人がたくさんいる」のだと知りました。助けを求めるより前に、まず人目を気にしてしまうのです。

また、女性の再就職の難しさもシングルマザーが困窮する理由のひとつに挙げられます。日本では女性が一度会社を退職すると、正規職員として復帰するのが難しかったり、低所得の仕事しか見つからなかったりしがちです。子どもがいる女性だと、ますます仕事は見つかりにくいケースが多いです。

――行政のサポートなどはないのでしょうか?

及川 行政やNPO法人などが行っている支援もあります。でも、情報が集約されず、わかりにくいのが現状です。サポートを受けたかったら、窓口を自分で探さないといけません。でも離婚してメンタルが弱っているときは、積極的に動けないのが現実です。

監督はオーストラリア出身です。実は彼の妹が最近離婚をしましたが、話を聞いてみるとオーストラリアでの離婚手続きは、日本とはまったく異なるシステムでした。

――オーストラリアではどんなシステムなのでしょうか?

及川 離婚届を取りに行くと、窓口で「離婚したらこんな支援がある」とか、「こういう手続きが必要です」という説明をひと通りしてくれるそうです。離婚に関する情報がひとつの窓口に集約されていて、取り組むべきことを全部教えてもらえるんです。

養育費の制度も日本と海外では異なります。日本では離婚した男性が養育費を払うことが義務ではありません。それに対し、海外では多くの国では養育費は払うものですし、養育費の未払いが生じたら、さまざまな免許の停止措置や、給与を差し押さえられる場合も少なくありません。

もちろん、海外のシングルマザーも決して恵まれた環境にいるわけではないのです。でも日本と大きく異なるのは、困っていたらきちんと声を上げていることです。サポートを受けるのは、当然の権利だと考えられています。

映画公開後、海外からの大きな反響に驚く

海外では高い評価を得て、多くの賞を受賞しました。

――実際に映画を公開し、どんな反響がありましたか?

及川 海外から大きな反響があったことに驚きました。「日本は経済的に恵まれている人ばかりだと思っていた。豊かな日本で、シングルマザーが取り残され、困っているとは知らなかった」という多くの感想をもらいました。
海外からは支援をしたいという声もたくさんいただきました。協力し合う、支援するという感覚が強いんだと感じました。日本でも「シングルマザーのスキルアップのために使ってほしい」と、パソコンを譲ってくれる人などがいて、ありがたかったです。

――及川さん自身が映画にかかわり、感じたことを教えてください。

及川 シングルマザーのドキュメンタリー映画にかかわったことで、私自身が抱き続けていた生きにくさ、苦しさの原因がわかった気がします。これまでの私は、「どうして妻としても主婦としてもうまくできないんだろう。離婚したのも、全部自分のせい」と強い自責の念があったんです。
それは、知らず知らずのうちに「妻は夫を立てて家を守るべき」などといった固定概念に縛られていたからだと気づきました。社会の常識を優先し、自分の気持ちを抑えていたからつらかったんです。

でも、社会の常識や固定概念は絶対的な正解ではないです。「それっておかしくない?」と疑問を抱くのは誤りではなく、もっと自分を大切にすることを優先していいと思います。そうすることで、もっと生きやすい社会になる気がします。

また、シングルマザーたちはプライドをもって子育てをしています。とてもたくましく、けっして「かわいそうな人」ではありません。大変な状況であっても、しっかり前を向き、輝いている人たちです。必ず希望はあるのだと感じました。

――この映画はどんな人たちに観てほしいですか?

及川 最初は、自分の娘に観てもらいたいと思っていました。私と同じように「女性はこうあるべき」という固定概念に縛られて、1人で苦しまないでほしいからです。性別や年齢問わず、さまざまな人に観てもらい、現在の日本が抱える問題について考えてほしいです。

【ライオーン監督から】映画を上映するために、日本中の映画館に連絡

この映画を製作するにあたり、300件ほどの子ども食堂と、10数件のシングルマザーにかかわるNPO法人に問い合わせをしました。
でも、返事が来たのは子ども食堂はほんの数件、NPO法人は1件だけでした。
苦境に置かれた人たちは、そのことを知られたくないと考えてしまっているのだと感じました。こうした状況を知ってもらいたくて、映画完成後は日本中の映画館に直接連絡をして、上映できる映画館を探しました。現在はドキュメンタリー映画としては異例ともいえるほど多くの人に観ていただいています。この映画が、困っている人が声を上げられるきっかけになることを願っています。

お話・写真提供/及川あゆ里さん 取材・文/齋田多恵、たまひよONLINE編集部

日本のシングルマザーを取り巻く状況は、あまり知られておらず支援が届いていない状況にあります。自身も元シングルマザーだったというプロデュサーの及川さんの「自身の息苦しさを我慢するべきあたりまえのこと、と間違って考えていた」という言葉が印象的でした。
個人の気持ちを尊重し、だれも取り残されない社会にしていくにはどうしたらいいのか考えさせられました。

及川あゆ里さん(おいかわあゆり)

PROFILE 
映画プロデューサー。ドキュメンタリー映画「取り残された人々:日本における シングルマザーの苦境」やBBC StoryWorksの短編企業ドキュメンタリーでリード・プロデューサーを務める。日本教育の矛盾や個人の生き方など、多岐にわたる社会問題を深く掘り下げ、新たな視点を提示する力強いメッセージを届けている。

ライオーン・マカヴォイ監督

PROFILE
映像作家。プロレスラー。オーストラリア出身、東京滞在22年。ドキュメンタリー映画「取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境」は多くの国で高く評価された。国際映画祭、国内映画祭(宮古島国際映画祭ドキュメンタリー部門最優秀作品賞や、石垣島湘南国際ドキュメンタリー映画・長編部門観客賞)を受賞。

映画「取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境」

シングルマザーの苦境や日本における子どもの貧困問題について、素直に疑問として映像化したことで世界各国の映画祭で数々の賞を受賞。戦後、短期間で経済の急成長を遂げ豊かになった日本だからこそ起きた「隠された貧困」がテーマ。今までなかなか描かれなかったシングルマザーの苦悩をさまざまな角度から取材し、不平等な社会的背景の原因をひも解いてゆく。
【上映予定】
●2025年5月2日(金)~5月15日(木) 高円寺シアターバッカスにて(東京都杉並区)
●2025年6月6日(金)から1週間 宇都宮ヒカリ座にて(栃木県宇都宮市)

「取り残された人々:日本におけるシングルマザーの苦境」HP

●記事の内容は2025年3月当時の情報であり、現在と異なる場合があります。

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